手持ちキッチンで異世界暮らしを快適に!

榊原モンショー

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プロローグ

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「……お、重い……ぐっ……」

 第二、第四週日曜日の午前十一時は買い出しの時間だった。
 近所のスーパー『アサムラ』では午前十一時十五分から昼の惣菜特別セールが始まるからだ。
 普段料理をあまりしないが、かといって特別嫌いなわけではない独り暮らしの青年――嘉市達也かいちたつやは両手に四つのレジ袋を抱えて階段を登る。
 独り暮らし歴三年、来年には大学卒業を控える達也にとって、もはや料理は苦行にも等しいものだった。
 とはいえ、料理自体が嫌いなのではない――その後の皿洗いという行程が大の苦手なのだ。
 特に、十二月を間近に控えるこの時期は突発的な寒さに見舞われることも少なくない。
 水道から出る水など触りたくもない状態だった。

「……ふーっ……うーっ……!」

 達也の部屋は四階だった。築三十四年のボロアパートにエレベーターのような高性能器具があるはずもなく、新米を含め異常に重くなった足取りで歩を進めるのだった。

 素早く家の鍵を開けて、玄関に投げつけるかのように三つのレジ袋を置いた。
 一つは十二個入りの卵が入っているので大切に置いた。

「さて……と、今回の買い出しは……一万八百円……か。まぁ、妥当かな」

 達也はポケットに突っ込んだレシートを見て呟いた。
 レシートを再びポケットに突っ込んだ達也は一度伸びをした後に、冷蔵庫へと向かった。その中はほぼ空っぽだ。ケチャップ、マヨネーズ、そして使いかけのタマネギ、冷やした麦茶。それくらいだ。
 製氷機の中にみっちりと氷が入っているが、こんな寒い時期になるとアイスコーヒーを入れる時以外に使うことはない。
 冷凍庫にも、鳥のモモ肉と冷凍ハンバーグ以外は何もない、ただ電気代を無駄にしているかのようなすっからかんぶりだった。

「……っしゃ」

 達也は気を引き締め直して冷蔵庫、冷凍庫、そして近くに置いた電子レンジの上に食材を重ねていく。
 以前、一人暮らしをする前に母親から言われていた「あまり多く詰め込み過ぎても冷えないよ」などの言葉はもはや気にもしなくなっていた。
 レトルト食品、冷凍食品などを次々と冷凍庫にぶち込み、冷蔵庫に積み重ねる達也。
 正午を知らせる時計の音が鳴ると同時に、新しく買ってきた五キロの米を米櫃こめびつに入れ切った。

「さて……と、適当にラーメンでも作るか」

 流し台に無造作に置いていた洗っていない食器の中から適当なステンレス鍋を取り出し、軽く水洗いした後に水を入れる。
 三つあるコンロの内の一つに火をかけて、冷蔵庫からラーメンを取り出した――その時だった。

 ヒュインッ。

「な、何だ!?」

 突如、達也の身の周りを襲ったのは眩いばかりの光だった。
 光の出所は一切分からない。ただ、光っているばかりで周りのことなど一切確認しようもなかった。
 手に持っていたラーメンの袋だけは離さず持っていた達也が次に目を開けた時、思わず袋を地面に落としてしまっていた。

「な……な、な……!」

 辺りを見渡せば青い空、白い雲、そして前方には見渡す限りの緑の草原。


 そして後方にはアパートのキッチン。


「な、何じゃこりゃぁぁぁぁ!?」


 広い草原に、一人の青年の大きな声が虚しく響き渡っていた――。
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