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ラーメンはいいぞ!①
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頬を掠めるのは心地よく暖かい風。
草々の青臭い香りが鼻腔を擽っていく中で、俺は呆然と欠伸をした。
落ちたチルド麺を拾い上げて、キッチンの下から鍋を取り出す。
水道からいつものように水を出し、コンロを捻る。
ボッという小気味のいい音と共に、蒼の炎が現れる。俺は何も言葉を発さぬままに沸騰した鍋の中にチルド麺を二袋開けて放り込んだ。
菜箸で麺が鍋の底にくっつかないように適度に掻き混ぜている間に再び「はぁ」とため息をついた。
やはり、何度見渡してみても、そして何度頬を抓ってもこの感覚は本物だと断定するしかなかった。
「……何が起こったんだよ……」
ぐつぐつと鍋の中で黄色い麺たちが思い思いに踊り狂う。基本的に休日は朝を抜く俺にとって、このラーメンは朝昼兼用だ。お腹がぐぎゅるるると声を上げるのも無理はないだろう。
「こんくらいか」
菜箸で鍋の中の麺を一つ摘み取り、味見をする。
うん、程よい柔らかさだ。
流しの上にザルを置き、水を流す。鍋の中で踊り狂っていた麺たちがザルの上に身を投じていく。
バシャバシャと熱湯から冷水に移った麺の一本一本が黄金色に輝き、艶を発している。
もはやそれを見ただけで腹の虫が泣き叫んできやがる。もうちょっと待ってくれ。
ついでに、もう一度お湯を沸かし、スープタレを皿に移してお湯をかける。
魚介の香ばしい匂いが草原一杯に広がっていくと、草原さえも俺の久々の飯を祝福してくれるかのようにザァザァと草と草を擦り合わせて適度なBGMを奏でてくれていた。
ここにはキッチンはあれど、その他に椅子や机、テレビなどは何もない。
あるのは電子レンジ、冷蔵庫、コンロ、流しと皿や鍋、箸などを収納するスペースのみだ。
あいにく、スマホはリビングに投げ捨てたままだったから持ち込めていないのがかなりの痛手だ。
椅子も机もないため、まな板を置いたキッチンの上で立ち食いラーメンとなる。
つけ麺形式の眼前の食事。平皿に移した黄金色の麺は太陽に反射してキラキラと輝きを放ち続けていた。
つけダレの方は、魚介ラーメンと銘打ってあった通り、海の幸の香りが口の奥をきゅっと鷲掴みにしていく。
「……よく分らんけど、寝て起きたら戻ってんだろ」
訳の分からないところに飛ばされてしまった驚きよりも食欲の方が勝利するのは至極当然のことだ。
黄金色の眩い麺たちを割りばしで掴み、つけダレの中にダイブさせていく。
海の幸の香り、そして麺自体が放つ黄金色の輝きが絡み合う。俺はすぐさま日本独特と言っても過言ではない食い方で麺にがっついた。
ズズ……ズゾゾ……。
滑らかな麺が口の中に放り込まれると同時に中に広がる無限の世界!
これだ、これだよラーメンってのは!
一度食べたら止まらない。ラーメンってのはそんな病みつきになる日本の国民食なんだ。
麺を掴み、つけだれに投入し、その勢いでつけダレの汁と共に口の中に掻っ込む!
喉の奥にちゅるりと、滑らかな食感と濃い味付けが入っていけば自然と頬も緩んでしまうというものだ!
胃袋を、食道を、口内を鷲掴みにされるってのはまさにこのことだ。
舌の先から奥まで麺に絡まった汁を吸い取り、麺を歯で噛むとほんわかとした甘さも広がっていく。
――最高だ。
体全身に力が入っていくのが分かる。立ち食いラーメンもなかなか乙なもんだなぁ。
――と、俺が日本の国民食であるラーメンを堪能しているときに、何もなかったはずの草原には一人の少女が突っ立っていた。
まるでゾンビのようにズルズルと足を引きずっているが、その瞳はとても憧れと快楽に溺れているかのようなものだった。
「……って、狐耳ともふもふ尻尾!?」
そう、その少女には少し違った特色が見られた。
身長はおおよそ一五〇センチくらいでかなり小柄だ。ピコピコと震えるように動くその狐のような大きな二つの耳、そしてふるふると痙攣しているかのようなその尻尾。
そして、可愛らしい瞳――あと口端についた涎。
「……食いたいのか……? これ」
俺が箸でつけだれに絡まったラーメンを指すと、獣耳少女はまるで首振り人形のように猛烈な速度でコクコクコクコクと頷きまくっていた。
「……ま、まぁ、そんなに食いたいなら……俺の使ってた箸でいいならこっち来いよ」
と、俺が言ったその瞬間だった。
ドビュンッ。
比喩ではない。二十メートルほど離れていた少女が突如、本当に一瞬の間に俺の眼前にちょこりと現れたのだ。
だが――。
「……っ! ……っ……!」
身長の問題でキッチン台に届かないようだった。尻尾をふるふるとさせているその姿は何というか、とても可愛かった。
「ったく、しゃーねーな」
俺は少女を持ち上げてキッチン台の上に乗せた。
ったく、行儀悪いけど今日は特別だからな?
ラーメンを一途に見つめるその少女は、体全身を使って喜びを表現しているようだった。
まだ一口も手をつけてないのにな。
草々の青臭い香りが鼻腔を擽っていく中で、俺は呆然と欠伸をした。
落ちたチルド麺を拾い上げて、キッチンの下から鍋を取り出す。
水道からいつものように水を出し、コンロを捻る。
ボッという小気味のいい音と共に、蒼の炎が現れる。俺は何も言葉を発さぬままに沸騰した鍋の中にチルド麺を二袋開けて放り込んだ。
菜箸で麺が鍋の底にくっつかないように適度に掻き混ぜている間に再び「はぁ」とため息をついた。
やはり、何度見渡してみても、そして何度頬を抓ってもこの感覚は本物だと断定するしかなかった。
「……何が起こったんだよ……」
ぐつぐつと鍋の中で黄色い麺たちが思い思いに踊り狂う。基本的に休日は朝を抜く俺にとって、このラーメンは朝昼兼用だ。お腹がぐぎゅるるると声を上げるのも無理はないだろう。
「こんくらいか」
菜箸で鍋の中の麺を一つ摘み取り、味見をする。
うん、程よい柔らかさだ。
流しの上にザルを置き、水を流す。鍋の中で踊り狂っていた麺たちがザルの上に身を投じていく。
バシャバシャと熱湯から冷水に移った麺の一本一本が黄金色に輝き、艶を発している。
もはやそれを見ただけで腹の虫が泣き叫んできやがる。もうちょっと待ってくれ。
ついでに、もう一度お湯を沸かし、スープタレを皿に移してお湯をかける。
魚介の香ばしい匂いが草原一杯に広がっていくと、草原さえも俺の久々の飯を祝福してくれるかのようにザァザァと草と草を擦り合わせて適度なBGMを奏でてくれていた。
ここにはキッチンはあれど、その他に椅子や机、テレビなどは何もない。
あるのは電子レンジ、冷蔵庫、コンロ、流しと皿や鍋、箸などを収納するスペースのみだ。
あいにく、スマホはリビングに投げ捨てたままだったから持ち込めていないのがかなりの痛手だ。
椅子も机もないため、まな板を置いたキッチンの上で立ち食いラーメンとなる。
つけ麺形式の眼前の食事。平皿に移した黄金色の麺は太陽に反射してキラキラと輝きを放ち続けていた。
つけダレの方は、魚介ラーメンと銘打ってあった通り、海の幸の香りが口の奥をきゅっと鷲掴みにしていく。
「……よく分らんけど、寝て起きたら戻ってんだろ」
訳の分からないところに飛ばされてしまった驚きよりも食欲の方が勝利するのは至極当然のことだ。
黄金色の眩い麺たちを割りばしで掴み、つけダレの中にダイブさせていく。
海の幸の香り、そして麺自体が放つ黄金色の輝きが絡み合う。俺はすぐさま日本独特と言っても過言ではない食い方で麺にがっついた。
ズズ……ズゾゾ……。
滑らかな麺が口の中に放り込まれると同時に中に広がる無限の世界!
これだ、これだよラーメンってのは!
一度食べたら止まらない。ラーメンってのはそんな病みつきになる日本の国民食なんだ。
麺を掴み、つけだれに投入し、その勢いでつけダレの汁と共に口の中に掻っ込む!
喉の奥にちゅるりと、滑らかな食感と濃い味付けが入っていけば自然と頬も緩んでしまうというものだ!
胃袋を、食道を、口内を鷲掴みにされるってのはまさにこのことだ。
舌の先から奥まで麺に絡まった汁を吸い取り、麺を歯で噛むとほんわかとした甘さも広がっていく。
――最高だ。
体全身に力が入っていくのが分かる。立ち食いラーメンもなかなか乙なもんだなぁ。
――と、俺が日本の国民食であるラーメンを堪能しているときに、何もなかったはずの草原には一人の少女が突っ立っていた。
まるでゾンビのようにズルズルと足を引きずっているが、その瞳はとても憧れと快楽に溺れているかのようなものだった。
「……って、狐耳ともふもふ尻尾!?」
そう、その少女には少し違った特色が見られた。
身長はおおよそ一五〇センチくらいでかなり小柄だ。ピコピコと震えるように動くその狐のような大きな二つの耳、そしてふるふると痙攣しているかのようなその尻尾。
そして、可愛らしい瞳――あと口端についた涎。
「……食いたいのか……? これ」
俺が箸でつけだれに絡まったラーメンを指すと、獣耳少女はまるで首振り人形のように猛烈な速度でコクコクコクコクと頷きまくっていた。
「……ま、まぁ、そんなに食いたいなら……俺の使ってた箸でいいならこっち来いよ」
と、俺が言ったその瞬間だった。
ドビュンッ。
比喩ではない。二十メートルほど離れていた少女が突如、本当に一瞬の間に俺の眼前にちょこりと現れたのだ。
だが――。
「……っ! ……っ……!」
身長の問題でキッチン台に届かないようだった。尻尾をふるふるとさせているその姿は何というか、とても可愛かった。
「ったく、しゃーねーな」
俺は少女を持ち上げてキッチン台の上に乗せた。
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