最強暗殺者は落ちこぼれ学園生

りう

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十七話(下)

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「レアン、レアン」
そう呼ぶのは一個上の兄、アルベール・オルドーラ。
「アル兄!」
幼いレアンは振り向き、嬉しそうに叫ぶ。
「ねぇねぇ、アル兄。見て!火の球、作れるようになったよ!!」
「おー!本当だな!すごいぞー!レアンは将来すごい魔術師になるぞ!」
そう言って頭を撫でるアルベール。
「うん!」
しかしふと、そのぬくもりが消えた。
「……え?」
レアンが呟く。
「アル兄?ねぇ、どこ?アル兄……」
「レアン!!」
後ろから声がする。
「アル兄!」
レアンは思いっきり後ろを振り向く。
「レアン、お前だけでも逃げろ!」
そこにあるのは、奴隷郵送用の粗雑なトラック。
「おい!奴隷がいないぞ!」
その声を聞いてアルベールが小声で言った。
「いいか、これからお前はあっちの道へ行け」
そう言って指差したのはさっきトラックが通った道。
「アル兄は?」
「俺もここを片付けたらすぐに向かう。……まずは隠れてろ」
そして背中を押される。地面にあったくぼみに転げ落ちる。それと同時に奴隷商人が来る。
「いた!おい!早く行くぞ!!」
「あの、親方。もう一人小さいガキがいたと思うんですけど」
親方と言われた男は唸る。
「確かに、いたような……」
そして周りを見る。
レアンは体を縮めた。
しかしくぼみがレアンの体を隠していた。
「……ちっ。いねぇじゃねえか」
そしてアルベールを乱暴に押しながらトラックまで歩く。
「ほら、早くいけ!こののろま!」
やがてトラックが去っていった。
くぼみの中のレアンは、寂しくて、悔しくて、ずっと泣いていた。
また、場面が切り替わった。学校の訓練場だ。
「レアン。これからお前は俺の敵だ」
大きくなったアルベールが言う。
しかし、昔のような優しさは含まれてなかった。
「アル兄、なんで……」
今のレアンが呟く。
そして、何もかもがなくなっていく。まず、友達が。レアンから離れていく。そこにはディランの姿も。唯一残ってくれたフローラは忽然と姿が消える。
次、視界も、意識も、感覚も……これって……

ーー死?

「……はっ!」
レアンが飛び起きる。
「アル、兄……」
ふと、アルベールの顔が昨日レアンに宣戦布告した一つ上の少年に重なる。
「い、いや、あり得ない……」
そしてまた、自分に言い聞かせるように言う。
「あり得ないよ。髪の色も違うし、目の色は同じだけど、まさかまさかアル兄だ、なんて……」
そして想像した。
イザヤの髪の色は金色。しかしアルベールは青みがかった黒。つまり紺。
イザヤの髪を紺に変える。
「だってほら、全く違………」
「全く違うでしょ」と言おうとしたレアンがフリーズする。
「違、わ、ない……」
脳裏に浮かべたその顔は、アルベールの顔、そのままだった。



その日、レアンは学校を休んだ。
学校に行く気になれなかったのだ。
恐らく後で呼び出しをくらい、育成学校の校長である、レアンの師匠に怒られるだろうが、それでも行きたくなかった。
「アル兄が……そんな訳……」
レアンは机に座り、ずっとそんなことを言っている。
「……もう、ヤダ」
レアンは立ち上がり、ベットに歩み寄ると、倒れ込む。
「アル兄が、そんなこと……」
そして我慢の限界が来た。
泣き出してしまったのだ。
頭の中ではアル兄があのイザヤ・ロザースではない、と否定し続けている。
しかし冷静に考えて、九十パーセント、イザヤはアルベールだろう。
「うぅぅ……なんで、なんで………」
枕に顔を押し付け、泣きじゃくる。
今まではいつも最終的には一人で判断し、一人で実行してきた。
しかし、今回のことはレアンにとって、自分だけじゃ、どうにもできないくらい、悲しかった。



「レアンくん、今日、来なかったね」
フローラがディランにそう言った。
今は帰り道。フローラとディランは二人で帰っていた。
「ああ、そうだね」
そして小さく言う。
「もしかして、昨日のこと……」
「……ん?なに?ディランくん」
「……いや、なんでもない」
フローラはすんなり諦める。
「ふぅーん……そっか」
「……うん」
「昨日のことは、関係ない。断言できる」
うぐっとディランは思わず声を出した。
ふふ…とフローラが笑う。
「図星?」
小さく頷く。
「レアン君がそんなことだけで学校に来なくなることはないって、正体を知っている私達だから知ってるるんじゃないの?」
「そう、だね」
「……でも、レアンくん、どうしたんだろう」
「行ってみたら?」
「行くって、レアンくんの部屋に?」
「そう。何かあったら聞いてやれるかもしれないだろ?……まぁ、俺がいたらとんだ迷惑だろうから……」
小さくそう言い、ディランは唇を噛みしめる。
なんであんなことしたんだろう。
なんでレアンを避けたんだろう。
昨日はずっとそう考えていた。
レアンは俺らのこと考えてそういったのに。
俺はレアンと一緒にいる資格はない。
ディランはずっと後悔していた。
だから。今更レアンを心配するなんて、されたらディランだったら怒る。
「ディランくんは行かないの?」
「うん。用事があるから」
本当は用事なんてない。ただの言い訳だ。
「……そっか」
一緒に歩きながら沈黙する。
「人見知りな私が言うのも何だけど、自分の気持ちとか、やりたいこととかは、自分で言わなきゃ伝わらないよ」
「フ、フローラ?」
フローラはニコリと笑う。
「まぁ、今すぐにとは言わないけどさ。じゃあ、私、レアンくんのところに行くから。バイバイ」
「あ、ああ。じゃあな」
フローラは笑顔で駆け出していく。
一人残されたディランは俯き、小さく言った。
「レアン、ごめんな……あんなこと言っちゃって」
「あー、ディランくん、レアンにひどいこと言っちゃったんだ」
後ろから声。しかもつい昨日聞いた声。誰よりも憎い声。
ディランは振り向く。
「イザヤ……」
外には涼しい笑顔のイザヤがいた。
「いやいや、俺のかわいいかわいい弟にひどいこと言ったんだ」
「お、弟?」
「うん、レアンは俺の弟だ」
「う、うそ……」
その直後、後頭部に衝撃が走った。
「あ、あぁ……!」
なんとか意識を保とうとするが、できない。
「だ、だめだ……」
母さん。父さん。仲間たち。フローラ。
「レアン……」
誰よりも強い自分の親友を呼ぶと、ディランの意識はなくなった。





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