マニーフェイク・フレンズ

天宮叶

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なにこれ

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リビングのテーブルに置かれたドラッグストアのマークがプリントしてあるレジ袋を見つめながら買ってしまったと後悔した。

袋から覗く香水入りの箱がパンドラの箱の様にも思えて触るのにすら躊躇してしまうのは、まるで俺がストーカーみたいに彼の匂いに似た物を選んでしまった罪悪感からだろうか。

自分がいったい何をしたいのかまるで分からなくて混乱する。

まだ数回しかあったことの無い彼のことをこんなにも考えてしまうのはバージンを奪われたからなのか…はたまた別な理由なのか。

「あ~…」

ソファーにバンザイするみたいに寝転がってぐでーっとなる。

お風呂も既にすませてしまったし、最近はご飯を食べるのも億劫で腹が減った時に適当に惣菜を買って食べるくらいだから今日はもう寝るだけだ。

ぱーっと酒を飲みたい気もするけど明日も仕事だし腹に何も入れてない状態だと悪酔いしそうな気がして辞めておこうと飲みたい気持ちをグッと我慢する。

結局、態勢がきつくなって起き上がるとおもむろにテーブルに置かれた香水を取り出して開封した。

悩むのは性にあわないし、いつまでも開けないのでは勿体ない。

今日開けなかったらきっとそのまま部屋の飾りになるだけだと思って箱からビニールを剥がして中身を取り出した。

重厚感のある瓶に入ったそれはまだ吹き掛けていないのに少しだけふわりと香ってくる気がする。

風呂に入ったのに何となく手首に1回だけ軽く吹きかけてみると清涼感のある甘い匂いがしっかりと漂ってきて、思わずごろりとまたソファーに寝転んで手首を鼻に近づけて香りを堪能する。

まるで月見さんに包まれてるみたいだ。

彼から与えられた熱も言葉も何もかもがダイレクトに思い出されて後ろが疼く気がした。

あのしなやかな白い手に指を絡ませて温もりを感じていたい。

柔らかくておだやかな彼の声を聞いていたい。

この匂いを嗅いでいると酷く恋しくて、独りが寂しくて何故だか泣きたくなる。

会いたい…。

ただ隣にいるだけでいいから俺の傍にいて欲しい。

月見さんの笑顔を見たい。

持て余した感情がこの匂いをトリガーに溢れてきて、それでもこの感情を認めることに抵抗が残る。

「…なんなんだよ…」

俺はこのどうしようもない感情を少しでも軽減させたくて彼を思い浮かべながら匂いのする自分の手首に1つキスを落とした。

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