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悪魔に嘘をつくことはできない
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明明後日に迫る学園。
今は前世でいえば夏休みのようなもので、一カ月の休みが与えられ、実家に帰ってゆっくりする者もいれば、旅行にいくものもいる。
ルミエラは実家に帰ってゆっくりしていたわけだけれど。
もうゆっくりしているわけにはいかない。
学園に戻れば寮制度の為、あっちでの生活に戻ることになる。
「…どうしよう」
可愛い制服を見て溜め息が出る。
前にもいった通り、学園での生活なんて死亡フラグのオンパレード。いつ殺されるかたまったもんじゃない。
あぁ、胃がキリキリしてきた…。
「お嬢様、どういたしましたか?顔色がよろしくないようですが」
「いえ、なんでもありませんの。ただ悪魔のような笑顔が脳裏にこびりついて離れなくて…」
もちろん、リュアンのことだ。
リュアンのあの悪魔の笑み。
また一緒に出かけると思うとおそろしい。でも、約束をしてしまったし。
「そうですか。ご病気でなくて良かったです」
侍女のマリーが安心したようにほっと息を吐いた。全然良くはないのだけれど。
っと、まてよ。今マリーはなんて言った?
「マリー、なんて言ったの、今」
「ご病気でなくて良かったと申し上げました」
「そうよっ!それよっそれ!!!」
食ってかかるようにマリーに迫りながら、私はあることを思いついた。
マリーは私の様子にひいているが、関係ない。
そう、ご病気になればいいのだ。つまり、仮病を使ってリュアンを騙せばいい。
その時、私の部屋のドアを誰かがノックした。
「お嬢様、セバスにございます。リュアン様が会いに来られました」
「リュアン様が!?」
なんで私の家に来てんのよって突っ込みたくなるけど、それどころではない。来たのはしょうがないけれど、帰ってもらおう。
もちろん、仮病で騙して。
「リュアン様には、風邪だと言って追い返して!会いたくないの、絶対」
マリーが私の言葉にギョッと目を見開く。
まぁ、それもそうだろう。第二皇子がわざわざ会いに来たというのに嘘をついて追い返そうと言うのだから。
次に聞こえて来た返事は、セバスのものではなく、なんと…
「本人がいる前で仮病を使おうなんていい度胸ですね、ルミエラ様」
その声に血の気が引いていく。
同じように、マリーもだ。
「も、もしかしなくもないですが、リュアン様…?なわけ、ないですよね…?」
「もしかします」
終わったー。
「マ、マリー、この部屋に隠し扉などは付いていなかったかしら。もしくはここは一階だと言って?」
「この部屋は隠し部屋などは付いておりません。それに、3階です」
ですよねー。
「ルミエラ様、往生際が悪いですよ。怒ってないから安心してください」
その声はたしかに起こった口調でもないし、声色でもない。
「お嬢様、ドアを開けますよ」
そうセバスに聞かれ、私は渋々了承した。
そして、入ってきたリュアンは、神々しいほどの黒ーいブラックスマイルをお見舞いしてきた。
「お、お久しぶりです」
「えぇ、四日ぶりですね」
「あ、あの。今日は一体どういったご用件で?」
「今日はパーティーの招待状を届けに。本当は使いの者に行かせても良かったのですが、ルミエラ様に会いたかったため、直々に来ました」
とりあえず最後の方は無視して、「パーティーですか?」と聞き返した。
「はい、お祖母様の誕生パーティーです。僕のパートナーをあなたにお願いしたくて」
「えっ…」
あからさまに顔を顰めてしまったため、マリーに「お嬢様っ」と怒られた。
だって、私もうなんにも関係ないし。
そもそも、パーティーに行ったとして、絶対ビッチ呼ばわりされるだけなのだから。
「大丈夫です、仮面パーティーですから。それに、ウィッグを見繕ってあります」
「残念ですけど、夜は予定が入っていて。本当に残念なのですが、お断りさせていただいてもよろしいですか?」
「そうですか…」
あからさまにしゅん…と落ち込んだリュアン。
でもそんなことしても無駄だからね?絶対行かないからね?
「じゃぁ、僕はこれで失礼します」
そう言ってリュアンは帰って行った。
そのあと、マリーに第二皇子に二回も嘘をつくなんて!と二時間に渡るお説教をされた。
でも、お説教だけならまだいい。だって、パーティーなんて行ったらどうなるかわかったもんじゃないのだから。
リュアンが潔く諦めてくれて良かった。
…そう、思っていたのだが。
「ルミエラ様、お迎えにあがりました」
そう、ニッコリ笑って、悪魔は外から笑いかける。
今すぐ窓を閉め、カーテンを閉じて今視界に見える悪魔を幻だったと思いたい。
「リュアン様、あの…どうしてこちらに?」
「もちろん、ルミエラ様とパーティーにいくためです」
だから、そう言われても。
「お嬢様、諦めて下さい」
マリーに後ろからそう言われ、私は仕方なく諦めた。
そのあとは早かった。
マリーが私に似合うドレスを選び、あれよあれよと言う間に支度は整った。
そして、下に降りればリュアンがどうぞとウィッグを渡して来た。黒髪のストレートのウィッグで、それをつけるだけで雰囲気がガラリと変わり、きっと私だなんて誰も思わない。
「そういえばルミエラ様、予定が入っているんじゃなかったんですか?」
ないとわかっていながらも、尚それを聞くか、この鬼畜悪魔。
「なくなったんです…」
「良かったです。じゃぁ、行きましょうか」
だから、なんも良くないよ。
リュアンに手を差し出されるが、やっぱりその手を取ろうかどうか迷う。
黒髪だし仮面もつけるし、喋らなければバレないとは思うけれど、でも…。
「ルミエラ様、僕に恥をかかせる気ですか?」
ニッコリとそう言ってのけるこの悪魔は本当に恐ろしい。
私は涙虚しく、リュアンの手を取った。
私は今、とてつもなくやばい状況に立たされている。
目の前にはウィルニーとイアナが。
私の横にリュアンの姿はない。
「お前はリュアンのなんだ?バルトーニ家の侯爵令嬢とのことだが、どこに住んでいる?聞いたことのない家名だが」
そうウィルニーが問いかける。
「わ、わたくし、リュアン様とはご学友なのです」
「ほう?そんな友があいつにもいたのか」
「はい。家は、侯爵といっても名ばかりなもので。ご存知ないと言う方も沢山います」
ワントーン声を高くしておどおどとそう喋る。
「リュアン君にもこんな素敵なお友達がいたのね。学園ではずっと一人でいたから心配だったの!でも良かった」
そう微笑むイアナは流石ヒロインというだけのことはある。とても魅力的で可愛らしい人だ。
「では、私はこれで失礼しま…」
「待て。髪に埃が付いている」
そう言ってウィルニーが手を伸ばして来たかと思うと、私とウィルニーの間にスッとリュアンが割って入って来た。
「兄さん、何をやってるんですか?お祖母様が探しておられましたよ。新しい婚約者を紹介して来たらどうですか?」
「まだイアナは婚約者じゃない。お前は黙っておけ」
「あぁ、すいません。早とちりをしてしまいました」
ウィルニーの言葉に目を見張る。てっきり、私はもう二人は婚約を結んでいたと思っていたのだから。
「イアナ、お祖母様の元に行ってくる」
「私も行ってもいい?」
「…あぁ。もちろんだ」
二人はこの国の王太后、アルデナ様のところへと向かった。
その矢先、リュアンが私の髪についていた埃を取ってくれた。かと思うと、ぐいっと腕を引っ張られて、バルコニーへと連れて行かれた。
バルコニーには人がいなく、皆まだ挨拶回りをしているようだった。
「あの、リュアン様?」
「…ルミエラ様、もっと危機感を持って下さい」
「え?」
危機感って、持ちまくりですけど?だって、いつ殺されるか分からないし。
「簡単に触れられないで下さい。だってあなたは…」
何かを言おうとしたけれど、リュアンは「なんでもないです」と誤魔化すようにして笑った。
「とにかく、気をつけて下さいね。気をつけていないと」
リュアンの顔が間近に迫り、頬に柔らかなものが触れ、それと同時にチュッというリップ音が響いた。
「こういうことされるから」
私はただキスされた頬を手で押さえることしかできなくて、信じられないという目でリュアンを見つめる。
「だから言ったじゃないですか。危機感が足りないって」
ふっと笑ったリュアンは、「一曲どうですか?」とダンスに誘ってくる。
流れるように、というかもう流されっぱなしなのだけど、この悪魔はなんでこんなにも切り替えが早く、手も早いんだろうか。
仕方なく、差し伸べられた手を取り、一曲付き合った。
ダンスが得意かどうかと言われると微妙だけれど、あまりにもリードがうますぎる。
この悪魔に欠点というものがないのだろうか。
「お上手ですね、ダンス」
そう言うと、リュアンは「何年もしごかれてますから」と笑った。
「それに、ルミエラ様はとても踊りやすかったです」
「そうですか?」
「僕の動きに従順で」
王子スマイルと打って変わって、悪魔スマイルに切り替えたリュアン。
確かに、リードがうまくて任せていたけれど、別に、従順にしていたつもりはない。
「そんな恨めしそうに睨まないで。嘘ですから。でも、本当に踊りやすかったです」
調子が狂うというか何というか。
この悪魔に敵うものなどいるのだろうか。
「あっ、そうだルミエラ様。お祖母様があなたを呼んでいたんです。行きましょうか」
「え?アルデナ様がわたくしを?」
「はい」
私はリュアンの跡について行き、アルデナ様の元へと向かった。
アルデナ様は他の奥方様に囲まれていたけれど、孫と話がしたいというと奥方様達はあっという間に散った。
今年で72歳になられるアルデナ様はシワが少なく、さすが王族の血族というだけあり、顔はとても整っていて、美しい。72歳とは思えないような美貌だ。
「久しぶりね」
「お久しぶりです、王太后様」
「あら、前にも言ったでしょう?アルデナと呼んで頂戴と」
「は、はい。アルデナ様」
そういうと、優雅に美しく微笑んだアルデナ様は「こちらに来て」と私を呼んだ。
「婚約を解消されたそうね。あの馬鹿な孫がごめんなさいね」
「いえ、わたくしは別に気にしていないので大丈夫ですわ」
「そういうわけにもいかないわ。だって、わたくしはあなたを気に入っているんですもの。ぜひ孫娘になって欲しかったのに」
「えっ?」
確かに、昔からよくしてくれるとは思っていたけれど、まさかそんなことを思っていたなんて。
「まぁ、でも…」
ちらりとリュアンの方を見たアルデナ様は、ふふっと可愛らしく微笑んだ。
「応援しているわ、頑張って頂戴」
「はい、お祖母様」
謎のテレパシーでなんの話をしているのかわからなかった。
「じゃぁまたね、ルミエラ。今度ゆっくりお茶会でもしましょう」
「え?あ、ありがとうございます」
本当にこの約束の取り付けがあまりにも自然すぎて断ることができない。もしかしたらリュアンはアルデナ様に似たのかもしれない。
そのあと、私はリュアンが家に送ると言ってくれて、パーティーの途中だったけれど、お言葉に甘えて家まで送ってもらい、リュアンは王城に戻って行った。
今は前世でいえば夏休みのようなもので、一カ月の休みが与えられ、実家に帰ってゆっくりする者もいれば、旅行にいくものもいる。
ルミエラは実家に帰ってゆっくりしていたわけだけれど。
もうゆっくりしているわけにはいかない。
学園に戻れば寮制度の為、あっちでの生活に戻ることになる。
「…どうしよう」
可愛い制服を見て溜め息が出る。
前にもいった通り、学園での生活なんて死亡フラグのオンパレード。いつ殺されるかたまったもんじゃない。
あぁ、胃がキリキリしてきた…。
「お嬢様、どういたしましたか?顔色がよろしくないようですが」
「いえ、なんでもありませんの。ただ悪魔のような笑顔が脳裏にこびりついて離れなくて…」
もちろん、リュアンのことだ。
リュアンのあの悪魔の笑み。
また一緒に出かけると思うとおそろしい。でも、約束をしてしまったし。
「そうですか。ご病気でなくて良かったです」
侍女のマリーが安心したようにほっと息を吐いた。全然良くはないのだけれど。
っと、まてよ。今マリーはなんて言った?
「マリー、なんて言ったの、今」
「ご病気でなくて良かったと申し上げました」
「そうよっ!それよっそれ!!!」
食ってかかるようにマリーに迫りながら、私はあることを思いついた。
マリーは私の様子にひいているが、関係ない。
そう、ご病気になればいいのだ。つまり、仮病を使ってリュアンを騙せばいい。
その時、私の部屋のドアを誰かがノックした。
「お嬢様、セバスにございます。リュアン様が会いに来られました」
「リュアン様が!?」
なんで私の家に来てんのよって突っ込みたくなるけど、それどころではない。来たのはしょうがないけれど、帰ってもらおう。
もちろん、仮病で騙して。
「リュアン様には、風邪だと言って追い返して!会いたくないの、絶対」
マリーが私の言葉にギョッと目を見開く。
まぁ、それもそうだろう。第二皇子がわざわざ会いに来たというのに嘘をついて追い返そうと言うのだから。
次に聞こえて来た返事は、セバスのものではなく、なんと…
「本人がいる前で仮病を使おうなんていい度胸ですね、ルミエラ様」
その声に血の気が引いていく。
同じように、マリーもだ。
「も、もしかしなくもないですが、リュアン様…?なわけ、ないですよね…?」
「もしかします」
終わったー。
「マ、マリー、この部屋に隠し扉などは付いていなかったかしら。もしくはここは一階だと言って?」
「この部屋は隠し部屋などは付いておりません。それに、3階です」
ですよねー。
「ルミエラ様、往生際が悪いですよ。怒ってないから安心してください」
その声はたしかに起こった口調でもないし、声色でもない。
「お嬢様、ドアを開けますよ」
そうセバスに聞かれ、私は渋々了承した。
そして、入ってきたリュアンは、神々しいほどの黒ーいブラックスマイルをお見舞いしてきた。
「お、お久しぶりです」
「えぇ、四日ぶりですね」
「あ、あの。今日は一体どういったご用件で?」
「今日はパーティーの招待状を届けに。本当は使いの者に行かせても良かったのですが、ルミエラ様に会いたかったため、直々に来ました」
とりあえず最後の方は無視して、「パーティーですか?」と聞き返した。
「はい、お祖母様の誕生パーティーです。僕のパートナーをあなたにお願いしたくて」
「えっ…」
あからさまに顔を顰めてしまったため、マリーに「お嬢様っ」と怒られた。
だって、私もうなんにも関係ないし。
そもそも、パーティーに行ったとして、絶対ビッチ呼ばわりされるだけなのだから。
「大丈夫です、仮面パーティーですから。それに、ウィッグを見繕ってあります」
「残念ですけど、夜は予定が入っていて。本当に残念なのですが、お断りさせていただいてもよろしいですか?」
「そうですか…」
あからさまにしゅん…と落ち込んだリュアン。
でもそんなことしても無駄だからね?絶対行かないからね?
「じゃぁ、僕はこれで失礼します」
そう言ってリュアンは帰って行った。
そのあと、マリーに第二皇子に二回も嘘をつくなんて!と二時間に渡るお説教をされた。
でも、お説教だけならまだいい。だって、パーティーなんて行ったらどうなるかわかったもんじゃないのだから。
リュアンが潔く諦めてくれて良かった。
…そう、思っていたのだが。
「ルミエラ様、お迎えにあがりました」
そう、ニッコリ笑って、悪魔は外から笑いかける。
今すぐ窓を閉め、カーテンを閉じて今視界に見える悪魔を幻だったと思いたい。
「リュアン様、あの…どうしてこちらに?」
「もちろん、ルミエラ様とパーティーにいくためです」
だから、そう言われても。
「お嬢様、諦めて下さい」
マリーに後ろからそう言われ、私は仕方なく諦めた。
そのあとは早かった。
マリーが私に似合うドレスを選び、あれよあれよと言う間に支度は整った。
そして、下に降りればリュアンがどうぞとウィッグを渡して来た。黒髪のストレートのウィッグで、それをつけるだけで雰囲気がガラリと変わり、きっと私だなんて誰も思わない。
「そういえばルミエラ様、予定が入っているんじゃなかったんですか?」
ないとわかっていながらも、尚それを聞くか、この鬼畜悪魔。
「なくなったんです…」
「良かったです。じゃぁ、行きましょうか」
だから、なんも良くないよ。
リュアンに手を差し出されるが、やっぱりその手を取ろうかどうか迷う。
黒髪だし仮面もつけるし、喋らなければバレないとは思うけれど、でも…。
「ルミエラ様、僕に恥をかかせる気ですか?」
ニッコリとそう言ってのけるこの悪魔は本当に恐ろしい。
私は涙虚しく、リュアンの手を取った。
私は今、とてつもなくやばい状況に立たされている。
目の前にはウィルニーとイアナが。
私の横にリュアンの姿はない。
「お前はリュアンのなんだ?バルトーニ家の侯爵令嬢とのことだが、どこに住んでいる?聞いたことのない家名だが」
そうウィルニーが問いかける。
「わ、わたくし、リュアン様とはご学友なのです」
「ほう?そんな友があいつにもいたのか」
「はい。家は、侯爵といっても名ばかりなもので。ご存知ないと言う方も沢山います」
ワントーン声を高くしておどおどとそう喋る。
「リュアン君にもこんな素敵なお友達がいたのね。学園ではずっと一人でいたから心配だったの!でも良かった」
そう微笑むイアナは流石ヒロインというだけのことはある。とても魅力的で可愛らしい人だ。
「では、私はこれで失礼しま…」
「待て。髪に埃が付いている」
そう言ってウィルニーが手を伸ばして来たかと思うと、私とウィルニーの間にスッとリュアンが割って入って来た。
「兄さん、何をやってるんですか?お祖母様が探しておられましたよ。新しい婚約者を紹介して来たらどうですか?」
「まだイアナは婚約者じゃない。お前は黙っておけ」
「あぁ、すいません。早とちりをしてしまいました」
ウィルニーの言葉に目を見張る。てっきり、私はもう二人は婚約を結んでいたと思っていたのだから。
「イアナ、お祖母様の元に行ってくる」
「私も行ってもいい?」
「…あぁ。もちろんだ」
二人はこの国の王太后、アルデナ様のところへと向かった。
その矢先、リュアンが私の髪についていた埃を取ってくれた。かと思うと、ぐいっと腕を引っ張られて、バルコニーへと連れて行かれた。
バルコニーには人がいなく、皆まだ挨拶回りをしているようだった。
「あの、リュアン様?」
「…ルミエラ様、もっと危機感を持って下さい」
「え?」
危機感って、持ちまくりですけど?だって、いつ殺されるか分からないし。
「簡単に触れられないで下さい。だってあなたは…」
何かを言おうとしたけれど、リュアンは「なんでもないです」と誤魔化すようにして笑った。
「とにかく、気をつけて下さいね。気をつけていないと」
リュアンの顔が間近に迫り、頬に柔らかなものが触れ、それと同時にチュッというリップ音が響いた。
「こういうことされるから」
私はただキスされた頬を手で押さえることしかできなくて、信じられないという目でリュアンを見つめる。
「だから言ったじゃないですか。危機感が足りないって」
ふっと笑ったリュアンは、「一曲どうですか?」とダンスに誘ってくる。
流れるように、というかもう流されっぱなしなのだけど、この悪魔はなんでこんなにも切り替えが早く、手も早いんだろうか。
仕方なく、差し伸べられた手を取り、一曲付き合った。
ダンスが得意かどうかと言われると微妙だけれど、あまりにもリードがうますぎる。
この悪魔に欠点というものがないのだろうか。
「お上手ですね、ダンス」
そう言うと、リュアンは「何年もしごかれてますから」と笑った。
「それに、ルミエラ様はとても踊りやすかったです」
「そうですか?」
「僕の動きに従順で」
王子スマイルと打って変わって、悪魔スマイルに切り替えたリュアン。
確かに、リードがうまくて任せていたけれど、別に、従順にしていたつもりはない。
「そんな恨めしそうに睨まないで。嘘ですから。でも、本当に踊りやすかったです」
調子が狂うというか何というか。
この悪魔に敵うものなどいるのだろうか。
「あっ、そうだルミエラ様。お祖母様があなたを呼んでいたんです。行きましょうか」
「え?アルデナ様がわたくしを?」
「はい」
私はリュアンの跡について行き、アルデナ様の元へと向かった。
アルデナ様は他の奥方様に囲まれていたけれど、孫と話がしたいというと奥方様達はあっという間に散った。
今年で72歳になられるアルデナ様はシワが少なく、さすが王族の血族というだけあり、顔はとても整っていて、美しい。72歳とは思えないような美貌だ。
「久しぶりね」
「お久しぶりです、王太后様」
「あら、前にも言ったでしょう?アルデナと呼んで頂戴と」
「は、はい。アルデナ様」
そういうと、優雅に美しく微笑んだアルデナ様は「こちらに来て」と私を呼んだ。
「婚約を解消されたそうね。あの馬鹿な孫がごめんなさいね」
「いえ、わたくしは別に気にしていないので大丈夫ですわ」
「そういうわけにもいかないわ。だって、わたくしはあなたを気に入っているんですもの。ぜひ孫娘になって欲しかったのに」
「えっ?」
確かに、昔からよくしてくれるとは思っていたけれど、まさかそんなことを思っていたなんて。
「まぁ、でも…」
ちらりとリュアンの方を見たアルデナ様は、ふふっと可愛らしく微笑んだ。
「応援しているわ、頑張って頂戴」
「はい、お祖母様」
謎のテレパシーでなんの話をしているのかわからなかった。
「じゃぁまたね、ルミエラ。今度ゆっくりお茶会でもしましょう」
「え?あ、ありがとうございます」
本当にこの約束の取り付けがあまりにも自然すぎて断ることができない。もしかしたらリュアンはアルデナ様に似たのかもしれない。
そのあと、私はリュアンが家に送ると言ってくれて、パーティーの途中だったけれど、お言葉に甘えて家まで送ってもらい、リュアンは王城に戻って行った。
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