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本編
救出
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翌日。
手付かずのまま夕食のパンが残っていたためか、朝食は出されなかった。そして、日が登りはじめた朝方に森小屋を出発する。
昨日に引き続き、今日も暑くなりそうだ。
とはいえ、太陽が存在感を主張しはじめる前に、ナナセ達は荷馬車に押し込められてしまったけれど。
文官の青年が御者席に座っているらしく、あの蛇の目の男が荷台に同乗していた。ナナセ達は拘束もされていないのに、気詰まりな時間を過ごす。
犯人達は、厳しい検問をどう切り抜けるつもりなのか。
その答えは、森を出たところにポツンと存在する小屋の中にあった。
川沿いのその小屋に到着した頃には、太陽が中天に差し掛かろうとしていた。
もうすぐ正午。
ということは、国境が近い。
あらかじめ立ち寄る計画になっていたのだろう、そこには何と、三基の棺が準備されていた。彼らの狙いは死者を運んでいるふうに偽装することか。
「お前達には、流行り病で死んだ村人になってもらう。そうすりゃ検問官も関わりたがらないだろ?」
悔しいが、なかなかいい作戦だ。感染を恐れて確認を怠る可能性は高い。
男が垢じみた服を着ているのも、このためだったのだろう。いかにも貧しい農村出身といった感じで、流行り病に太刀打ちできない印象を与える。
「ただ問題は、棺の数が足りねぇことだ。やっぱりここで、あんたを殺しとくべきか」
蛇のような目付きの男はニヤニヤとしながら、ナナセの喉元にナイフを突き付ける。
あまりに無造作で、人を殺すことに躊躇いがないのだと改めてよく分かった。
「……国境を越えたあとも、移動は続くのですよね? でしたら、殺すにしても早すぎるのではないでしょうか?」
必死に頭を回転させて言い訳をひねり出すと、男はうっそりと目を細める。
「いいねぇ、ゾクゾクするぜ。怯えながらも必死に生き残ること考えてる目だ」
その瞳は、危うい狂気を発していた。早く殺したくて堪らないとでもいうような。
それが伝わったのだろう、商人風の男が億劫そうに制止した。
「よさないか。その小娘の言い分にも一理あるぞ。一番小さい王女の棺なら、多少狭くはなるだろうが何とか入るだろう」
蛇の目の男は、仲間の意見に頷いた。
「そうだな。あんたが側にいないと恐ろしくて、手が付けられなくなるらしいし」
揶揄する響きに、到底信じていないだろう男の考えが透けていた。
忌々しさから、つい眼差しの険が増す。男はますます愉快げに笑うばかりだった。
ここで、以前にも増してしっかりと拘束される。猿轡も噛まされ、声を出すこともままならない。
リリスターシェに狭い思いをさせてしまうことは心苦しいが、体を横たえられる。すると一気に自由が利かなくなった。
ゴトリと音を立てながら、棺に重い蓋がされる。死んだわけでもないのに絶望的な心地になった。
敵の数、向かう検問。
知りうる限りの情報を記し、手がかりを残した。できることは全てやったつもりだ。
けれどなす術もなくガタゴト揺られていると、不安が疼きだす。
本当に助けてもらえるだろうか。
独断で青年に預けたリボンは、手がかりとして残してもらえただろうか。燃やされたり捨てられたりしていないか。
彼の良心を信じたけれど、脅す方が強制力を持たせられたかもしれない。後悔はあとからあとからわき上がってくる。
エレミアはその後、苦手としている侍女長に散々絞られたのではないだろうか。
きっとそれでも心配をしてくれるのだろう。素直じゃないから、怒ることで不安を押し隠しながら。
後輩達はいつも通り仕事をしているだろうか。レムンドや家令のクライブは高齢だから、あまり寿命の縮まりそうなことに巻き込まれたくなかったのだが。
周囲の人達を思い浮かべていれば、自然とリオルディスに行き着いてしまう。
彼は、今どこにいるだろうか。
きっと誘拐事件が起こったせいで駆けずり回っているに違いない。
ベルトラート達はともかく、ナナセは無事では済まないかもしれない。
それならばもっと、色々な本音をぶつければよかったとも思う。
日本に帰りたいこと。それはどこかで諦めがついていること。ぐだぐだと悩んでいるけれど、完全に諦めるためのきっかけを欲していること。
それがリオルディスであれば――と、心の奥底で願っていること。
どれを打ち明けても困らせるだけだから、決して口にはしなかった。
想いを伝えることも、日本にいる家族への裏切りのような気がして。
ガタン、と荷馬車が停止した。
ほんの僅かではあるが、複数の気配を感じる。国境、クライアラインに着いたのだ。
意識した途端、呼吸が早くなった。
耳をすませば久しぶりに第三者の声が聞こえる。それが、とても新鮮に感じた。
「我々は、国境検問官である。ここを通るならば荷をあらためさせてもらうぞ」
「へぇ、もちろん構いません。ただ急いで埋葬したいんで、なるべく早くしてくだせぇ」
「埋葬? ……棺か」
頭上を飛び交う会話に、焦りが募る。
犯人達の声音は虚ろで弱々しく、演技は完璧と言ってよかった。
村で流行り病が起こり、次々に人が死んでいったことをぼそぼそと打ち明けていく。
それに同情しつつも、検問官は明らかに及び腰だ。このままではあっさりと通行を許可してしまう。
渾身の力で体を揺り動かせば、気付いてもらえるだろうか。あるいは、猿轡越しでも精一杯騒げば。
だが、気付いてもらえなかったら。
今度こそ、ナナセは殺されるだろう。
怖い。
――どうしよう。怖い。どうすれば……。
動くべきなのに。足掻き続けるべきと偉そうに説教したくせに。怖くて体が動かない。
リリスターシェにも、震えは伝わっているだろう。彼女を不安にさせてしまうと頭では理解しているのに、平静を装う余裕がない。
――お父さん、お母さん……。お姉ちゃんお兄ちゃん――――リオルディス様……!!
その時、凛と涼やかな声が耳を打った。
「――きちんと荷をあらためよと、通達しておいたはずだが」
あまりに聞き慣れた声。
ナナセの全身から一瞬で力が抜けていく。
「副団長様、ですが……」
「もういい。私が代わろう」
「いえ、そういうわけには!」
検問官との押し問答を聞いている内に、自然と涙がこぼれた。
姿を確かめたわけでもないのに、柔らかな灰色の瞳が鮮明に浮かぶ。
間違いようがない、リオルディスだ。
――本当に、助けに来てくれた……。
身体中を喜びが駆けめぐる。
震えがおさまった体は、今度こそしっかり動いてくれた。躊躇うことなく体当たりをすれば、膝が棺の蓋に当たる。
木製の棺の蓋というのは、意外と重い。
ナナセの力では小揺るぎもしなかったけれど、リオルディスは僅かな異変も聞き逃さないでくれた。
軍靴の音が急いた足取りで近付いてくる。
「――無事か、ナナセ!!」
確信を込めて名を呼ばれた。
重いはずの蓋が軽々と外され、目映い日差しが視界を白く焼く。
光に慣れた瞳を徐々に開くと、鮮明な夏の青空が広がっていた。
そこにリオルディスの銀髪と弾ける笑顔が飛び込んでくるから、再び視界を奪われたように錯覚してしまう。
「ナナセ、よかった……!」
再会を喜ぶリオルディスに、ナナセは必死になって首を横に振る。
猿轡で言葉は発せずとも、意図は察してくれたらしい。彼は勇ましい表情になって立ち上がった。
「王子殿下、王女殿下を無事発見! ただちに誘拐犯らを捕縛せよ!」
鋭い号令を受け、大勢の騎士が飛び出してくる。これほどの人数が潜伏していたのかと驚くほどだ。
けれど蛇の目の男の方が、一瞬早い。
青ざめて震える商人風の男を尻目に、獣のような身のこなしで駆けていく。
包囲網が完成する前にと、男は最も手薄なところに狙いを定めた。
数人の騎士が応戦のため身構えるも、うまくかわしてすり抜ける。
「国境を抜けられては手が出せなくなる! 弓兵、一気に射かけろ!」
リオルディスの合図に弓矢が降り注いだが、男には当たらない。背中はどんどん遠ざかっていく。
蛇の目の男は一度だけ振り返った。
目が合った気がして、ナナセはゾクリと体を震わせる。
リオルディスのことだから、国境沿いにも騎士を配置しているだろう。
けれどあの男は、おそらく逃げおおせる。そんな予感がする。
同じ結論に至ったのか、リオルディスは悔しげに小さく舌打ちした。
「くれぐれも深追いはするな! 一班はこれより、殿下方の護衛に注力せよ! 二班は残る誘拐犯を捕縛!」
揃いの鎧をまとった騎士が、きびきびとした動作で動く。拘束を解かれたベルトラート達が、互いの無事を喜び合う。
ナナセの拘束は、リオルディスが至極丁寧に外していった。
赤くなった手首や足首、長時間噛まされていた猿轡のせいで閉じられない顎。その一つ一つを確認し、表情を曇らせていく。
首筋にうっすら残るナイフの跡をなぞられた時は、さすがに赤くなってしまった。
「ナナセ。改めて、本当に無事でよかった」
「リオルディス様、助けていただいてありがとうございます。その上で偉そうなことを言うようですが、私ではなく殿下方を優先してくださいね」
先ほど、猿轡のせいで言えなかった苦言を呈する。
彼は束の間虚を突かれたような顔をしたが、それは次第に苦笑へと変わっていく。
「そんなところも、実にナナセらしい」
リオルディスは穏やかな声音で呟くと、ゆっくりナナセを抱きすくめた。
手付かずのまま夕食のパンが残っていたためか、朝食は出されなかった。そして、日が登りはじめた朝方に森小屋を出発する。
昨日に引き続き、今日も暑くなりそうだ。
とはいえ、太陽が存在感を主張しはじめる前に、ナナセ達は荷馬車に押し込められてしまったけれど。
文官の青年が御者席に座っているらしく、あの蛇の目の男が荷台に同乗していた。ナナセ達は拘束もされていないのに、気詰まりな時間を過ごす。
犯人達は、厳しい検問をどう切り抜けるつもりなのか。
その答えは、森を出たところにポツンと存在する小屋の中にあった。
川沿いのその小屋に到着した頃には、太陽が中天に差し掛かろうとしていた。
もうすぐ正午。
ということは、国境が近い。
あらかじめ立ち寄る計画になっていたのだろう、そこには何と、三基の棺が準備されていた。彼らの狙いは死者を運んでいるふうに偽装することか。
「お前達には、流行り病で死んだ村人になってもらう。そうすりゃ検問官も関わりたがらないだろ?」
悔しいが、なかなかいい作戦だ。感染を恐れて確認を怠る可能性は高い。
男が垢じみた服を着ているのも、このためだったのだろう。いかにも貧しい農村出身といった感じで、流行り病に太刀打ちできない印象を与える。
「ただ問題は、棺の数が足りねぇことだ。やっぱりここで、あんたを殺しとくべきか」
蛇のような目付きの男はニヤニヤとしながら、ナナセの喉元にナイフを突き付ける。
あまりに無造作で、人を殺すことに躊躇いがないのだと改めてよく分かった。
「……国境を越えたあとも、移動は続くのですよね? でしたら、殺すにしても早すぎるのではないでしょうか?」
必死に頭を回転させて言い訳をひねり出すと、男はうっそりと目を細める。
「いいねぇ、ゾクゾクするぜ。怯えながらも必死に生き残ること考えてる目だ」
その瞳は、危うい狂気を発していた。早く殺したくて堪らないとでもいうような。
それが伝わったのだろう、商人風の男が億劫そうに制止した。
「よさないか。その小娘の言い分にも一理あるぞ。一番小さい王女の棺なら、多少狭くはなるだろうが何とか入るだろう」
蛇の目の男は、仲間の意見に頷いた。
「そうだな。あんたが側にいないと恐ろしくて、手が付けられなくなるらしいし」
揶揄する響きに、到底信じていないだろう男の考えが透けていた。
忌々しさから、つい眼差しの険が増す。男はますます愉快げに笑うばかりだった。
ここで、以前にも増してしっかりと拘束される。猿轡も噛まされ、声を出すこともままならない。
リリスターシェに狭い思いをさせてしまうことは心苦しいが、体を横たえられる。すると一気に自由が利かなくなった。
ゴトリと音を立てながら、棺に重い蓋がされる。死んだわけでもないのに絶望的な心地になった。
敵の数、向かう検問。
知りうる限りの情報を記し、手がかりを残した。できることは全てやったつもりだ。
けれどなす術もなくガタゴト揺られていると、不安が疼きだす。
本当に助けてもらえるだろうか。
独断で青年に預けたリボンは、手がかりとして残してもらえただろうか。燃やされたり捨てられたりしていないか。
彼の良心を信じたけれど、脅す方が強制力を持たせられたかもしれない。後悔はあとからあとからわき上がってくる。
エレミアはその後、苦手としている侍女長に散々絞られたのではないだろうか。
きっとそれでも心配をしてくれるのだろう。素直じゃないから、怒ることで不安を押し隠しながら。
後輩達はいつも通り仕事をしているだろうか。レムンドや家令のクライブは高齢だから、あまり寿命の縮まりそうなことに巻き込まれたくなかったのだが。
周囲の人達を思い浮かべていれば、自然とリオルディスに行き着いてしまう。
彼は、今どこにいるだろうか。
きっと誘拐事件が起こったせいで駆けずり回っているに違いない。
ベルトラート達はともかく、ナナセは無事では済まないかもしれない。
それならばもっと、色々な本音をぶつければよかったとも思う。
日本に帰りたいこと。それはどこかで諦めがついていること。ぐだぐだと悩んでいるけれど、完全に諦めるためのきっかけを欲していること。
それがリオルディスであれば――と、心の奥底で願っていること。
どれを打ち明けても困らせるだけだから、決して口にはしなかった。
想いを伝えることも、日本にいる家族への裏切りのような気がして。
ガタン、と荷馬車が停止した。
ほんの僅かではあるが、複数の気配を感じる。国境、クライアラインに着いたのだ。
意識した途端、呼吸が早くなった。
耳をすませば久しぶりに第三者の声が聞こえる。それが、とても新鮮に感じた。
「我々は、国境検問官である。ここを通るならば荷をあらためさせてもらうぞ」
「へぇ、もちろん構いません。ただ急いで埋葬したいんで、なるべく早くしてくだせぇ」
「埋葬? ……棺か」
頭上を飛び交う会話に、焦りが募る。
犯人達の声音は虚ろで弱々しく、演技は完璧と言ってよかった。
村で流行り病が起こり、次々に人が死んでいったことをぼそぼそと打ち明けていく。
それに同情しつつも、検問官は明らかに及び腰だ。このままではあっさりと通行を許可してしまう。
渾身の力で体を揺り動かせば、気付いてもらえるだろうか。あるいは、猿轡越しでも精一杯騒げば。
だが、気付いてもらえなかったら。
今度こそ、ナナセは殺されるだろう。
怖い。
――どうしよう。怖い。どうすれば……。
動くべきなのに。足掻き続けるべきと偉そうに説教したくせに。怖くて体が動かない。
リリスターシェにも、震えは伝わっているだろう。彼女を不安にさせてしまうと頭では理解しているのに、平静を装う余裕がない。
――お父さん、お母さん……。お姉ちゃんお兄ちゃん――――リオルディス様……!!
その時、凛と涼やかな声が耳を打った。
「――きちんと荷をあらためよと、通達しておいたはずだが」
あまりに聞き慣れた声。
ナナセの全身から一瞬で力が抜けていく。
「副団長様、ですが……」
「もういい。私が代わろう」
「いえ、そういうわけには!」
検問官との押し問答を聞いている内に、自然と涙がこぼれた。
姿を確かめたわけでもないのに、柔らかな灰色の瞳が鮮明に浮かぶ。
間違いようがない、リオルディスだ。
――本当に、助けに来てくれた……。
身体中を喜びが駆けめぐる。
震えがおさまった体は、今度こそしっかり動いてくれた。躊躇うことなく体当たりをすれば、膝が棺の蓋に当たる。
木製の棺の蓋というのは、意外と重い。
ナナセの力では小揺るぎもしなかったけれど、リオルディスは僅かな異変も聞き逃さないでくれた。
軍靴の音が急いた足取りで近付いてくる。
「――無事か、ナナセ!!」
確信を込めて名を呼ばれた。
重いはずの蓋が軽々と外され、目映い日差しが視界を白く焼く。
光に慣れた瞳を徐々に開くと、鮮明な夏の青空が広がっていた。
そこにリオルディスの銀髪と弾ける笑顔が飛び込んでくるから、再び視界を奪われたように錯覚してしまう。
「ナナセ、よかった……!」
再会を喜ぶリオルディスに、ナナセは必死になって首を横に振る。
猿轡で言葉は発せずとも、意図は察してくれたらしい。彼は勇ましい表情になって立ち上がった。
「王子殿下、王女殿下を無事発見! ただちに誘拐犯らを捕縛せよ!」
鋭い号令を受け、大勢の騎士が飛び出してくる。これほどの人数が潜伏していたのかと驚くほどだ。
けれど蛇の目の男の方が、一瞬早い。
青ざめて震える商人風の男を尻目に、獣のような身のこなしで駆けていく。
包囲網が完成する前にと、男は最も手薄なところに狙いを定めた。
数人の騎士が応戦のため身構えるも、うまくかわしてすり抜ける。
「国境を抜けられては手が出せなくなる! 弓兵、一気に射かけろ!」
リオルディスの合図に弓矢が降り注いだが、男には当たらない。背中はどんどん遠ざかっていく。
蛇の目の男は一度だけ振り返った。
目が合った気がして、ナナセはゾクリと体を震わせる。
リオルディスのことだから、国境沿いにも騎士を配置しているだろう。
けれどあの男は、おそらく逃げおおせる。そんな予感がする。
同じ結論に至ったのか、リオルディスは悔しげに小さく舌打ちした。
「くれぐれも深追いはするな! 一班はこれより、殿下方の護衛に注力せよ! 二班は残る誘拐犯を捕縛!」
揃いの鎧をまとった騎士が、きびきびとした動作で動く。拘束を解かれたベルトラート達が、互いの無事を喜び合う。
ナナセの拘束は、リオルディスが至極丁寧に外していった。
赤くなった手首や足首、長時間噛まされていた猿轡のせいで閉じられない顎。その一つ一つを確認し、表情を曇らせていく。
首筋にうっすら残るナイフの跡をなぞられた時は、さすがに赤くなってしまった。
「ナナセ。改めて、本当に無事でよかった」
「リオルディス様、助けていただいてありがとうございます。その上で偉そうなことを言うようですが、私ではなく殿下方を優先してくださいね」
先ほど、猿轡のせいで言えなかった苦言を呈する。
彼は束の間虚を突かれたような顔をしたが、それは次第に苦笑へと変わっていく。
「そんなところも、実にナナセらしい」
リオルディスは穏やかな声音で呟くと、ゆっくりナナセを抱きすくめた。
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