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地味な生徒

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まだ俺が6歳の時、叔母様の結婚式のために連れて行かれたエーデルシュタイン公爵家の中庭で天使と出会った。

会場に着いた瞬間微かに香ってきたいい香りに誘われるように、お母様の言いつけを破って1人でその匂いを追いかけたんだ。

その先で、1人涙を流す小さな男の子を見つけたんだ。

迷子になったのかその子はわんわん大きな声を出して泣いていて、俺はその子に話しかけるとずっと傍にいるよって隣に寄り添ってその子の両親が迎えに来るのを一緒に待ってあげた。

綺麗なプラチナブロンドの髪と薄いグレーの混ざった水晶みたいな青い瞳に透けるような真っ白な肌がこの世のものとは思えないくらい綺麗で可愛らしかったのを今も鮮明に覚えている。

学園の通路を歩きながら、昔のことを思い出して小さくため息を吐き出した。窓から吹く風に長い前髪が揺られてウザったく感じる。

目にかかった前髪を手で払うと、カチャリとかけている伊達眼鏡が揺れて、それにもうんざりした。

俺の通うここ、アルバ学園は俺が生まれて直ぐに建てられた学び舎だ。

平民も貴族も関係なく通えるこの場所は現皇后であるリュカ皇后陛下が発案したもので、当時は難色を示す貴族も多かったらしいが、皇后陛下を溺愛する皇帝陛下と宰相様が無理矢理押し通したそうだ。

「見て見て、エイデン様よっ」

「きゃー!あっ、セレーネ様もご一緒よ!目の保養だわ~」

廊下の先に人集りを見つけて、遠巻きにそれを眺めているとそんな声が耳に届いて俺はぐっと唇を噛み締めた。

エイデンはこの学園の人気者で、黒い髪にオレンジがかった太陽のような瞳を持つ辺境伯爵家の子息だ。

そして、その隣にいる一見女性にも見える華奢な彼はミラー公爵家の子息のセレーネ=ミラー。

俺の想い人だ。

光り輝くプラチナブロンドの髪と大きなグレーがかった青い瞳に白い肌。

その美しい見た目から天使と比喩られることも多い彼はこの学園で最も大事にされている花人かじんだ。

花人は月に1度定期的に花のような香りを漂わせる特異体質を持った人のことで、男でも妊娠することができ、天人あまびとの出産率が高いため国で大事にされている。

天人というのは、花人の匂いを嗅ぎ分けることの出来る人のことで、大抵の天人が高官や高位貴族に在籍しており人の上に立つ者は天人がほとんどだ。

花人と天人は契りを結ぶことができ、契りを交わした2人は永遠に離れられなくなるそうだ。

そして、エイデンは天人だ。

あの二人は付き合っているのだとよく噂で耳にする。

まだ契りを交わしてはいないようだが……。

それを聞く度に、胸の奥がズキズキと痛んで苦しくなるんだ。

エイデンは皇后陛下と皇帝陛下に髪の色と瞳の色が似ているために実は隠し子では無いかという噂があったりする。

その噂の発端は、現皇太子が人前にまったく姿を見せたことがなく皇太子の姿を知っているものが限られていることと、皇太子がこの学園に在籍しているという話が出ていることから起因しており、皆エイデンこそが皇太子だと信じている。

俺は人集りから顔を逸らすと、集団に背を向けて元来た道を戻っていく。

「……うんざりだ……」

セレーネとエイデンが中睦まじそうにしているのを見る度にそう思う。

あの日のことを彼は覚えているんだろうか……。

俺より1つ学年が下の彼がエイデンを追いかけて、高学年のクラスまで来ているのをよく見かける。

その度にこんな気持ちになるのに、初恋を忘れられない俺はきっと馬鹿だ。
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