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二十話
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「うーん……今日は動けそうだ」
レアンの体の痛みはだいぶ引いた。しかし完治というわけには行かない。
「まぁ……大丈夫だろう」
レアンは制服に着替えだした。
「明日からテストか……」
大変だなあ、とレアンはそっとため息をついた。
そして備え付けのキッチンでサンドイッチをニ個作る。そして口に加える。
パンにベーコンとレタスを挟んだだけのものだが、いつもより美味しく感じる。
レアンは数分で食べ終えると、リュックを掴み、中の教科書を確認し始めた。
「木曜だから、数学、魔法理論、あと実技……」
なれたもので、すらすら確認していく。
レアンはまた普通の学校生活に戻れることに内心ホッとしていた。
しかしそれが長く続かないことを一番よく理解しているのも他でもない、レアン本人だった。
普通の学校生活にができるだけ長く続きますように、と祈り、レアンはリュックを背負った。
レアンは七時半の朝練のためにディランとフローラを待っていた。
「早かったかな……」
今は七時。少し早く出過ぎた。
「おはようございます」
レアンは後ろを向いた。
「……どなたでしょうか」
そこにいたのはフローラでもなく、ましてやディランでもなかった。
レアンは気づかないふりをして本当はその人がレアンについてきていることに気づいていた。
「私はマヤ・ガルシアと申します。十六歳です。あなたの同僚であるソフィア・ガルシアの娘です」
「そうですか、お世話になっています」
確かにレアンの同僚にソフィアという人はいる。レアンはたまに良くしてもらっている。
「ソフィアさんの娘さんが何用ですか?」
「私、母からあなたのことを聞いております」
「……それで?」
なにか嫌な予感がしてレアンは眉をひそめる。
「婚約の打診に」
レアンはしばらく反応ができなかった。
「今、なんと?」
「婚約の打診に」
全く同じ言葉を繰り返された。
「私、あなたのことをだいぶ気にかけていたんですよ」
「それがなぜ婚約につながるのか、さっぱり理解できません」
するとマヤは少し顔を赤らめた。
「気にかけていた、というのは、その……異性として……」
レアンは瞬きをした。
この国では貴族の娘、息子は早いうちに婚約をして、結婚するのは知っている。
確かにソフィアも貴族だった。
しかしレアンは貴族ではない。なので無関係だ、と思っていたのだが。
「すみません。貴族の娘さんを嫁にする度胸は持ち合わせてないので」
「あ、ゆっくりでもいいんです!だから……」
よほど恥ずかしいのか顔を赤くしている。
「いや、初めてあったのに、急に言われても困りますので」
レアンは遠くにディランの姿を見つけ、マヤに「では」と言って、かけて行った。
走っている途中にレアンはため息をついた。
(体が動けるようになった、と思ったら婚約の打診とはな……僕に休む時間は与えられないのか?)
去っていくレアンを見てマヤは、俯いた。
レアンの声が脳に蘇る。
「初めてあったのに急に言われても困りますので」
マヤは、誰にも聞こえないような小さい声で呟いた。
「初めて、じゃないもん……」
レアンとマヤが初めてあったのは八年前。マヤが八歳、レアンが七歳のときだった。
マヤの家は貴族だ。なのでたまにパーティーが開かれた。
ソフィアは同僚であるレアンをそのパーティーに誘ったのだ。
「マヤ、その子、本当にすごいのよ。あなたと一歳しか違わないのよ」
ソフィアはマヤにそう言った。
マヤは、九歳なんだ、と思い込み、ソフィアに連れられ、レアンのもとに行った。
そこは花畑。レアンは意外と花が好きらしい。だから花たちを見つめる目は魔術師《あんさつしゃ》とは思えなかった。
むしろ、天使なんじゃないか、とも思ったほどだ。レアンの花を愛でる姿は、マヤの心の奥に刺さった。
マヤがレアンを見つめているとふとレアンがこちらを見た。
そして、首を傾げた。
「君は?」
反応しないマヤにソフィアが肩をつついた。
「あ、えと……マヤ・ガルシア……です」
「ガルシア……あ、ああ……ソフィアの……」
マヤはもちろん魔術師の世界を知っている。
実力がすべての難しい世界。
レアンはマヤの母であるソフィアを呼び捨てにした。普段なら怒っていただろうが、怒らなかった。レアンの体からはうっすらと魔力が漏れている。
魔術師になるなら魔力を抑えることなど造作もない。恐らく、レアンの魔力は抑えられないほど多いのだろう。
するとレアンはにっこり笑った。
「レアン・オルドーラです。七歳です」
そして手を差し出す。
七、歳?私より、一つ下?
年下が、魔術師に……?
「すごい……」
するとレアンは首を傾げた。
「どうしたんですか?」
差し出された手はきっとたくさんの人の血で汚れているのだろう。しかしマヤは恐れなかった。
任務では冷酷な暗殺者でも、普段は普通のマヤより一つ下の男の子。
それだけだ。
マヤは笑顔で手を差し出した。
「なんでもないよ」
レアンは未だに不思議そうな顔をしていたが、笑顔になると手を優しく握った。
その数ヶ月後だろうか、「闇の暗殺者」という最強の暗殺者が暗躍し、人を殺し、助けていることを知った。
ソフィアは何も言わなかったが、マヤはその「闇の暗殺者」がレアンだと直感で悟った。
「やっぱり、すごいね、レアン」
一つ下の暗殺者は私のことを覚えてくれてるかな?
マヤは握ってくれた手をそっと触った。
レアンの体の痛みはだいぶ引いた。しかし完治というわけには行かない。
「まぁ……大丈夫だろう」
レアンは制服に着替えだした。
「明日からテストか……」
大変だなあ、とレアンはそっとため息をついた。
そして備え付けのキッチンでサンドイッチをニ個作る。そして口に加える。
パンにベーコンとレタスを挟んだだけのものだが、いつもより美味しく感じる。
レアンは数分で食べ終えると、リュックを掴み、中の教科書を確認し始めた。
「木曜だから、数学、魔法理論、あと実技……」
なれたもので、すらすら確認していく。
レアンはまた普通の学校生活に戻れることに内心ホッとしていた。
しかしそれが長く続かないことを一番よく理解しているのも他でもない、レアン本人だった。
普通の学校生活にができるだけ長く続きますように、と祈り、レアンはリュックを背負った。
レアンは七時半の朝練のためにディランとフローラを待っていた。
「早かったかな……」
今は七時。少し早く出過ぎた。
「おはようございます」
レアンは後ろを向いた。
「……どなたでしょうか」
そこにいたのはフローラでもなく、ましてやディランでもなかった。
レアンは気づかないふりをして本当はその人がレアンについてきていることに気づいていた。
「私はマヤ・ガルシアと申します。十六歳です。あなたの同僚であるソフィア・ガルシアの娘です」
「そうですか、お世話になっています」
確かにレアンの同僚にソフィアという人はいる。レアンはたまに良くしてもらっている。
「ソフィアさんの娘さんが何用ですか?」
「私、母からあなたのことを聞いております」
「……それで?」
なにか嫌な予感がしてレアンは眉をひそめる。
「婚約の打診に」
レアンはしばらく反応ができなかった。
「今、なんと?」
「婚約の打診に」
全く同じ言葉を繰り返された。
「私、あなたのことをだいぶ気にかけていたんですよ」
「それがなぜ婚約につながるのか、さっぱり理解できません」
するとマヤは少し顔を赤らめた。
「気にかけていた、というのは、その……異性として……」
レアンは瞬きをした。
この国では貴族の娘、息子は早いうちに婚約をして、結婚するのは知っている。
確かにソフィアも貴族だった。
しかしレアンは貴族ではない。なので無関係だ、と思っていたのだが。
「すみません。貴族の娘さんを嫁にする度胸は持ち合わせてないので」
「あ、ゆっくりでもいいんです!だから……」
よほど恥ずかしいのか顔を赤くしている。
「いや、初めてあったのに、急に言われても困りますので」
レアンは遠くにディランの姿を見つけ、マヤに「では」と言って、かけて行った。
走っている途中にレアンはため息をついた。
(体が動けるようになった、と思ったら婚約の打診とはな……僕に休む時間は与えられないのか?)
去っていくレアンを見てマヤは、俯いた。
レアンの声が脳に蘇る。
「初めてあったのに急に言われても困りますので」
マヤは、誰にも聞こえないような小さい声で呟いた。
「初めて、じゃないもん……」
レアンとマヤが初めてあったのは八年前。マヤが八歳、レアンが七歳のときだった。
マヤの家は貴族だ。なのでたまにパーティーが開かれた。
ソフィアは同僚であるレアンをそのパーティーに誘ったのだ。
「マヤ、その子、本当にすごいのよ。あなたと一歳しか違わないのよ」
ソフィアはマヤにそう言った。
マヤは、九歳なんだ、と思い込み、ソフィアに連れられ、レアンのもとに行った。
そこは花畑。レアンは意外と花が好きらしい。だから花たちを見つめる目は魔術師《あんさつしゃ》とは思えなかった。
むしろ、天使なんじゃないか、とも思ったほどだ。レアンの花を愛でる姿は、マヤの心の奥に刺さった。
マヤがレアンを見つめているとふとレアンがこちらを見た。
そして、首を傾げた。
「君は?」
反応しないマヤにソフィアが肩をつついた。
「あ、えと……マヤ・ガルシア……です」
「ガルシア……あ、ああ……ソフィアの……」
マヤはもちろん魔術師の世界を知っている。
実力がすべての難しい世界。
レアンはマヤの母であるソフィアを呼び捨てにした。普段なら怒っていただろうが、怒らなかった。レアンの体からはうっすらと魔力が漏れている。
魔術師になるなら魔力を抑えることなど造作もない。恐らく、レアンの魔力は抑えられないほど多いのだろう。
するとレアンはにっこり笑った。
「レアン・オルドーラです。七歳です」
そして手を差し出す。
七、歳?私より、一つ下?
年下が、魔術師に……?
「すごい……」
するとレアンは首を傾げた。
「どうしたんですか?」
差し出された手はきっとたくさんの人の血で汚れているのだろう。しかしマヤは恐れなかった。
任務では冷酷な暗殺者でも、普段は普通のマヤより一つ下の男の子。
それだけだ。
マヤは笑顔で手を差し出した。
「なんでもないよ」
レアンは未だに不思議そうな顔をしていたが、笑顔になると手を優しく握った。
その数ヶ月後だろうか、「闇の暗殺者」という最強の暗殺者が暗躍し、人を殺し、助けていることを知った。
ソフィアは何も言わなかったが、マヤはその「闇の暗殺者」がレアンだと直感で悟った。
「やっぱり、すごいね、レアン」
一つ下の暗殺者は私のことを覚えてくれてるかな?
マヤは握ってくれた手をそっと触った。
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