最強暗殺者は落ちこぼれ学園生

りう

文字の大きさ
4 / 31

四話

しおりを挟む
深い森の中。2つの足音が聞こえる。一つは大きく、もう一つは小さい。
ふと一つの足音が消え、代わりに「うわぁ!」という声と、何かが倒れる音がした。
「う、うわぁぁ!!ま、待ってくれ!待ってくれ!」
そう言って泣き叫ぶ男。
「それは無理だ。国からの命令なのでね」
そう冷たく言う少年はレアン。
「国……ということはお前は……」
「今更か。僕は魔術師だ」
「な、なんで国が俺を狙う!なにか悪いことでもしたっていうのか!」
「それは自分自身に聞くことだな、ラミレス男爵」 
「な、何もしてない!お、俺は……」
レアンは冷たい視線を男爵に向ける。
「ひっ」
男爵かが怯んだ。
「お前はまず、賄賂。そして領地の投棄。それで何人も死んだ。なぜそんなことをしたのか知らないが、罪に問われるなら充分だ。そして最後は、皇太子の殺人未遂」
男爵の顔が青ざめる。
「な、なんで……それを……」
「先週、お前の屋敷の蔵を洗わせてもらった」
「いつの間に……」
レアンを見て、呆ける男爵。
そしてある暗殺者の噂が頭にプレイバックしてきた。
「まだ十代の平民の最強暗殺者」
「狙われたら生きられた者はいない」
「その暗殺者は悪者だけを殺す。そのおかげで生きれた人が何人いるか……」
「名前や容姿はわからないけど、こう呼ばれている……」
男爵の前にいる少年は、どうみても十代。もしかして…。
「『闇の暗殺者』……」
そう男爵が呟くと、レアンが言った。
「そういうふうに呼ばないでくれる?正直不本意なんだ、その異名」
「お前が……」
……ということは、俺は殺されるのか?嫌だ、嫌だ……
するとレアンの瞳に冷たい光が灯る。
「そろそろいいかな?早く殺らなきゃ、怒られちゃうんだけど」
「や、やだ!死にたくない!許してくれぇ!」
「なんで?王家を殺そうとするなんて、死罪だ。それはお前もよくわかってただろう?」
そういうレアンの顔は驚くほど大人びていた。
「嫌だ、嫌だ、こんなの……俺がこの国を……」
「お前は過ちを犯した。それはわかっているか?」
レアンが質問しても、ぼーっとして何も答えないので、魔法を放とうと手を持ち上げると反応した。
「や、やめてくれ!そ、そうだ、俺がこの国の王になったら 、お前を公爵にしてやる!だから……」
「あいにく、権利や名誉に興味がないもんで」
そしてまた手を上げ、魔法を放とうとすると、レアンと同じくらいの少年の声がした。
「やめてくれ!」 
レアンが後ろを向くと、そこには一本の木から体半分だけだしている、泣きそうな顔をした少年が立っていた。
「話は聞いた。確かに悪い。『闇の暗殺者』に殺されるのも仕方がない」
すると男爵が焦ったように言った。
「おい!ディラン!」
「皇太子殿下を殺そうとした父上は黙ってて!」
そう少年が言うと男爵は絶望に顔を歪めた。
「お願いだ。それでも父上は俺の父親なんだ。……自分勝手だけど、はやくして母が死んだ僕を一人育ててくれた父親なんだ……お願いだ…」
レアンは正直迷った。レアンも幼くして父が亡くなり、母は強盗に襲われ、死んだ。家族が誰もいないという寂しさ、悔しさは誰よりもわかってる。
そして一番混乱しているのが、レアンが少年の気配を察知できなかったことだ。レアンは気配に敏感だ。強盗に襲われたことがあるからだろうが。レアンが気配を察知できなかったことはない 。
レアンは、この少年に素質があるのが解った。
そして自分がまだまだ未熟だ、ということも。
「分かった。しかし放置はできない。王宮に連行する。」
そして近くにいた同僚を呼び寄せ、連れて行かせた。
「さて……君はなんていうんだ?」
笑顔でそう聞くと、少年は答えた。
「ディラン・ラミレス」
「そうか、僕はレアン・オルドーラ。よろしく、ディラン」
すると、ディランは目に涙を浮かべながら頭を下げた。
「本当にありがとう」
「やめてくれ、ぼくは家族を失う恐ろしさを知っている。だからだ。でも一つ条件」
「なんだ?」
「国立魔術師育成学園に入ってもらう」
ディランそれを了承した。

その後、ラミレス男爵は爵位を剥奪され、無期懲役となった。
そしてそれから5ヶ月後、ディランとレアンは育成学園に入学し、新しい生活が始まったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...