48 / 57
第48話 次代の勇者、城塞領主と分かち合う。
しおりを挟む
――今回のヴァステラ遠征にて最も注意すべきは、魔王不在の現魔族を統括する中核的存在であり、父を……《軍神》グリレット・ガルランダを引退に追い込んだ魔族です。
決戦前夜。
ククレ城塞にて領主ガリウスに招かれたジンには、最重要人物として上げられていた魔族がいた。
曰く、ククレ城塞を20年守り続けた《軍神》が手も足も出ないほどの強さを誇る。
曰く、従う魔獣や魔族の意志をもコントロールすることができる。
曰く、魔王復活の鍵を握る存在である
「《狡猾の魔族》、ウーヴァ・カルマ。奴を倒さないことには、ククレ城塞の危機も魔王復活への恐怖も終わることはありません。瘴気もより濃くなっている昨今、その影響はもはやククレ城塞だけに収まっていませんからね。皆が、魔法不適合者の英雄譚に夢を描くのも致し方ないことでしょう」
瘴気が濃くなればなるほど、生命は枯れ魔獣は凶暴化する。
魔獣害も日に日に増え、対応する冒険者の数も足りなくなっていた――。
そんな時、かつての伝承に描かれていたような魔法を使うジン達が現れた。
魔獣に対して極めて有効な魔法を扱うジン達に、人々はこぞって縋りだす。
《勇者魔法》などという名称も、ジンが使う魔法を皆が勝手にそう呼び始めたに過ぎない。
魔族が《魔王》の復活を心待ちにしている。
対して人類もかつて魔王を打ち倒したとされる《勇者》の出現を待ちわびていたのだ。
ガリウスは言いながら、深く頭を下げる。
「私もそのうちの一人です。ククレ城塞は冒険者パーティー《希望の旅人》をあらゆる面でサポートします。ここで奴等の侵略を防ぐためなら、いかなる金銭、人員も惜しみません。《希望の旅人》には、人類反撃の旗頭としてククレ城塞の全ての財と、全ての城兵戦力を委ねたいのです」
無論、魔獣や魔族の跋扈する今の大円森林ヴァステラはたった一つのパーティーでどうにか出来る範疇は超えている。
くわえてククレ城塞の兵士達は誰もが精鋭。そんな戦力があればジン達にとっては百人力だった。
ジンは半ば戸惑いながらもガリウスに言葉を返す。
「……ぼく達としても領主様が力を貸してくださるならこれほど頼もしいこともありません。ですが、なぜ《希望の旅人》なんですか? 領主様の元にも信頼と実績のあるお抱え冒険者はたくさんいるでしょう?」
一領主が、野良のギルドに所属する一冒険者にここまで頭を下げるのは異例のことと言ってもいい。
そんな状況下で、ガリウスは今までとは違いふっと優しい笑みを浮かべた。
「ジン・フリッツは森の奥でエルフ族に育てられて勇者の能力を開花させた、と。そういう噂を聞きました」
ジンは事あるごとに自らの恩師についてを語る。
だが誰もそんな眉唾物のエルフ族のことなど信じようとはしない。
何せエルフ族は滅多なことでは人前に姿を現さない。ジンのパーティーに加入しているラハブが異端中の異端のエルフなだけだったからだ。
更には全属性の魔法を難なく使いこなし、全てを超級レベルで使役するエルフの話など誰が信じようものか。
いつも酒の肴に使われて終わる与太話。
だが、ジンにとってはそれでも良かった。
今リースたちがどこにいるのかさえ分からないが、ジンさえ彼らを覚えていれば存在は色褪せることはないのだから。
「えぇ。とはいえ、誰もそんな何でもありのエルフ族のことなんて信じてはくれないんですが――」
「リース・クライン様、ミノリ様のお二方はさぞかしお強かったことでしょう?」
――いつものごとく笑い過ごすつもりのジンが、思わず目を丸くするほどに。
ガリウスは何も驚く様子もなく二人の名を口にした。
「な、なんで、師匠と姉弟子の名前を……?」
「父も母も私も、あなたと同じくリース様のお世話になった者の一人ですから。それに、あんな規格外の方々のことは忘れようもありません」
ガリウスは続ける。
「あなたについての話を人伝に聞いたときはすぐに分かりましたよ。リース様とミノリ様が父との約束を果たしてくれたのだと。ですから私も勇者がその能力を遺憾なく発揮できるようになるまでの間に彼らの進撃から城塞を守り抜き、準備をしてきました。今ここから、人類の反撃を始めるために」
「ぼく達のことを、待ち続けて……」
「私たちは同じリース様の門戸同士。私に出来ることがあれば何でもするつもりでした。リース様があなた方に期待したことに、私も賭けたいのです。人類反撃の先陣を切るこの大役、どうか引き受けてくださいませんか」
ガリウスの差し出してきた手を。
「希望の旅人はこれまでどんな些細な依頼でも迷わず手に取ってきました。今回も、必ずや依頼人の満足のいく結果をもたらせてみせます」
覚悟を決めたジンはぐっと握り返した――。
「ありがとうございます。それでは、これをあなたに託します」
そう言ってガリウスに渡されたのは一枚の魔方陣が描かれた紙だった。
「これはリース様がここを立ち去る際に残してくださった、《遠隔転移用の魔方陣》です。もしもウーヴァ・カルマと対峙するときが来たらこれを。城塞兵士たちをその場に召喚することができます」
「……おそらく、依頼史上ここまで手厚いサポートをもらったことはないかもしれません」
ジンは領主の心遣いに、心の底から感謝していた。
決戦前夜。
ククレ城塞にて領主ガリウスに招かれたジンには、最重要人物として上げられていた魔族がいた。
曰く、ククレ城塞を20年守り続けた《軍神》が手も足も出ないほどの強さを誇る。
曰く、従う魔獣や魔族の意志をもコントロールすることができる。
曰く、魔王復活の鍵を握る存在である
「《狡猾の魔族》、ウーヴァ・カルマ。奴を倒さないことには、ククレ城塞の危機も魔王復活への恐怖も終わることはありません。瘴気もより濃くなっている昨今、その影響はもはやククレ城塞だけに収まっていませんからね。皆が、魔法不適合者の英雄譚に夢を描くのも致し方ないことでしょう」
瘴気が濃くなればなるほど、生命は枯れ魔獣は凶暴化する。
魔獣害も日に日に増え、対応する冒険者の数も足りなくなっていた――。
そんな時、かつての伝承に描かれていたような魔法を使うジン達が現れた。
魔獣に対して極めて有効な魔法を扱うジン達に、人々はこぞって縋りだす。
《勇者魔法》などという名称も、ジンが使う魔法を皆が勝手にそう呼び始めたに過ぎない。
魔族が《魔王》の復活を心待ちにしている。
対して人類もかつて魔王を打ち倒したとされる《勇者》の出現を待ちわびていたのだ。
ガリウスは言いながら、深く頭を下げる。
「私もそのうちの一人です。ククレ城塞は冒険者パーティー《希望の旅人》をあらゆる面でサポートします。ここで奴等の侵略を防ぐためなら、いかなる金銭、人員も惜しみません。《希望の旅人》には、人類反撃の旗頭としてククレ城塞の全ての財と、全ての城兵戦力を委ねたいのです」
無論、魔獣や魔族の跋扈する今の大円森林ヴァステラはたった一つのパーティーでどうにか出来る範疇は超えている。
くわえてククレ城塞の兵士達は誰もが精鋭。そんな戦力があればジン達にとっては百人力だった。
ジンは半ば戸惑いながらもガリウスに言葉を返す。
「……ぼく達としても領主様が力を貸してくださるならこれほど頼もしいこともありません。ですが、なぜ《希望の旅人》なんですか? 領主様の元にも信頼と実績のあるお抱え冒険者はたくさんいるでしょう?」
一領主が、野良のギルドに所属する一冒険者にここまで頭を下げるのは異例のことと言ってもいい。
そんな状況下で、ガリウスは今までとは違いふっと優しい笑みを浮かべた。
「ジン・フリッツは森の奥でエルフ族に育てられて勇者の能力を開花させた、と。そういう噂を聞きました」
ジンは事あるごとに自らの恩師についてを語る。
だが誰もそんな眉唾物のエルフ族のことなど信じようとはしない。
何せエルフ族は滅多なことでは人前に姿を現さない。ジンのパーティーに加入しているラハブが異端中の異端のエルフなだけだったからだ。
更には全属性の魔法を難なく使いこなし、全てを超級レベルで使役するエルフの話など誰が信じようものか。
いつも酒の肴に使われて終わる与太話。
だが、ジンにとってはそれでも良かった。
今リースたちがどこにいるのかさえ分からないが、ジンさえ彼らを覚えていれば存在は色褪せることはないのだから。
「えぇ。とはいえ、誰もそんな何でもありのエルフ族のことなんて信じてはくれないんですが――」
「リース・クライン様、ミノリ様のお二方はさぞかしお強かったことでしょう?」
――いつものごとく笑い過ごすつもりのジンが、思わず目を丸くするほどに。
ガリウスは何も驚く様子もなく二人の名を口にした。
「な、なんで、師匠と姉弟子の名前を……?」
「父も母も私も、あなたと同じくリース様のお世話になった者の一人ですから。それに、あんな規格外の方々のことは忘れようもありません」
ガリウスは続ける。
「あなたについての話を人伝に聞いたときはすぐに分かりましたよ。リース様とミノリ様が父との約束を果たしてくれたのだと。ですから私も勇者がその能力を遺憾なく発揮できるようになるまでの間に彼らの進撃から城塞を守り抜き、準備をしてきました。今ここから、人類の反撃を始めるために」
「ぼく達のことを、待ち続けて……」
「私たちは同じリース様の門戸同士。私に出来ることがあれば何でもするつもりでした。リース様があなた方に期待したことに、私も賭けたいのです。人類反撃の先陣を切るこの大役、どうか引き受けてくださいませんか」
ガリウスの差し出してきた手を。
「希望の旅人はこれまでどんな些細な依頼でも迷わず手に取ってきました。今回も、必ずや依頼人の満足のいく結果をもたらせてみせます」
覚悟を決めたジンはぐっと握り返した――。
「ありがとうございます。それでは、これをあなたに託します」
そう言ってガリウスに渡されたのは一枚の魔方陣が描かれた紙だった。
「これはリース様がここを立ち去る際に残してくださった、《遠隔転移用の魔方陣》です。もしもウーヴァ・カルマと対峙するときが来たらこれを。城塞兵士たちをその場に召喚することができます」
「……おそらく、依頼史上ここまで手厚いサポートをもらったことはないかもしれません」
ジンは領主の心遣いに、心の底から感謝していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる