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第一話
しおりを挟む彼は私と付き合っていて楽しいのだろうか。
もっと深い関係になりたいと思っているのは私だけなのだろうか……。
私、トルドラ伯爵家の長女、ウラリーには恋人がいる。その恋人はクビーク伯爵家の次男・ビクトル。綺麗な顔立ちをしていて性格も優しく、私の大好きな人だ。特に好きなのが彼の赤い瞳である。ルビーのようにキラキラとしていて美しく、その目に見つめられると胸が高鳴ってどうにかなってしまいそうだ。
こんな素敵な人と交際している私は本当に幸せ者だと思う。
なぜビクトルのような人が私と付き合っているのかというと、私が彼にガツガツいったからだ。
私と彼が出会ったのは、貴族の子女が多く在籍する学校の入学式。彼は高身長でイケメンなのでその時から目立っていて、私はすぐに恋に落ちた。でも、彼のような人が私なんかを好きになるとは思えない。どうせ付き合えるはずはないと思っていたのに、出会ってから半年経った頃にビクトルから告白された。
「一目惚れしたんだ。俺と付き合ってください」
そう告白してくれたビクトルの顔は真っ赤だったので、彼が悪ふざけではなくて本気で私に告白してくれたのだと分かった。
いやいや、でも彼が私のことを好き?こんなことがあり得るのだろうか?!
私の頭の中は大混乱で、返事をするのが遅れてしまった。
「ウラリーさん、付き合えないならはっきりと言ってくれて構わないから、返事をくれないかな」
ビクトルが申し訳なさそうに返事を催促した。私は慌てて返事をしたので、
「あっ、ひゃい、よろひくおねがいしましゅ」
と盛大に噛んでしまった。ああ、恥ずかしい。私は口元を手で押さえて俯いたが、フフッという笑い声が聞こえたので顔を上げた。
「可愛いね、君は。では、これからよろしくね」
ビクトルが私の方に手を差し伸べる。私はその手を取った。
これが私とビクトルが交際を始めたきっかけだ。
恋人になったビクトルは優しく、私にはもったいないくらい理想の恋人だった。だからこそ、私はどんどんビクトルのことが好きになっていって、彼が隣にいる時は緊張で体がカチコチに強張ってしまう。それでも、ビクトルは笑って「緊張しなくて良いんだよ」と柔らかく甘い声をかけてくれるのだ。
私のことを「ウラリー」と呼んでくれる声が好きだし、私が「ビクトル」と名前を呼ぶと嬉しそうな顔をしてくれるから胸が温かくなる。
あまりにも幸せすぎて、彼との交際に対して不安を抱いたことはなかった。
来月で付き合って一年記念だし、ビクトルに何かプレゼントしようなんて考えていたら……。
「ウラリーちゃんってビクトルさんとはどこまで進んだの?一年くらい付き合ってるんだからキスはしたのよね?」
と、友達のミラナに言われて目が覚めた。
私はビクトルと一年も付き合っているのに、キスをしたことがないのだ。
「キス……したことないの」
「え?一年も付き合っているのに?」
「うん。そうなの。一年も付き合っているのにキスをしたことがないのっておかしいかな?」
「おかしいとは思わないわよ。きっと、ビクトルさんは慎重なタイプなんでしょうね。それに、ウラリーちゃんはビクトルさんといる時緊張でガチガチになっているから、ゆっくりと関係を進めていこうって考えているんじゃないのかな?」
友達が慰めの言葉をかけてくれる。
けれど。
「それって、ビクトルに我慢させているかもしれないってこと?」
ビクトルに我慢なんてさせたくない。でも、もしそうなら彼に申し訳ない。とは言え、ビクトルとキスするのを考えるだけで気絶しそうになってしまう。
一体、私はどうしたら良いのだろうか。
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