ぼくの万能魔法で、フェンリルの子を最強のもふもふに育てあげたいと思います。

榊原モンショー

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【閑話】クレア・シュネーヴル③-2

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 『Aランク-特級-九毒大蛇、通称『ヒュドラ』出現情報

報酬:5万Dダルトン

------詳細-------

 首都郊外ロウガルム平野にてヒュドラ出現。
 近隣住民に被害が出ないように、早急に討伐されたし。

 冒険者支部ギルド:アスカロン』

「ヒュドラなァ。あれだろ、9つに分岐した頭持つ、バカデカい毒大蛇だ。んー、5万Dダルトンか……。ちょっとしょっぱいがこれさえありゃ秘密の洞穴の拡張も出来るかもしれねェな、ポゥ吉」

「ワゥッ」

 くしゃくしゃの紙を見つめながら、クレアはぼやいた。
 ロウガルム平野より数キロ離れた密林、人はそこを『ガルム森林』と名付けたが、クレアやポゥ吉にとっては『秘密の隠れ家』だった。

 秘密の隠れ家であるその森には、小さな洞穴がある。
 ポゥ吉は単独行動をしていた時は、常にそこで寝食を共にしていたのだが、クレアに心を許してからはこうして二人で洞穴の中に居着くことが多くなっていた。

 洞穴先で狩猟したガルムトカゲを野生児のごとくむしゃぶりついたクレアは、ぽぉんと後ろで寝転がっているポゥ吉に残り骨を投げた。

「アォンッ!」

 カラカラと転がった骨にかぶり付きながら遊ぶポゥ吉を見て、クレアは言う。

「なァ、ポゥ吉。アンタがここらで暮らしてた時、ヒュドラなんて物騒な魔物いたか?」

「くぅ~ん……?」

「やっぱねェよなァ。アスカロン、他にもBランク上位とかAランク下位の出現情報あったし、森全体がどっか狂い出してんだよなァ……」

 クレアが手に持っていたのは、近辺ロウガルム平野付近の高ランク魔物出現情報一覧だった。
 
「Bラン上位のタスマニアデビルに、Aラン下位のウェアウルフ、ベヒモスか。アスカロンも対応に苦慮してるっぽいくらいには上物が集まり出してやがる。ホント、何が起きてんだか分かんねぇが稼ぎ時だ。っし! ポゥ吉! 今日はフォーメーションAで行くぜ!」

 とてとてとて。

 可愛らしい足音を立てながら、ポゥ吉はカチャリと音を立てながら一本の刀を口に咥えてクレアの元へとやってきた。

 破龍刀《ハリュウトウ》【焔】。クレアの愛刀だ。

「ワウゥッ!!」

「さすがはわたしの相棒だ。本当に気ぃ利くなぁお前ってやつは!!」

 尻尾をぷるぷると振りながらちょこんと座ったポゥ吉の頭を、クレアはくしゃくしゃと撫で回したのだった。

●●●

「オォロロロロロロロロロロロ!!!」

 Aランク中位魔物、ヒュドラ。
 全長おおよそ5メートル。銅から九つに分岐した頭からは、それぞれ別の属性魔法を放つと言われる魔物だ。

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!」

 そんなヒュドラの一の首が狙いを定めたのは、この森全てを勝手知ったるポゥ吉だった。

「フォーメーションA。ここらの地理を完全に把握しきったポゥ吉が、地の利を活かしてヒュドラを誘導……」

 第一段階。ポゥ吉が木々の隙間を次々と飛び越えながら森を駆け抜けていくと、ミシミシとヒュドラの首が回らなくなり始めた。

「ヴォロロ? ヴォロ!?」

 木々の間に首が挟まったヒュドラが力任せに魔法で引きちぎろうとする所を、クレアは逃さなかった。
 一本の太い木の上でその時を待っていたクレアは、腰の愛刀に手を掛けた。

破龍刀ハリュウトウ【焔】――三の太刀・居合いの炎」

 トンっと軽く跳躍したクレア。
 目に見えぬ速さで斬り落としたその太刀筋には、斬られたヒュドラさえも気付くことは出来なかったようだった。

「わぉぉぉぉぉぉんっ!」

 空を向いて、主の帰還を出迎えるかのようなポゥ吉の雄叫びの後に、ヒュドラの首は地面へと落ちた。

「っし。この調子で残ったヤローも全部落とすぜ、ポゥ吉!」

「ヴァッフ!!」

 ――動物と魔物の違いは、もう一つあった。

 魔物は基本、個体別で行動する。それは、己が魔力を信じ、己が力のみで生き抜こうとする者も多いからだ。
 だが、動物は集団で行動する。魔力を使わずに、魔力の感知の仕方すら分からない動物という種類は非常に臆病で・・・仲間意識が強く・・・・・・・、仲間と共に戦えば非常に勇敢・・となることが知られている。

 クレアにとって、ポゥ吉は最高の相棒だった。
 そしてポゥ吉にとってもまた、クレアはどこまでも最高の相棒だった。

●●●

「……ポゥ吉ぃ、そりゃ食いモンじゃ……ねぇって……」

 夜。全てのヒュドラの頭を刈り取りポゥ吉住処の洞穴に戻ってきたクレアは、満足そうな表情で床についていた。
 クレアに寄り添うようにして眠りつつもぱしぱしと目を瞬きさせるポゥ吉の耳に、雑音が入ったのはその時だった。

 ザッ。

 それは、聞き慣れない足音だった。

 ――森全体がどっか狂い出してんだよなァ……。

 ポゥ吉は、クレアの言葉が完全に分かるわけではない。
 それでも、ここ数日の魔物の出が明らかに異常だと言うことは分かる。

「……くぅ~ん」

 ペロペロとクレアを舐めてみるも、「しゃぁねェなァ」と寝ぼけたクレアがポゥ吉を抱きしめようとするだけだった。

「……」

 埒があかないとばかりにとてとてとてと、ポゥ吉は夜の洞穴から顔を出した。

 生ぬるい空気と、全身が総毛立つような悪寒。
 ポゥ吉の耳がピクリと揺れた。

『ようやく見つけましたよ』

 ポゥ吉はふと、声のした方を向いた。
 洞穴の上からこちらを見下してくるそれ・・は、自分と似た種族だった。
 ただ一つ、魔力を使えることを除いて。

『この地に蔓延る雑魚種族は貴様が最後か。我等が高貴なる血と混ぜる訳には行かぬ。故に――』

 それ・・の爪先に殺意の魔力が漂った。ポゥ吉はすぐさま洞穴から少しでも離れようと駆け出し、木々を掻き分けて全速力で足を動かしたが。
 風を切るような音と共に、それ・・は瞬時に姿を消した。
 
『――貴様等は根絶やしにせねばならんのだ』



 ――その日を境に、この世界から『動物』は完全に絶滅したとされている。 
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