【完結】【R18】女騎士はクールな団長のお役に立ちたい!

misa

文字の大きさ
2 / 81
本編

キスをかけた勝負! 1

しおりを挟む



 騎士団の屋内訓練場に、剣と剣のぶつかり合う音が響く。互いの出方をうかがうように距離を取りながら、剣が擦れ打ち合う音が鳴り響く。
 時に軽く、時に深く、呼気と合わせて動きに緩急がつけられていく。

「はっ」

 気合いとともに踏み込み、アマーリエは相手の模擬剣を弾き飛ばした。次の瞬間には歓声とどよめきが走る。

(これで七人……あと何人いるの?)

 アマーリエは一戦終えて一段高くなった演武壇からおりた。訓練場の端に置いていたタオルで汗を拭いながら周囲を見回す。
 騎士団の服は体に添うような細身の白基調の上着とズボンであるが、今は訓練用の簡素な騎士服なので式典用より軽いのがマシだ。
 しかし細身であるのには変わりなく、汗で湿って張り付く感覚が不快だったが、不快を振り捨てるように首を振る。括っていたにも関わらず、はらりと乱れた金色の髪が垂れてきた。「次誰がいく?」などと言っているところに声をあげる。

「髪直すから待って」

 アマーリエがひとまとめにしていた髪をパッとほどくと、陽光で染めたような明るい金色の髪がはらりと舞う。持参した鏡を出して波打つ髪に軽く櫛を入れて再度括る。

(何でこんなことになったのかしら)

 鏡の中の自分と目があった途端に、弱気な声が心の中に漏れた。母親譲りのぱっちりとした二重の眼は普段はもう少ししゃっきりしているが、今は空色の瞳が不安に揺れる。瞳だけでなく、特に手入れもしていなくても整った眉に、すらりとした鼻も母親譲りであるが、生彩を欠いたように思える。試合で紅潮した頬と気合いで引き結んだ唇が白い肌に目立っていた。
 本日は第十騎士団と所属の第十一騎士団の二団による合同訓練であり、それぞれの団長副長の役職が不在だったのも手伝って、和気藹々と始まった。
 ……のは良かったのだが、一部が悪乗りし始めた結果、賭けを始めた。金銭ではなくアマーリエと、もう一人いる女性騎士――アンナのキスを賭けて模擬戦をしようと言って盛り上がった。
 当然アマーリエもアンナも全力で拒否したし、心ある一部の団員も反対してくれた。しかし、多勢に無勢で押しきられた。
 アマーリエは、武門の誉れ高いヴェッケンベルグ辺境伯家の娘として、剣の腕には覚えがある。二団で八十名を超える団員の半分以上には勝てる自信がある。
 そこで、アマーリエが勝てそうな団員を相手にしている間に、アンナと団員の中で特にこの賭けに激しく反対してくれたアレックスが、役職を呼びに行ってくれている。会議だったり宿直待機明けで不在の役職の誰かが来てくれれば、変な馬鹿騒ぎはおさまるに違いない。そこまでアマーリエは持ちこたえなければいけない。

(絶対、負けられない。絶対キスなんてしないもん)

 家名にかけてというよりは女性として負けられない。
 壇上を囲んで溢れんばかりにいる団員たちを気合いを入れて見上げ、次の対戦者らしき相手を見据えた。
 模擬剣を握って壇上に上がったとき、目の端に人波を掻き分けてこちらに向かって進んでくるオリーブブラウンの髪をした背の高い男性と、可愛い栗色の髪の小柄な女性を捉えた。

「アマーリエ、大丈夫~? マティアス副長連れてきたよ」

 人波を掻き分けてアンナが、第十一騎士団の副長であるマティアスの手を引いて、壇の袂までやってきた。マティアスは宿直で徹夜で書類を仕上げて寝ていただろうに来てくれたようだ。緊張と気合いでいっぱいだった心が少し軽くなった。

「もう負けても大丈夫だよ。とりあえず副長で妥協しよう!」
 眦のきりっとした菫色の瞳を、安堵に煌めかせたアンナに叫ぶように答えた。
「嫌! いくら副長でもキスなんて嫌よ! アンナだって、アレックス以外は嫌でしょう?」
「何でそこでアレクが出てくるの? それより、副長でいいでしょ? 一番適当な人選でしょ?」
「アンナこそ何で? キスするんだよ? 私、嫌よ。副長はいい人だけど、好きじゃない人にキスは嫌!」
「ええ?! 何でそんなに頑ななの?」

 お互い驚き首をかしげつつも、平行線のまま珍しく白熱しかけたが――

「あー、お嬢さん方フロイライン、私の心がどんどん抉られていくので、そこまでにしてくれ」

 穏やかであるが苦々しい声に少し冷静になる。濃く深い緑の眼は苦渋に濁っていた。

「すみません、副長」

 アンナと二人で詫びるとマティアスは微苦笑を浮かべてから、「さて」と他の団員たちを見回す。アマーリエたちにみせた穏やかな笑みのまま、視線には厳しい光を浮かべていた。

「アマーリエ嬢が何人下したかわからないけど、次から男だけで勝ち抜き戦やるぞ。最後に残ったやつがアマーリエ嬢と戦って白黒つける方法に変更な」

 マティアスの宣言に、周囲から「ええー」と不満の声があがる。どうやら努力して説得したり、副長権限で押さえつけて止めさせるより、自分が勝ったほうが簡単だと判断したらしい。元々役職が来る前にアマーリエが負けた場合は、残りの団員で勝ち抜き戦をやらせて時間稼ぎをする予定だったので驚きはない。

「ちなみに私も参加するぞ」

「何でだよー」と先程より大きな不満の声があがったが、マティアスは意に介した様子もなく、アマーリエの肩をぽんと叩いて下がるように促した。
 模擬剣を他の団員から受け取ってマティアスは、先程アマーリエが次の対戦相手と定めていた団員と模擬戦を始めた。
 アマーリエとアンナは並んで壇の上がり口の脇で見学する。マティアスは副長に選ばれるだけあって他の団員よりも腕は立つため、危なげなく勝ちを重ねていった。
 アンナは安心したように「マティアス副長頑張って~」と応援している。いつもなら勉強になると思って一挙手一投足熱心にみるのだが、アマーリエは逃げ出したいほどのもやもやとした気持ちに胸が塞がれてしまって、それどころではなかった。
 マティアスは普段から何かと気を配ってくれている優しい人だが、キスをする気にはなれない。

(初めては好きな人がいいもん)

 諦めきれない。しかし、回避する方法が思いつかない。アマーリエではマティアスに勝てない。マティアスがアマーリエとの試合で手を抜いてくれることを祈るより他はない。
不安を圧し殺して手を握りしめるが、自分の指先が冷たくなっているのを自覚する。

「お前たち、何をしている!」

 低い声が打ち据えるように一喝した。皆――試合中の二人ですら手を止めて、声のした方向を向いた。怒りに満ちた低い声だが、アマーリエの耳にはどこか甘く感じた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

処理中です...