ぼくの万能魔法で、フェンリルの子を最強のもふもふに育てあげたいと思います。

榊原モンショー

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 日の光差し込む空間の、小さな湖。
 そのほとりにて少し辺りを警戒する素振りを見せながら、伝説級魔狼フェンリルは負傷した自らの右足をペロペロと舐めていた。

 一見ただの大きな白い狼に見えるが身体の中に隠した魔力は、普通の狼のそれとは大違いだった。
 その臓物は万病に効き、その牙と爪は大いなる殺傷力を持つ武器となる。
 数多幾千の戦いを生き抜いてきた、森の王者――それが、フェンリルという魔物だ。

 ハルトはぼくたちを木の陰に誘導して、皆を見渡した。

「いいか。まずクリエナは光の魔法で奴の視界を排除、奴が気付いた所でキャロルは遠隔から鉛玉をぶち込んでやれ。そしたら俺が魔法力付与した剣持って突っ込む。後は、いつものフォーメーションだ」

「んー。ボクの光魔法で攪乱させるのは大賛成だけれども、何はともあれ一点を見つめて貰う陽動が必要じゃないかい? ほら、ただ光魔法ぶっ込んでも、焦点が合ってないなら効果は薄いと思うんだけどなぁ」

 考え込むようにした魔法使い、クリエナの言葉にハルトは「もちろんそれも考えているさ」と、ふとぼくの方へと目を向けた。

「大丈夫だ。なんせ、この作戦はお前が必要不可欠なんだよ。頼んだぜ、レアル!!」

「……え?」

 皆の期待の眼差しが、ぼくに一身に降り注いだ。
 背負っていたリュックを提げて、何一つ武器を持たされていないぼくににっこりと笑みを浮かべたハルト。

「お前自身が出張って、万能魔法でフェンリルの気を引いてくれ。ってことで――」
 
 ドンッ。

「ちょっちよろしく頼むわ」

 他の三人が見守る中、ぼくは背中を押された。

「……っ!!??」

 驚く間もなくフェンリルの前に差し出されたぼく。
 眼前の大きな身体をしたフェンリルは、小さく口を開けた。

「ヴァォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!」

 耳を劈き、腹の底に響くような重低音。
 口から白い湯気のような物をだしながら、フェンリルは一歩踏み出した。

「ッッッッ!!! ば、万能魔法、炎……っ!?」

 苦し紛れにぼくは炎の魔法を放った。
 ぽすんと小さな炎が灯ってフェンリルの身体にぶつかるが、当然のようにダメージはない。

「か、風は……! ダメで、水もダメだ! つ、使える魔法、使える魔法は――っ!!!」

 手当たり次第、万能魔法を使役してみるも何もダメージを与えることは出来ない。
 その代わり、覗き込むように眼前のフェンリルはぼくの魔法を放つ手をじっと見つめていた。

 このフェンリルにとって、ぼくの魔法は攻撃とすら捉えられていないんだろうか。
 まるで敵意のない目だった。囮として出されて、注意を引くってことなら大成功なんだけど……。

「……フミャァ」

 ふと、小さな声がした。それは明らかにこの大きなフェンリルから発せられたものではなかった。
 恐る恐る足下を見てみると、何かが動いている。
 何かが小さく、蠢いて――。

 ピクッと。

 その時、フェンリルの耳が反応し初めて目線がハルト達の方を向いたが、彼らの作戦は既に始まっていた。

「光炸裂魔法! 太陽の一閃ヘルファウーラ!!」

 カッ!!!

 辺り一帯、眩いほどの閃光に包まれる。

「ウヴァァッ!!??」

 フェンリルは思わず仰け反り、それを確認したハルト達が一斉に姿を現し始める。

「良くやったぞ、レアル! っははは、初めて役に立ったじゃねーかよ!」

 だが、フェンリルはすぐさま体勢を立て直した。
 まるで何かを守るかのように身を屈めて、全身の白毛を逆立てたのだ。

「待って! ハルト、何か、このフェンリルは、何かを――!!」

 ぼくがそう言いかけた時には、フェンリルの瞳はハルト達の方を向いていた。
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