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十八話(上)
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レアンが自分の机に突っ伏していると、部屋のドアが叩かれた。
「……?はい、どうぞ」
「入りまーす」
わざわざそう言いながら入ってきたのはフローラだ。
「あれ?フローラ、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないでしょ。今日、無断欠席したでしょ」
「……ごめん」
レアンが顔をそらしながら言うと、フローラは何かを悟ったのか、優しい声で言った。
「何かあったの?」
「……いや、なんでもないよ」
「ディランくんも心配してたよ」
「……そっか」
レアンは昨日のとこを思い出していた。
レアンが無茶を言い、ディランに心配をかけたこと。
それ以降ディランがレアンに話しかけなかったこと。
それを思い出すと、少し悲しくなる。
「ディランは……?」
「……なんか用事があるんだって」
「そっか」
それはうそだとレアンはすぐに気付いた。
きっと顔を合わせづらいのだろう。
「今日、イザヤくんは何もしてこなかったよ」
「……っ……そっか」
イザヤの名前を聞いたとき、少し動揺してしまったが、幸い気付かれなかったようだ。
「じゃあ、私はもう行くけど、何かあったら言ってね。力になれるかは…微妙だけど、力になれるように頑張るから」
「うん、ありがとう」
そしてフローラはニコリと笑い、去っていった。
「だめだな、僕」
フローラに心配をかけてしまうなんて。
きっとディランも心配している……と思う。
何もない、と言った以上、長く学校を休むわけにはいかない。
とたんに眠たくなってきた。
恐らく、泣いたのが原因だろう。
「……子供か、僕」
泣きつかれるなんて。
明日は学校に行かなきゃ……
そう思いながら、レアンは机の上で眠りについた。
「う、うぅん……」
レアンは起きた。
昨日のような恐ろしい夢は見なかった。
外はまだ日がさしたばかりで、うっすら暗い。
「少し早かったかな」
レアンは部屋のなかをぐるりと見回す。
そこには簡素なテーブルと自分が座っている机、ベット、棚、ハンガーにかけられた制服。そして棚の上にはアルベールとの写真。
満面の笑顔のレアン。それを優しく見守るアルベール。
レアンは立ち上がり、それを手に取る。
二人の後ろには教会のような塔が見える。
そこは二人が「秘密の遊び場」と呼んだ思い出の場所。
「懐かしいなぁ……」
そこはぼろぼろで、たまに瓦礫が上から落ちてきた。レアンとアルベールは、そこで魔法の練習をしていた。
(アル兄……)
違うよね……?
レアンは俯く。
しかし数秒後、顔を上げ、首を振る。
「しっかりしなきゃ!」
だんだんレアンの部屋に光が差してきた。
レアンは写真を置くと 、普段着を脱ぐ。そして制服を手に取り、シャツに袖を通した。
「あ!レアンくん!」
フローラが嬉しそうにやってくる。
七時半。レアンはフローラ、ディランと魔法の練習をするため、早く来ていた。
「ディランくんを待とう」
「ああ、そうだな」
ディランは見ためはチャラいが、根は真面目だ。遅刻したことはない。
しかし、この日は来なかった。
レアンとフローラは教室に行き、授業の開始時間を超えてもディランは来なかった。
レアンは先生のところに行き、聞いた。
「あの、先生、ディランは来ていませんか?」
先生は少し考えると言った。
「いや、分からないな。連絡は来ていないし、昨日のお前みたいに無断欠席じゃないか?」
「……すみません……」
何気に怒られ、レアンは謝る。
「校長先生が呼んでいたぞ、オルドーラ」
「……はい……」
絶対怒られる。
レアンは小さくため息をつく。
校長室への道。レアンは考え事をしていた。
イザヤのことが大半だが。
そのせいで、いつの間にかレアンは校長室を通り過ぎていた。
慌てて引き戻し、校長室のドアを叩く。
「校長先生、レアン・オルドーラです」
「来たか……入れ」
「……はい」
そしてドアを開け、入り、ドアを閉めると同時に、
「無断欠席をしたそうだな」
「す、すみません、師匠」
「ったく……お前がそういう事するなんて……」
「……すみません」
「何があった?」
「いえ、何も」
すると師匠がため息をついた。
「俺がそれで納得するとでも?」
レアンは俯く。
「言ってみなさい。俺は誰よりも長くレアンを見ている。力になるさ」
師匠は優しく笑う。
レアンはその笑顔に助けられ、ポツリと話し始めた。
イザヤの正体と決闘のこと。
ディランと喧嘩したこと。
そして昨日の夢のことと、イザヤが自分の兄かもしれないこと。
ディランが休んでいること。
全て。
すると師匠は言った。
「ディランくんのことは、今はなんとも言えない。しかし俺もなにか嫌な予感がするな……」
レアンは俯く。
やっぱりか……
そう思った。
「レアンのお兄さん、アルベールくんとか言ったか、それがイザヤだということは可能性は低い、と思う。世間には似ている人がいるものだ」
「……でもその割には似すぎている気がするんです」
師匠は「うーむ」と唸る。そして何か思い出したように「あっ!」と言った。
「そういえば、イザヤという少年、ウールヴェルム王国からの留学生だったな……まさかレアンを狙った魔術師だったなんてな……」
レアンは表情を険しくした。
「だから普通に入れたのか……」
そして、しばしの沈黙。
「しばらくは俺がイザヤ・ロザースを見守ってみよう」
「見守るという名の監視じゃないんですか?」
師匠はニヤッと笑う。
「かわいい弟子のためだ」
レアンはそんなこと言われると思っていなくて、驚いた後、照れたように顔をそむけた。
「やめてください、師匠」
師匠はそんなレアンを見て、してやったり、と笑った。
「じゃ、レアン、時間を取らせてしまって申し訳ないね。授業に戻りなさい」
「……はい」
時計を見ると、もう一時間近く過ぎていて、二時間目が始まっていた。
「じゃあ、失礼します、師匠」
「ああ、何かあったら言うんだぞ」
「……はい」
そして出ていく。
レアンのあまり元気のない笑顔を見て、師匠も心配になった。
レアンがこれほど落ち込むなんて……
師匠として、見過ごせない。
「おい、ジェイス」
そう言うと、隣の部屋から一人の男性が出てきた。
「なんですか、師匠」
「レアンの警護を頼む」
ジェイスと言うなの男性は首を傾げる。
「なぜ?あれ程の実力であれば一人で充分のはず」
「いや、心配になったのだ。あんなに落ち込んでいるレアンは、見たことがない」
そしてでジェイスを一瞥する。
「お前の兄弟子だ。きちんと、警護してくれよ」
「はい、師匠」
そしてジェイスに言った。
「アニータはどこだ?」
「恐らく、職員室に」
「分かった。では、お前がレアンの担任となれ。そしてアニータに伝えろ。イザヤ・ロザースの担任となり、監視するように、とな」
「他の弟子たちはどうしますか?」
「レアンを見守り、助けてやれ」
「分かりました。伝えます」
師匠はたくさんの弟子を持っている。魔術師を目指す者として知らない者はいないのだ。
彼の名は「ノア・ユルズ」。
元最強の魔術師でその冷酷さから、氷の魔法をよく使ったため、「氷矢のアサシン」と言われている。
レアンはそんな暗殺者の一番弟子。最強と言われるのも納得だ。
ジェイスが去っていくと、ノアは一人呟いた。
「レアンをあんなに苦しめているのか……許さないぞ、イザヤ・ロザース」
そしてノアはレアンを可愛い孫のように思っており、レアンにかなり甘いのだった。
「さて、俺も見ているだけには行かないからな、レアンを見守り、助けるとするか」
そしてノアは昔のノアのトレードマーク、黒いローブを羽織った。
校長が変わり、試験期間が遅くなったとはいえ、もうすぐ試験。
真面目なディランに限って、ないと思っていた。
「ディランくん、なんで来なかったんだろう……」
「ああ、何かあったのかな……?」
心配そうに顔を歪める二人。
「帰り、寄ってみるよ」
「うん」
レアンはフローラと早く別れた。
なぜだか、嫌な感じがしてならない。
早足で歩いていく。
寮に入り、自分の部屋を通り過ぎ、ディランの部屋に行く。
レアンは息を詰めた。
「……なっ」
なんで……
そう言おうとしたが、言葉が出なかった。
ディランの気配がなかった。
気配を隠しているのか、と思い、開ける。
もぬけの殻だった。
レアンは走り出した。
寮の階段を駆け上り、フローラの部屋へと行こうとする。
3階分の階段を登っている時、レアンを止めた人がいた。
「おっとっと、待て、闇の暗殺者さん」
「……イザヤ」
イザヤは微笑んだ。
その顔はアルベールそっくり、というかそのままだ。
「そんなに急いで、どこに行こうとしているんだ?」
「友達を探しているんだ、悪いか」
「……そうか」
そして鼻で笑うイザヤ。
「なにが言いたい」
「いや、その友達に心当たりがあるものでね」
レアンは目を見開く。
「……お前……!ディランに何をした!」
「いや、可愛い弟のためだよ。ディランくんは弟に何やら酷いことを言ったみたいでね」
「……その可愛い弟って、もしかして、僕のこと?」
レアンが勇気を出して問うと、イザヤは愛おしそうにレアンの頭を撫でる。
「そうだよ、レアン」
「っ!……アル兄……!」
レアンは怒りを覚えた。
「ディランを返せ!どこにいる!」
「まぁ、まず、話を聞いてほしいな」
「そんな余裕はないんだ、どこだ!」
「レアン。落ち着け。殺してなんかいない」
レアンは激しく呼吸をしている。
「まず、訓練場に来てもらおうか」
「なんでだ」
「ウールヴェルムから通達が来てね、殺す締切が明日になっちゃったんだ。でもそれじゃあレアンは納得しないでしょ?だから実力行使、だね。ディランくんを使っちゃった」
なんて汚いやり方だ。
レアンはそう思い、思いっきり自分の兄を睨む。
「……アル兄。一つ質問」
「なんだ?レアン」
「なんで僕を殺すの?」
「俺を助けてくれたウールヴェルムのためさ」
「アル兄はそれに抵抗したくなった?」
レアンはアンベールに「うん」と答えてほしかった。
レアンのささやかな希望が詰まった質問だった。
「……いいや。ウールヴェルムのためなら、なんでもするさ」
「……アル兄……」
レアンは決意した。
だめなら、実力でもとのアル兄を取り戻す。
「分かった。いいよ、訓練場に行こう」
するとアルベールは優しく笑う。
「俺も弟がどれだけ強くなったのか、見てみたいからね」
そしてアルベールはレアンの頭を撫で、階段を降りていった。
レアンも距離をとってから歩き始めた
「……?はい、どうぞ」
「入りまーす」
わざわざそう言いながら入ってきたのはフローラだ。
「あれ?フローラ、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないでしょ。今日、無断欠席したでしょ」
「……ごめん」
レアンが顔をそらしながら言うと、フローラは何かを悟ったのか、優しい声で言った。
「何かあったの?」
「……いや、なんでもないよ」
「ディランくんも心配してたよ」
「……そっか」
レアンは昨日のとこを思い出していた。
レアンが無茶を言い、ディランに心配をかけたこと。
それ以降ディランがレアンに話しかけなかったこと。
それを思い出すと、少し悲しくなる。
「ディランは……?」
「……なんか用事があるんだって」
「そっか」
それはうそだとレアンはすぐに気付いた。
きっと顔を合わせづらいのだろう。
「今日、イザヤくんは何もしてこなかったよ」
「……っ……そっか」
イザヤの名前を聞いたとき、少し動揺してしまったが、幸い気付かれなかったようだ。
「じゃあ、私はもう行くけど、何かあったら言ってね。力になれるかは…微妙だけど、力になれるように頑張るから」
「うん、ありがとう」
そしてフローラはニコリと笑い、去っていった。
「だめだな、僕」
フローラに心配をかけてしまうなんて。
きっとディランも心配している……と思う。
何もない、と言った以上、長く学校を休むわけにはいかない。
とたんに眠たくなってきた。
恐らく、泣いたのが原因だろう。
「……子供か、僕」
泣きつかれるなんて。
明日は学校に行かなきゃ……
そう思いながら、レアンは机の上で眠りについた。
「う、うぅん……」
レアンは起きた。
昨日のような恐ろしい夢は見なかった。
外はまだ日がさしたばかりで、うっすら暗い。
「少し早かったかな」
レアンは部屋のなかをぐるりと見回す。
そこには簡素なテーブルと自分が座っている机、ベット、棚、ハンガーにかけられた制服。そして棚の上にはアルベールとの写真。
満面の笑顔のレアン。それを優しく見守るアルベール。
レアンは立ち上がり、それを手に取る。
二人の後ろには教会のような塔が見える。
そこは二人が「秘密の遊び場」と呼んだ思い出の場所。
「懐かしいなぁ……」
そこはぼろぼろで、たまに瓦礫が上から落ちてきた。レアンとアルベールは、そこで魔法の練習をしていた。
(アル兄……)
違うよね……?
レアンは俯く。
しかし数秒後、顔を上げ、首を振る。
「しっかりしなきゃ!」
だんだんレアンの部屋に光が差してきた。
レアンは写真を置くと 、普段着を脱ぐ。そして制服を手に取り、シャツに袖を通した。
「あ!レアンくん!」
フローラが嬉しそうにやってくる。
七時半。レアンはフローラ、ディランと魔法の練習をするため、早く来ていた。
「ディランくんを待とう」
「ああ、そうだな」
ディランは見ためはチャラいが、根は真面目だ。遅刻したことはない。
しかし、この日は来なかった。
レアンとフローラは教室に行き、授業の開始時間を超えてもディランは来なかった。
レアンは先生のところに行き、聞いた。
「あの、先生、ディランは来ていませんか?」
先生は少し考えると言った。
「いや、分からないな。連絡は来ていないし、昨日のお前みたいに無断欠席じゃないか?」
「……すみません……」
何気に怒られ、レアンは謝る。
「校長先生が呼んでいたぞ、オルドーラ」
「……はい……」
絶対怒られる。
レアンは小さくため息をつく。
校長室への道。レアンは考え事をしていた。
イザヤのことが大半だが。
そのせいで、いつの間にかレアンは校長室を通り過ぎていた。
慌てて引き戻し、校長室のドアを叩く。
「校長先生、レアン・オルドーラです」
「来たか……入れ」
「……はい」
そしてドアを開け、入り、ドアを閉めると同時に、
「無断欠席をしたそうだな」
「す、すみません、師匠」
「ったく……お前がそういう事するなんて……」
「……すみません」
「何があった?」
「いえ、何も」
すると師匠がため息をついた。
「俺がそれで納得するとでも?」
レアンは俯く。
「言ってみなさい。俺は誰よりも長くレアンを見ている。力になるさ」
師匠は優しく笑う。
レアンはその笑顔に助けられ、ポツリと話し始めた。
イザヤの正体と決闘のこと。
ディランと喧嘩したこと。
そして昨日の夢のことと、イザヤが自分の兄かもしれないこと。
ディランが休んでいること。
全て。
すると師匠は言った。
「ディランくんのことは、今はなんとも言えない。しかし俺もなにか嫌な予感がするな……」
レアンは俯く。
やっぱりか……
そう思った。
「レアンのお兄さん、アルベールくんとか言ったか、それがイザヤだということは可能性は低い、と思う。世間には似ている人がいるものだ」
「……でもその割には似すぎている気がするんです」
師匠は「うーむ」と唸る。そして何か思い出したように「あっ!」と言った。
「そういえば、イザヤという少年、ウールヴェルム王国からの留学生だったな……まさかレアンを狙った魔術師だったなんてな……」
レアンは表情を険しくした。
「だから普通に入れたのか……」
そして、しばしの沈黙。
「しばらくは俺がイザヤ・ロザースを見守ってみよう」
「見守るという名の監視じゃないんですか?」
師匠はニヤッと笑う。
「かわいい弟子のためだ」
レアンはそんなこと言われると思っていなくて、驚いた後、照れたように顔をそむけた。
「やめてください、師匠」
師匠はそんなレアンを見て、してやったり、と笑った。
「じゃ、レアン、時間を取らせてしまって申し訳ないね。授業に戻りなさい」
「……はい」
時計を見ると、もう一時間近く過ぎていて、二時間目が始まっていた。
「じゃあ、失礼します、師匠」
「ああ、何かあったら言うんだぞ」
「……はい」
そして出ていく。
レアンのあまり元気のない笑顔を見て、師匠も心配になった。
レアンがこれほど落ち込むなんて……
師匠として、見過ごせない。
「おい、ジェイス」
そう言うと、隣の部屋から一人の男性が出てきた。
「なんですか、師匠」
「レアンの警護を頼む」
ジェイスと言うなの男性は首を傾げる。
「なぜ?あれ程の実力であれば一人で充分のはず」
「いや、心配になったのだ。あんなに落ち込んでいるレアンは、見たことがない」
そしてでジェイスを一瞥する。
「お前の兄弟子だ。きちんと、警護してくれよ」
「はい、師匠」
そしてジェイスに言った。
「アニータはどこだ?」
「恐らく、職員室に」
「分かった。では、お前がレアンの担任となれ。そしてアニータに伝えろ。イザヤ・ロザースの担任となり、監視するように、とな」
「他の弟子たちはどうしますか?」
「レアンを見守り、助けてやれ」
「分かりました。伝えます」
師匠はたくさんの弟子を持っている。魔術師を目指す者として知らない者はいないのだ。
彼の名は「ノア・ユルズ」。
元最強の魔術師でその冷酷さから、氷の魔法をよく使ったため、「氷矢のアサシン」と言われている。
レアンはそんな暗殺者の一番弟子。最強と言われるのも納得だ。
ジェイスが去っていくと、ノアは一人呟いた。
「レアンをあんなに苦しめているのか……許さないぞ、イザヤ・ロザース」
そしてノアはレアンを可愛い孫のように思っており、レアンにかなり甘いのだった。
「さて、俺も見ているだけには行かないからな、レアンを見守り、助けるとするか」
そしてノアは昔のノアのトレードマーク、黒いローブを羽織った。
校長が変わり、試験期間が遅くなったとはいえ、もうすぐ試験。
真面目なディランに限って、ないと思っていた。
「ディランくん、なんで来なかったんだろう……」
「ああ、何かあったのかな……?」
心配そうに顔を歪める二人。
「帰り、寄ってみるよ」
「うん」
レアンはフローラと早く別れた。
なぜだか、嫌な感じがしてならない。
早足で歩いていく。
寮に入り、自分の部屋を通り過ぎ、ディランの部屋に行く。
レアンは息を詰めた。
「……なっ」
なんで……
そう言おうとしたが、言葉が出なかった。
ディランの気配がなかった。
気配を隠しているのか、と思い、開ける。
もぬけの殻だった。
レアンは走り出した。
寮の階段を駆け上り、フローラの部屋へと行こうとする。
3階分の階段を登っている時、レアンを止めた人がいた。
「おっとっと、待て、闇の暗殺者さん」
「……イザヤ」
イザヤは微笑んだ。
その顔はアルベールそっくり、というかそのままだ。
「そんなに急いで、どこに行こうとしているんだ?」
「友達を探しているんだ、悪いか」
「……そうか」
そして鼻で笑うイザヤ。
「なにが言いたい」
「いや、その友達に心当たりがあるものでね」
レアンは目を見開く。
「……お前……!ディランに何をした!」
「いや、可愛い弟のためだよ。ディランくんは弟に何やら酷いことを言ったみたいでね」
「……その可愛い弟って、もしかして、僕のこと?」
レアンが勇気を出して問うと、イザヤは愛おしそうにレアンの頭を撫でる。
「そうだよ、レアン」
「っ!……アル兄……!」
レアンは怒りを覚えた。
「ディランを返せ!どこにいる!」
「まぁ、まず、話を聞いてほしいな」
「そんな余裕はないんだ、どこだ!」
「レアン。落ち着け。殺してなんかいない」
レアンは激しく呼吸をしている。
「まず、訓練場に来てもらおうか」
「なんでだ」
「ウールヴェルムから通達が来てね、殺す締切が明日になっちゃったんだ。でもそれじゃあレアンは納得しないでしょ?だから実力行使、だね。ディランくんを使っちゃった」
なんて汚いやり方だ。
レアンはそう思い、思いっきり自分の兄を睨む。
「……アル兄。一つ質問」
「なんだ?レアン」
「なんで僕を殺すの?」
「俺を助けてくれたウールヴェルムのためさ」
「アル兄はそれに抵抗したくなった?」
レアンはアンベールに「うん」と答えてほしかった。
レアンのささやかな希望が詰まった質問だった。
「……いいや。ウールヴェルムのためなら、なんでもするさ」
「……アル兄……」
レアンは決意した。
だめなら、実力でもとのアル兄を取り戻す。
「分かった。いいよ、訓練場に行こう」
するとアルベールは優しく笑う。
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