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第二話
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「そんな顔しないで、ウラリー。ビクトルさんに我慢させているわけじゃないと思うわよ」
私が不安そうな顔をしていたから、ミラナが慰めてくれた。彼女のくれた優しさが嬉しい。でも、私の不安が完全に払拭されることはなかった。
「そうね……。そう思いたいけれど……」
「そんなに気になるなら、キスしたいとビクトルさんに言ってみたら?」
「無理よ!恥ずかしいし、ビクトルにその気がなかったらどうするの?私がはしたない女みたいにならない?!」
真っ赤な顔で否定すると、ミラナは「やれやれ」という顔をした。
「じゃあ、どうにもできないわよ」
「そうだよね……」
がっくりと肩を落とすと、ミラナがよしよしと頭を撫でてくれた。
子供のように撫でられながら、私ってかなり面倒な女だよねと自省する。我慢させてないか?と不安になっておきながら、直接彼に伝えるのは恥ずかしいだなんて。随分、勝手な人間である。だが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「ウラリー、お待たせ」
名前を呼ばれて振り返ると、ビクトルがいた。
彼は週に一度、放課後に行われる特別講習を受けており、私はそれが終わるまでミラナと一緒に談話室で待っていたのだ。彼の講習が終わるまでの間、話し相手になってくれるミラナには感謝しかない。
「講習お疲れ様」
「ああ、ありがとう。普段の授業より進行が速いし、内容の難易度も高いから疲れるよ。ウラリーは今日もミラナさんと話しながら待っててくれたの?」
「うん。そうなの」
私が労いの言葉をかけると、ビクトルは嬉しそうにそれを受け取ってくれた。
そして、ミラナの方を向き、
「ウラリーが世話になったね」
「やだぁ~、ビクトルさんったらウラリーのお母さんみた~い」
ミラナがあははと笑いながらビクトルにツッコむ。彼も私もミラナのツッコミに笑ったが、彼女の次の一言でフリーズした。
「ビクトルさんを待ってる間、ウラリーと話していたんですけど、ウラリーってビクトルさんとキスしたいらしいですよ!」
ハッと我に返ってミラナの口を塞いだが、もう遅い。
「ちょっとミラナ何を言っているの?!」
「んむ、手を離してよ」
「ご、ごめん」
私はミラナの口から手を離した。
「事実を話したまでよ」
「だからって……!!」
「ウラリーは一年も付き合っているのに、キスをしたことがないと悩んでいたんでしょう?」
「そうなのか?」
ビクトルが私にたずねる。
「ち、違うの!私は、その~、えっと、あ!ビクトルと鱚を食べたいなって……」
誤魔化そうと思って変なことを言ってしまった。
ミラナが盛大にため息をつく。きっと、ビクトルも呆れたに違いない。
「そうか。鱚が食べたいのか!よし、うちのシェフに用意させよう」
ビクトルは意外にも天然だった。
数日後、私はビクトルのお家で美味しい鱚のムニエルをいただいた。
私が不安そうな顔をしていたから、ミラナが慰めてくれた。彼女のくれた優しさが嬉しい。でも、私の不安が完全に払拭されることはなかった。
「そうね……。そう思いたいけれど……」
「そんなに気になるなら、キスしたいとビクトルさんに言ってみたら?」
「無理よ!恥ずかしいし、ビクトルにその気がなかったらどうするの?私がはしたない女みたいにならない?!」
真っ赤な顔で否定すると、ミラナは「やれやれ」という顔をした。
「じゃあ、どうにもできないわよ」
「そうだよね……」
がっくりと肩を落とすと、ミラナがよしよしと頭を撫でてくれた。
子供のように撫でられながら、私ってかなり面倒な女だよねと自省する。我慢させてないか?と不安になっておきながら、直接彼に伝えるのは恥ずかしいだなんて。随分、勝手な人間である。だが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「ウラリー、お待たせ」
名前を呼ばれて振り返ると、ビクトルがいた。
彼は週に一度、放課後に行われる特別講習を受けており、私はそれが終わるまでミラナと一緒に談話室で待っていたのだ。彼の講習が終わるまでの間、話し相手になってくれるミラナには感謝しかない。
「講習お疲れ様」
「ああ、ありがとう。普段の授業より進行が速いし、内容の難易度も高いから疲れるよ。ウラリーは今日もミラナさんと話しながら待っててくれたの?」
「うん。そうなの」
私が労いの言葉をかけると、ビクトルは嬉しそうにそれを受け取ってくれた。
そして、ミラナの方を向き、
「ウラリーが世話になったね」
「やだぁ~、ビクトルさんったらウラリーのお母さんみた~い」
ミラナがあははと笑いながらビクトルにツッコむ。彼も私もミラナのツッコミに笑ったが、彼女の次の一言でフリーズした。
「ビクトルさんを待ってる間、ウラリーと話していたんですけど、ウラリーってビクトルさんとキスしたいらしいですよ!」
ハッと我に返ってミラナの口を塞いだが、もう遅い。
「ちょっとミラナ何を言っているの?!」
「んむ、手を離してよ」
「ご、ごめん」
私はミラナの口から手を離した。
「事実を話したまでよ」
「だからって……!!」
「ウラリーは一年も付き合っているのに、キスをしたことがないと悩んでいたんでしょう?」
「そうなのか?」
ビクトルが私にたずねる。
「ち、違うの!私は、その~、えっと、あ!ビクトルと鱚を食べたいなって……」
誤魔化そうと思って変なことを言ってしまった。
ミラナが盛大にため息をつく。きっと、ビクトルも呆れたに違いない。
「そうか。鱚が食べたいのか!よし、うちのシェフに用意させよう」
ビクトルは意外にも天然だった。
数日後、私はビクトルのお家で美味しい鱚のムニエルをいただいた。
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