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今日のおやつはパンケーキ!④
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「……誰?」
俺の心からの疑問は、ルーナには届く様子はなかった。
その少女は、翡翠の瞳と輝くロングの茶髪。そして狐色の耳と尻尾を持っていた。
だがルーナのように柔らかそうなもふもふ耳ではなく、しゅっとしたもの。
スレンダーな体躯に豊満な双丘……ルーナよりも遙かに大きい。
というかルーナどっちかというと貧乳だもんな。かなり対極的だ。
残り二枚のパンケーキをぺろりと頬張ったその少女は「ふむー」と、口周りの蜂蜜を雑に払いのけた後に腕を組んだ。
そんな様子を一部始終、目を離さずに身体を震わせつつ見ていたルーナが、恐る恐るといった体で口を開く。
「ね……ネルト姉様が何でこんなところに……いるんですか……」
「美味しそうな匂いがしたから……かなぁ」
「ね、姉様はいつもズルいんです! 私が頑張って手に入れたものに横やりして奪っていく……姉様はズルいです!」
「えー? そんなこと知らないわよ。あんたがいつもとろくさいのが悪いんじゃない」
「あの時だって、頑張って狩ってきた白兎を姉様が横取りしたじゃないですか!」
「って、あんた8年前のことまだ覚えてるの!? だ、だったらルーナだって私のミルク勝手に飲んだじゃん!」
「そ、それは肉体増幅魔法使った後に……お腹空いてたから……」
「理由になってないしあんた肉体増幅魔法は使っちゃだめって族長に言われてたじゃない。だから破門されたんでしょう」
「……ぐっ」
そんな姉妹トークに全くついて行けない俺が机の上で呆然としていると、その少女は我に直ったかのように、「こほん」と小さな咳払いをしてキッチンの横で丁寧にぺこりとお辞儀をした。
「ええっと……そうね、初めまして。私、獣人族のネルト・エクセン・ロン・ハルト。あなたが噂の……じゃなかった、ルーナの新しい飼い主ね」
そう告げて手を差し伸べてくる少女――ネルト。
尻尾がぴくぴくと小刻みに震えている。ルーナと同じ基準で言ったら、興味津々……と、言いたいことがあるって感じか。
獣人族は基本的に尻尾の動きから感情を隠すことが出来ないらしい。
それは、北方都市ルクシアの獣人族の番人もそうだったし、ルーナも、そしてこのネルトさんも例外ではないらしい。
そういえば以前、獣人族の尻尾は感情を隠しにくいから他種族間構想にはかなり不利だっていってたな。
だからこそ、尻尾を意図的に隠してみたり……そして「戦士」などは尻尾自体を切断していたりと行った風習もあるとかないとか――。
「ね、姉様には関係ありません」
引きつった笑みを浮かべながらも、姉に対抗しようとするルーナ。
そんな意固地とも取れるルーナに、ネルトさんは「はぁ」と小さくため息をついた。
そういえば、ルーナは破門の身……。となると、ネルトさんも心中はどうなのだろうか。
「全くもって無関係ってわけじゃないんだよ」
とん、とん――と。何かを始める前であるかのように地面を足で小突いたネルトさん。
「……あの――」
俺が、突如現れたその茶髪巨乳美少女に歩み寄ろうとした、そのときだった。
「悪いね、ルーナ。飼い主サン、ちょっと借りるよ」
獣人族のネルト……その両の瞳が不気味に開かれていた。
「……え?」
瞬間、辺りを支配したのは大きな霧だ。
身体中に絡みつく水滴、そしてその視界はわずか前方の机の全貌をも見渡すことの出来ない深い、深い霧だった。
「た、タツヤ様ッ!」
ルーナの声が聞こえた。明らかに声が裏返っている。焦っている。
俺だって、何が起きているかは分からない。そして、ルーナが、ネルトさんがどこにいるかさえも分からない。
「ルー…――」
「悪いね、少し黙ってほしい」
直後、俺の背後に忍び寄ったのは黒い影。
俺の首元にはルーナではない長い爪があった。
獣人族特有の魔法技、肉体部位増幅魔法だ。
動くと頸動脈でも刺して殺す――そう言わんばかりの態度だ。
「…………」
「悪いようにはしない。あなたは、私に連れ去られればいい」
話すことは出来ない。そして、ここで無駄に何か反撃すれば俺の命が危ぶまれる。
何せ、魔法も使えない、肉体を強くする魔法も――魔法の何一つも使えない俺は、この世界ではただのお荷物に他ならない。
なら、俺が出来ることはほとんどないだろう。
「……物わかりが良くて助かるよ。族長もあなたに会いたがっている。ルーナの件も含めて礼もしたいんだ」
周りでは「ネルト姉様……! タツヤ様!」とまさに見えない霧の中で奮闘するルーナの声が聞こえてくる。
そんなルーナに「あれでも可愛い妹なんだよ」と呟いたネルトさんは、あえて大声を上げた。
「いいかい、ルーナ。大円森林ヴァステラの集落だ。私はこいつを今から拉致する。取り戻したけば戻って来るんだ! いいかい、ヴァステラ集落だ。あんたが来ないとこいつの命は無いと思った方がいい!」
二回、ルーナに聞こえるように告げたネルトさんは、「しっかり捕まっててくれ」と俺を囲う手をがっしりと固定した。
少女の豊満な胸に俺の顔が当たりつつ、妙な浮遊感を覚えていた。
霧が晴れたとき、ネルトさんに抱えられた俺は猛スピードで深々と生い茂る森に向かって拉致されていったのだった――。
俺の心からの疑問は、ルーナには届く様子はなかった。
その少女は、翡翠の瞳と輝くロングの茶髪。そして狐色の耳と尻尾を持っていた。
だがルーナのように柔らかそうなもふもふ耳ではなく、しゅっとしたもの。
スレンダーな体躯に豊満な双丘……ルーナよりも遙かに大きい。
というかルーナどっちかというと貧乳だもんな。かなり対極的だ。
残り二枚のパンケーキをぺろりと頬張ったその少女は「ふむー」と、口周りの蜂蜜を雑に払いのけた後に腕を組んだ。
そんな様子を一部始終、目を離さずに身体を震わせつつ見ていたルーナが、恐る恐るといった体で口を開く。
「ね……ネルト姉様が何でこんなところに……いるんですか……」
「美味しそうな匂いがしたから……かなぁ」
「ね、姉様はいつもズルいんです! 私が頑張って手に入れたものに横やりして奪っていく……姉様はズルいです!」
「えー? そんなこと知らないわよ。あんたがいつもとろくさいのが悪いんじゃない」
「あの時だって、頑張って狩ってきた白兎を姉様が横取りしたじゃないですか!」
「って、あんた8年前のことまだ覚えてるの!? だ、だったらルーナだって私のミルク勝手に飲んだじゃん!」
「そ、それは肉体増幅魔法使った後に……お腹空いてたから……」
「理由になってないしあんた肉体増幅魔法は使っちゃだめって族長に言われてたじゃない。だから破門されたんでしょう」
「……ぐっ」
そんな姉妹トークに全くついて行けない俺が机の上で呆然としていると、その少女は我に直ったかのように、「こほん」と小さな咳払いをしてキッチンの横で丁寧にぺこりとお辞儀をした。
「ええっと……そうね、初めまして。私、獣人族のネルト・エクセン・ロン・ハルト。あなたが噂の……じゃなかった、ルーナの新しい飼い主ね」
そう告げて手を差し伸べてくる少女――ネルト。
尻尾がぴくぴくと小刻みに震えている。ルーナと同じ基準で言ったら、興味津々……と、言いたいことがあるって感じか。
獣人族は基本的に尻尾の動きから感情を隠すことが出来ないらしい。
それは、北方都市ルクシアの獣人族の番人もそうだったし、ルーナも、そしてこのネルトさんも例外ではないらしい。
そういえば以前、獣人族の尻尾は感情を隠しにくいから他種族間構想にはかなり不利だっていってたな。
だからこそ、尻尾を意図的に隠してみたり……そして「戦士」などは尻尾自体を切断していたりと行った風習もあるとかないとか――。
「ね、姉様には関係ありません」
引きつった笑みを浮かべながらも、姉に対抗しようとするルーナ。
そんな意固地とも取れるルーナに、ネルトさんは「はぁ」と小さくため息をついた。
そういえば、ルーナは破門の身……。となると、ネルトさんも心中はどうなのだろうか。
「全くもって無関係ってわけじゃないんだよ」
とん、とん――と。何かを始める前であるかのように地面を足で小突いたネルトさん。
「……あの――」
俺が、突如現れたその茶髪巨乳美少女に歩み寄ろうとした、そのときだった。
「悪いね、ルーナ。飼い主サン、ちょっと借りるよ」
獣人族のネルト……その両の瞳が不気味に開かれていた。
「……え?」
瞬間、辺りを支配したのは大きな霧だ。
身体中に絡みつく水滴、そしてその視界はわずか前方の机の全貌をも見渡すことの出来ない深い、深い霧だった。
「た、タツヤ様ッ!」
ルーナの声が聞こえた。明らかに声が裏返っている。焦っている。
俺だって、何が起きているかは分からない。そして、ルーナが、ネルトさんがどこにいるかさえも分からない。
「ルー…――」
「悪いね、少し黙ってほしい」
直後、俺の背後に忍び寄ったのは黒い影。
俺の首元にはルーナではない長い爪があった。
獣人族特有の魔法技、肉体部位増幅魔法だ。
動くと頸動脈でも刺して殺す――そう言わんばかりの態度だ。
「…………」
「悪いようにはしない。あなたは、私に連れ去られればいい」
話すことは出来ない。そして、ここで無駄に何か反撃すれば俺の命が危ぶまれる。
何せ、魔法も使えない、肉体を強くする魔法も――魔法の何一つも使えない俺は、この世界ではただのお荷物に他ならない。
なら、俺が出来ることはほとんどないだろう。
「……物わかりが良くて助かるよ。族長もあなたに会いたがっている。ルーナの件も含めて礼もしたいんだ」
周りでは「ネルト姉様……! タツヤ様!」とまさに見えない霧の中で奮闘するルーナの声が聞こえてくる。
そんなルーナに「あれでも可愛い妹なんだよ」と呟いたネルトさんは、あえて大声を上げた。
「いいかい、ルーナ。大円森林ヴァステラの集落だ。私はこいつを今から拉致する。取り戻したけば戻って来るんだ! いいかい、ヴァステラ集落だ。あんたが来ないとこいつの命は無いと思った方がいい!」
二回、ルーナに聞こえるように告げたネルトさんは、「しっかり捕まっててくれ」と俺を囲う手をがっしりと固定した。
少女の豊満な胸に俺の顔が当たりつつ、妙な浮遊感を覚えていた。
霧が晴れたとき、ネルトさんに抱えられた俺は猛スピードで深々と生い茂る森に向かって拉致されていったのだった――。
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