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フェウのご飯
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おばちゃんの住む民泊には、煙突の下に小さな暖炉があった。
パチパチと音を立てて燃えるたき火には、外の川から採ってきたらしい川魚が串に刺さって焼かれている。
「ありがとうございました。気持ち良くお湯に入ったの、久しぶりで……」
お風呂なんて贅沢なものに浸かったのは、いつ振りだっただろうか。
アーセナル・レッドではハルトが他の3人を侍らせて一緒に入ってたから、ぼくは入る隙なんて一度もなかった。
いつもそこらの川で水浴びしていたと思うと、本当にありがたかった。
「こっちのおチビちゃんはなかなか私に近付いてくれないから、何も出来ずにいるんだよ。ごめんねぇ」
「……がるるるぅ……ぅるる……」
部屋の隅っこで小さく丸まっているのはフェウ。
ここに着いてからというものの誰にも心を打ち明けてくれはしない。
と言っても、親フェンリルと分かれてからまだ1日も経っていない。無理もない、か……。
それよりも、フェウがフェンリルだとバレない事の方が重要かも知れない。
親フェンリルでさえあの追われ方だ。きっとフェウがフェンリルとバレた時点で何をされるか分かったものじゃない。
「パーティーと分かれた後に森で拾った小さな犬なんですよ。ぼくもこの子も似たような境遇だったから、とても放っておけなくて……。ね、フェウ」
「がふっ」
「いたたたた!? だからなんで躊躇無く噛みつくの!?」
「フェ、フェウちゃんここにご飯があるから、ね? ご主人様のことを噛むのは止めてあげて、ねぇ?」
「……がるぅぅぅぅぅ」
「なんでぼくの時だけ思いっきり噛みついてくるのにおばちゃんの方は怯えるのさ……。分からない、分からないよ、フェウ……」
おばちゃんが小皿にのっけたのはゲル状の物体。
どこの地域でもペットに親しまれているスライムの煮こごりだ。
作り方もとても簡単で、スライムを5~6匹ほど煮込んで出た煮汁を冷やしたものとなる。
スライムと言っても森の中で育ったもの、川で育ったもの、また腐敗肉を食べて変色したもの等、形状も色彩も鮮やかなものが多い。
まぁ、人間の舌には絶望的に合わないから、ご飯の取り合いもなくてペットも人間も大いにウィンウィンというわけだ。
「はぐっ。はぐっ」
フェウも、おばちゃんが苦手とは言えスライムは大好物のようだった。
森の中にはたくさんスライムがいるから、フェンリルたちも食べやすかったんだろうね。
ぷるぷると皿の上で跳ねるスライムの煮こごりをひとまず口にし出したフェウに安心していたぼくに、おばちゃんは言う。
「ほらさ、あんたにはこれだよ。今日はたまたま表の森に白角兎が現れたらしくってねぇ。何か大きな動きでもあったのかもねぇ」
「白角兎、ですか」
ちらりと、思わずフェウの方を見やる。
フェウはご飯に夢中のようでこちらを見向きもしないが……。
白角兎――通称WHラビット。ギルドランクとしてはおおよそCランクに位置づけられる小型の魔物だ。
小さく戦闘力も弱いこの魔物がCランクに位置づけられるのは、その発見の難易度が大きく関係している。
非常に臆病な性格かつ、自分を絶対に攻撃してこない強者の横に居座るという特性をもつこの白角兎が現れたということは、森の生態系が大きく変わることも意味するからだ。
――要するに。
「何か、大きな魔物が死んで、白角兎の拠り所がなくなった、ということなのかねぇ」
そう、白角兎が狩猟しやすくなったことは、巨星が墜ちた。今回の場合は、親フェンリルが死んでしまったことを示唆していたのだ。
「……いただきます」
白角兎の肉は高価で、その角や骨は武器の一部に、毛皮は非常に強い防寒具に、肉は大人から子供まで愛される汎用性のある食糧として親しまれている。
「明日は、表のギルド街にここらのものを売りに行くとするさね。あんたさん方はここでゆっくりしておくといいよ。無理に追い出そうなんてしないからね」
そう笑ってくれるおばちゃんだったが、白角兎となればぼくにでも発見さえ出来れば討伐は可能だ。
いつまでもここにタダで置いてもらうわけにもいかない。行く当てが見つかるまでは、少しでもおばちゃんに借りを返させて貰わないとね。
「それなら、明日はぼくも白角兎の狩猟に行かせてください。ちょうど森にはそれなりに用事がありますから」
「あら、本当かい?」
「えぇ。その代わり……もう少しだけここにお世話になってもいいですか? フェウがやっぱり元気を取り戻せるくらいになるまで」
ぼくの言葉に、おばちゃんは快く頷いてくれたのだった。
パチパチと音を立てて燃えるたき火には、外の川から採ってきたらしい川魚が串に刺さって焼かれている。
「ありがとうございました。気持ち良くお湯に入ったの、久しぶりで……」
お風呂なんて贅沢なものに浸かったのは、いつ振りだっただろうか。
アーセナル・レッドではハルトが他の3人を侍らせて一緒に入ってたから、ぼくは入る隙なんて一度もなかった。
いつもそこらの川で水浴びしていたと思うと、本当にありがたかった。
「こっちのおチビちゃんはなかなか私に近付いてくれないから、何も出来ずにいるんだよ。ごめんねぇ」
「……がるるるぅ……ぅるる……」
部屋の隅っこで小さく丸まっているのはフェウ。
ここに着いてからというものの誰にも心を打ち明けてくれはしない。
と言っても、親フェンリルと分かれてからまだ1日も経っていない。無理もない、か……。
それよりも、フェウがフェンリルだとバレない事の方が重要かも知れない。
親フェンリルでさえあの追われ方だ。きっとフェウがフェンリルとバレた時点で何をされるか分かったものじゃない。
「パーティーと分かれた後に森で拾った小さな犬なんですよ。ぼくもこの子も似たような境遇だったから、とても放っておけなくて……。ね、フェウ」
「がふっ」
「いたたたた!? だからなんで躊躇無く噛みつくの!?」
「フェ、フェウちゃんここにご飯があるから、ね? ご主人様のことを噛むのは止めてあげて、ねぇ?」
「……がるぅぅぅぅぅ」
「なんでぼくの時だけ思いっきり噛みついてくるのにおばちゃんの方は怯えるのさ……。分からない、分からないよ、フェウ……」
おばちゃんが小皿にのっけたのはゲル状の物体。
どこの地域でもペットに親しまれているスライムの煮こごりだ。
作り方もとても簡単で、スライムを5~6匹ほど煮込んで出た煮汁を冷やしたものとなる。
スライムと言っても森の中で育ったもの、川で育ったもの、また腐敗肉を食べて変色したもの等、形状も色彩も鮮やかなものが多い。
まぁ、人間の舌には絶望的に合わないから、ご飯の取り合いもなくてペットも人間も大いにウィンウィンというわけだ。
「はぐっ。はぐっ」
フェウも、おばちゃんが苦手とは言えスライムは大好物のようだった。
森の中にはたくさんスライムがいるから、フェンリルたちも食べやすかったんだろうね。
ぷるぷると皿の上で跳ねるスライムの煮こごりをひとまず口にし出したフェウに安心していたぼくに、おばちゃんは言う。
「ほらさ、あんたにはこれだよ。今日はたまたま表の森に白角兎が現れたらしくってねぇ。何か大きな動きでもあったのかもねぇ」
「白角兎、ですか」
ちらりと、思わずフェウの方を見やる。
フェウはご飯に夢中のようでこちらを見向きもしないが……。
白角兎――通称WHラビット。ギルドランクとしてはおおよそCランクに位置づけられる小型の魔物だ。
小さく戦闘力も弱いこの魔物がCランクに位置づけられるのは、その発見の難易度が大きく関係している。
非常に臆病な性格かつ、自分を絶対に攻撃してこない強者の横に居座るという特性をもつこの白角兎が現れたということは、森の生態系が大きく変わることも意味するからだ。
――要するに。
「何か、大きな魔物が死んで、白角兎の拠り所がなくなった、ということなのかねぇ」
そう、白角兎が狩猟しやすくなったことは、巨星が墜ちた。今回の場合は、親フェンリルが死んでしまったことを示唆していたのだ。
「……いただきます」
白角兎の肉は高価で、その角や骨は武器の一部に、毛皮は非常に強い防寒具に、肉は大人から子供まで愛される汎用性のある食糧として親しまれている。
「明日は、表のギルド街にここらのものを売りに行くとするさね。あんたさん方はここでゆっくりしておくといいよ。無理に追い出そうなんてしないからね」
そう笑ってくれるおばちゃんだったが、白角兎となればぼくにでも発見さえ出来れば討伐は可能だ。
いつまでもここにタダで置いてもらうわけにもいかない。行く当てが見つかるまでは、少しでもおばちゃんに借りを返させて貰わないとね。
「それなら、明日はぼくも白角兎の狩猟に行かせてください。ちょうど森にはそれなりに用事がありますから」
「あら、本当かい?」
「えぇ。その代わり……もう少しだけここにお世話になってもいいですか? フェウがやっぱり元気を取り戻せるくらいになるまで」
ぼくの言葉に、おばちゃんは快く頷いてくれたのだった。
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