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本編
帰還の裏側
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恐ろしい誘拐事件から一週間。
長い静養と事情聴取の日々を乗り越え、職場復帰を果たしたナナセを待っていたのは、恐ろしすぎて直視したくない現実だった。
あの日のナナセは、すっかり熟睡してしまっていた。安心しきっていたのだ。
殿下方も似たような状態だったらしく、起こそうにも起きる気配がない。
ならばと、基本が脳筋な騎士集団は、食事も睡眠もそこそこに爆走した。馬車なら通常一昼夜以上かかる道のりを、駆け通した。
殿下方を一刻も早く王宮で休ませて差し上げたいという、配慮だったのかもしれない。単純に、気を遣うべき者達が起きないなら自分達のペースで進んでもいいかと結論づけたのかもしれない。
どちらにせよ、翌日の明け方には王宮に到着したのだから、驚異的なスピードと言える。往路では一日半かかった道程を、騎士達は一日もかけずに戻ってみせたのだ。
殿下方は全員、そこで目を覚ましたらしい。ナナセは、起きなかった。起きることができなかった。
「あぁ……今思い出しても素敵な光景だったわ。あれぞまさしく、姫を守る孤高の騎士。まるで宝物のようにナナセを抱き締め、見下ろす瞳からは愛情がとめどなく溢れ、何人たりとも触れることは許さないとばかりに昂然と回廊を進んでいく姿。それはもう一幅の絵に残しておきたいほどで――」
「……恐れながら、姫はリリスターシェ王女殿下の方かと思われます……」
滔々と語るリリスターシェは、誘拐された恐ろしさなどどこかに吹き飛んでしまったかのような興奮ぶりだ。元気そうでよかった。
久しぶりに王女の私室でのお茶会へと招かれたナナセは、乾いた笑みを浮かべる。
そう。あの日しっかり目覚めていれば、こんなことにはならなかった。
何とナナセは、お姫様抱っこによる帰城を果たしてしまったのだ。
誘拐事件を受け、王宮で働く人々は不安を抱えたまま眠れぬ夜を過ごしていた。つまり、ほとんどの人間が起きていた。
朝陽差す幻想的な景色の中、堂々と城門前に乗り付けた馬車。
報せを受け駆け付ける使用人達は、王子や王女の無事な姿に喜び合う。
最後に馬車を下りたのは、リオルディス。
彼は頑として起きないナナセを救護室まで連れて行くと部下に伝え、その場を去ったという。お姫様抱っこをしたままで。
声をかけられる者などいなかった。歓喜の涙さえ流していた使用人達は、遠ざかっていく背中を無言で見送ったという。
相当泣き腫らしていたはずなので、リオルディスの気遣いはたいへんありがたい。
ありがたいのだが、もう少し粗雑に扱ってくれればこうも騒がれなかっただろうにとも思ってしまう。
おかげで復帰初日の今日、出勤した途端知り合いに取り囲まれた。
エレミアは無事を喜びながらも怒り狂うし、後輩侍女達は愛される極意を興味津々で聞いてくるし。
空気を読まずに明け透けな質問をしたゼファルには、落ち着いた頃に仕返し必須だ。頭の中にしっかりメモをしておく。
エクトーレは部下の件で内密に話したいのか『二人きりで会いたい』などと言い出すし、その意味深すぎる誘い文句に周囲はさらにどよめくし。
騎士団長のソーリスディアまで出張ってきて、今この瞬間王宮の全機能が停止しているのではと絶望的に思った時、現れたのがリリスターシェだった。
『ナナセ、体調が戻ったようで何よりだわ。そうだ、久しぶりにお茶でもどうかしら?』
まさに鶴の一声。王女殿下の登場によって、ようやく集団は散開したのだった。
結局、リリスターシェからも辱しめのごとくお姫様抱っこの素晴らしさを語られているので、逃れられたとは言いがたい状況にあるけれど。
「はぁ……副団長とあなた、本当に素敵だった。わたくしも、いつかあんなふうに……」
夢見るように熱い吐息を漏らすリリスターシェを眺め、ナナセはやおら頷いた。
「体格や腕力を考慮すると、あと数年後になるかもしれませんね」
「ナナナナナナナナセ!? わたくし、誰とは名指ししておりませんのに!」
慌てふためき紅茶をこぼしてしまったリリスターシェだが、侍女長のエビータが素早く拭き取る。
相変わらず王女の影のように気配を殺している彼女は、テーブルを拭く際ナナセを一睨みすることも忘れない。この溺愛ぶりも本当に相変わらずだ。
「ごめんなさい、わたくしったら……」
「いえ、こちらこそ失礼を申し上げました。非礼をお詫びいたします」
リリスターシェは、ナナセへの許しもそこそこに、再びカップに口を付ける。
今日の茶葉は、高地栽培されている稀少な種だという。おそれ多いが、このお茶会にもだいぶ慣れた。
というより、あの死線を共にくぐり抜けた仲間意識が芽生えているのかもしれない。
立場をわきまえなければいつか許されない罪を犯しそうだと、気を引き締め直す。
「あれからお二人はどうなりましたの? この静養の一週間は、やはり蜜月?」
「副団長がお見舞いに来てくださったことは否定いたしませんが、そもそも恋人同士というのが根拠のないデマですので」
お姫様抱っこの衝撃のためか、ナナセとリオルディスが恋仲であるという根も葉もない噂が、この一週間ですっかり浸透してしまっているようだった。
訊かれるたび断固として否定しているのだが、王族まで届いているなら火消しは難しいだろうか。
これほど各方面から反応があるとは、リオルディスの人気ぶりを改めて実感する。
「ナナセったら慎み深いのね。わたくしには本当のことを言ってもいいのよ?」
「本当も何も、今述べたことが事実です」
「もう、本当に慎み深いのだから……」
今日これを言われるのも何度目だろうか。そしてどんなに否定しようと、やはり勝手な解釈をされてしまう。
おそらく、誘拐事件が無事に解決し、王宮中が浮かれているのだろう。
盛り上がりように若干引いてしまうが、これも結束力の高さゆえと思えばよいことだ。誰もが生き生きとしている職場には、やはり活気がある。
――ただ、今だけはちょっと放っておいてほしい……。
リオルディスとの関係を詮索されるたび、表情を取り繕うのが辛かった。
あの、助けに来てくれた時の喜び。
優しい抱擁。安心できる温もり。
今までだって好きにならないよう、必死に自分を戒めていたのだ。
あんなのもう、落ちるに決まっている。
お見舞いに来てくれた時も眩しすぎて直視できなかったし、不自然にならないよう振る舞うので精一杯だった。まだ体調が万全でないからだと思ってくれていればいいが。
互いに身の回りが落ち着いたら、事件解決の祝いを兼ね食事に行こうと誘われている。
二人で出かけたことは数えきれないほどあるが、好きと自覚してからは初めてだ。正直、どうすればいいのか分からない。
灰色の、優しい色合いの瞳。
目元を和ませて微笑む仕草、弾けるような笑い声。料理を取り分ける綺麗な指先。
思い出すだけで胸がいっぱいになってしまって、自然に頬に熱が集まってくる。
ふと、周囲がやけに静かなことに気付く。
顔を上げると、キラキラしたリリスターシェの瞳とかち合った。
「ナナセ。慎み深いのはあなたの美点だけれど、本当の本当に、わたくしはどんな話でも聞くわよ」
「あの……?」
「あなたにそんなにも可愛らしいお顔をさせてしまうお話、ぜひ聞きたいわ」
ナナセは慌てて顔を隠した。
一人で百面相をしていたらしい。
「リリスターシェ王女殿下。どうか、おからかいにならないでください……」
「フフフ、からかってなどいないわ。本当に可愛らしいのだもの」
ナナセはもう、何も言えなかった。
「――ナナセ」
呼びかけに振り向くと、エビータがいつの間にかすぐ側まで移動していた。いつもの無表情が近い。
「ちなみに私も、恋のお話は大好物です」
「侍女長……」
「エビータ……」
辺りに、何とも言えない空気が漂う。
本気なのか冗談なのか、怖くて確かめることさえできなかった。
ナナセは気を取り直すと、一つ咳払いをしてから話題を変える。
「リリスターシェ王女殿下。実はこのあと、どうしても外せない用件がごさいまして。たいへん無礼とは存じますが、中座のご許可をいただきたく……」
「あら、そうなの? 今日は復帰明けだから、休憩を挟んだあとは簡単な備品の整備作業が割り振られていたはずだけれど」
ナナセの勤務内容を把握していることについては、特に驚かない。
彼女はいつも、十分に気を遣いお茶会に誘ってくれている。
重要だったり、どうしてもナナセでなければ回らなかったりする業務時に誘われたことは、これまで一度もなかった。
「今日は、同僚に勤務を代わってもらうつもりなのです。……今回の誘拐事件で捕縛された文官の直属の上司とは、以前からの知り合いでしたので」
先ほどは暴動のような騒ぎに思わず逃走してしまったが、エクトーレと話さなければならない。彼はとても必死な様子だった。
多くを語らずとも、賢明なリリスターシェは頷いた。
「そうだったのね……分かったわ。残念だけれど、お茶会はいつでもできるもの」
主人が鷹揚に頷いたためか、エビータももう恋バナを広げるつもりはないようだ。中座も咎められなくてよかった。
リリスターシェが儚げに微笑む。
「わたくし達が助かったのは、あの文官の働きのおかげもあったのだと聞いたわ。……ナナセ、その上司の方に、わたくしからもよろしくお伝えして」
「かしこまりました。必ず」
ナナセは心から頭を下げる。
王女の私室に、厳かで繊細な空気が流れた。
長い静養と事情聴取の日々を乗り越え、職場復帰を果たしたナナセを待っていたのは、恐ろしすぎて直視したくない現実だった。
あの日のナナセは、すっかり熟睡してしまっていた。安心しきっていたのだ。
殿下方も似たような状態だったらしく、起こそうにも起きる気配がない。
ならばと、基本が脳筋な騎士集団は、食事も睡眠もそこそこに爆走した。馬車なら通常一昼夜以上かかる道のりを、駆け通した。
殿下方を一刻も早く王宮で休ませて差し上げたいという、配慮だったのかもしれない。単純に、気を遣うべき者達が起きないなら自分達のペースで進んでもいいかと結論づけたのかもしれない。
どちらにせよ、翌日の明け方には王宮に到着したのだから、驚異的なスピードと言える。往路では一日半かかった道程を、騎士達は一日もかけずに戻ってみせたのだ。
殿下方は全員、そこで目を覚ましたらしい。ナナセは、起きなかった。起きることができなかった。
「あぁ……今思い出しても素敵な光景だったわ。あれぞまさしく、姫を守る孤高の騎士。まるで宝物のようにナナセを抱き締め、見下ろす瞳からは愛情がとめどなく溢れ、何人たりとも触れることは許さないとばかりに昂然と回廊を進んでいく姿。それはもう一幅の絵に残しておきたいほどで――」
「……恐れながら、姫はリリスターシェ王女殿下の方かと思われます……」
滔々と語るリリスターシェは、誘拐された恐ろしさなどどこかに吹き飛んでしまったかのような興奮ぶりだ。元気そうでよかった。
久しぶりに王女の私室でのお茶会へと招かれたナナセは、乾いた笑みを浮かべる。
そう。あの日しっかり目覚めていれば、こんなことにはならなかった。
何とナナセは、お姫様抱っこによる帰城を果たしてしまったのだ。
誘拐事件を受け、王宮で働く人々は不安を抱えたまま眠れぬ夜を過ごしていた。つまり、ほとんどの人間が起きていた。
朝陽差す幻想的な景色の中、堂々と城門前に乗り付けた馬車。
報せを受け駆け付ける使用人達は、王子や王女の無事な姿に喜び合う。
最後に馬車を下りたのは、リオルディス。
彼は頑として起きないナナセを救護室まで連れて行くと部下に伝え、その場を去ったという。お姫様抱っこをしたままで。
声をかけられる者などいなかった。歓喜の涙さえ流していた使用人達は、遠ざかっていく背中を無言で見送ったという。
相当泣き腫らしていたはずなので、リオルディスの気遣いはたいへんありがたい。
ありがたいのだが、もう少し粗雑に扱ってくれればこうも騒がれなかっただろうにとも思ってしまう。
おかげで復帰初日の今日、出勤した途端知り合いに取り囲まれた。
エレミアは無事を喜びながらも怒り狂うし、後輩侍女達は愛される極意を興味津々で聞いてくるし。
空気を読まずに明け透けな質問をしたゼファルには、落ち着いた頃に仕返し必須だ。頭の中にしっかりメモをしておく。
エクトーレは部下の件で内密に話したいのか『二人きりで会いたい』などと言い出すし、その意味深すぎる誘い文句に周囲はさらにどよめくし。
騎士団長のソーリスディアまで出張ってきて、今この瞬間王宮の全機能が停止しているのではと絶望的に思った時、現れたのがリリスターシェだった。
『ナナセ、体調が戻ったようで何よりだわ。そうだ、久しぶりにお茶でもどうかしら?』
まさに鶴の一声。王女殿下の登場によって、ようやく集団は散開したのだった。
結局、リリスターシェからも辱しめのごとくお姫様抱っこの素晴らしさを語られているので、逃れられたとは言いがたい状況にあるけれど。
「はぁ……副団長とあなた、本当に素敵だった。わたくしも、いつかあんなふうに……」
夢見るように熱い吐息を漏らすリリスターシェを眺め、ナナセはやおら頷いた。
「体格や腕力を考慮すると、あと数年後になるかもしれませんね」
「ナナナナナナナナセ!? わたくし、誰とは名指ししておりませんのに!」
慌てふためき紅茶をこぼしてしまったリリスターシェだが、侍女長のエビータが素早く拭き取る。
相変わらず王女の影のように気配を殺している彼女は、テーブルを拭く際ナナセを一睨みすることも忘れない。この溺愛ぶりも本当に相変わらずだ。
「ごめんなさい、わたくしったら……」
「いえ、こちらこそ失礼を申し上げました。非礼をお詫びいたします」
リリスターシェは、ナナセへの許しもそこそこに、再びカップに口を付ける。
今日の茶葉は、高地栽培されている稀少な種だという。おそれ多いが、このお茶会にもだいぶ慣れた。
というより、あの死線を共にくぐり抜けた仲間意識が芽生えているのかもしれない。
立場をわきまえなければいつか許されない罪を犯しそうだと、気を引き締め直す。
「あれからお二人はどうなりましたの? この静養の一週間は、やはり蜜月?」
「副団長がお見舞いに来てくださったことは否定いたしませんが、そもそも恋人同士というのが根拠のないデマですので」
お姫様抱っこの衝撃のためか、ナナセとリオルディスが恋仲であるという根も葉もない噂が、この一週間ですっかり浸透してしまっているようだった。
訊かれるたび断固として否定しているのだが、王族まで届いているなら火消しは難しいだろうか。
これほど各方面から反応があるとは、リオルディスの人気ぶりを改めて実感する。
「ナナセったら慎み深いのね。わたくしには本当のことを言ってもいいのよ?」
「本当も何も、今述べたことが事実です」
「もう、本当に慎み深いのだから……」
今日これを言われるのも何度目だろうか。そしてどんなに否定しようと、やはり勝手な解釈をされてしまう。
おそらく、誘拐事件が無事に解決し、王宮中が浮かれているのだろう。
盛り上がりように若干引いてしまうが、これも結束力の高さゆえと思えばよいことだ。誰もが生き生きとしている職場には、やはり活気がある。
――ただ、今だけはちょっと放っておいてほしい……。
リオルディスとの関係を詮索されるたび、表情を取り繕うのが辛かった。
あの、助けに来てくれた時の喜び。
優しい抱擁。安心できる温もり。
今までだって好きにならないよう、必死に自分を戒めていたのだ。
あんなのもう、落ちるに決まっている。
お見舞いに来てくれた時も眩しすぎて直視できなかったし、不自然にならないよう振る舞うので精一杯だった。まだ体調が万全でないからだと思ってくれていればいいが。
互いに身の回りが落ち着いたら、事件解決の祝いを兼ね食事に行こうと誘われている。
二人で出かけたことは数えきれないほどあるが、好きと自覚してからは初めてだ。正直、どうすればいいのか分からない。
灰色の、優しい色合いの瞳。
目元を和ませて微笑む仕草、弾けるような笑い声。料理を取り分ける綺麗な指先。
思い出すだけで胸がいっぱいになってしまって、自然に頬に熱が集まってくる。
ふと、周囲がやけに静かなことに気付く。
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「ナナセ。慎み深いのはあなたの美点だけれど、本当の本当に、わたくしはどんな話でも聞くわよ」
「あの……?」
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「リリスターシェ王女殿下。どうか、おからかいにならないでください……」
「フフフ、からかってなどいないわ。本当に可愛らしいのだもの」
ナナセはもう、何も言えなかった。
「――ナナセ」
呼びかけに振り向くと、エビータがいつの間にかすぐ側まで移動していた。いつもの無表情が近い。
「ちなみに私も、恋のお話は大好物です」
「侍女長……」
「エビータ……」
辺りに、何とも言えない空気が漂う。
本気なのか冗談なのか、怖くて確かめることさえできなかった。
ナナセは気を取り直すと、一つ咳払いをしてから話題を変える。
「リリスターシェ王女殿下。実はこのあと、どうしても外せない用件がごさいまして。たいへん無礼とは存じますが、中座のご許可をいただきたく……」
「あら、そうなの? 今日は復帰明けだから、休憩を挟んだあとは簡単な備品の整備作業が割り振られていたはずだけれど」
ナナセの勤務内容を把握していることについては、特に驚かない。
彼女はいつも、十分に気を遣いお茶会に誘ってくれている。
重要だったり、どうしてもナナセでなければ回らなかったりする業務時に誘われたことは、これまで一度もなかった。
「今日は、同僚に勤務を代わってもらうつもりなのです。……今回の誘拐事件で捕縛された文官の直属の上司とは、以前からの知り合いでしたので」
先ほどは暴動のような騒ぎに思わず逃走してしまったが、エクトーレと話さなければならない。彼はとても必死な様子だった。
多くを語らずとも、賢明なリリスターシェは頷いた。
「そうだったのね……分かったわ。残念だけれど、お茶会はいつでもできるもの」
主人が鷹揚に頷いたためか、エビータももう恋バナを広げるつもりはないようだ。中座も咎められなくてよかった。
リリスターシェが儚げに微笑む。
「わたくし達が助かったのは、あの文官の働きのおかげもあったのだと聞いたわ。……ナナセ、その上司の方に、わたくしからもよろしくお伝えして」
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