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番外編
キャラ文芸大賞感謝リクエスト 葵とひなこif 後編
しおりを挟む『葵とひなこが付き合っている』。
同じクラスの女生徒からそんな噂があると聞き、葵は詳細を迫った。
何とそれは、去年のホワイトデーから広まったもので、今はすっかり学園全体に浸透しているというのだ。
原因は、特定の人間以外とはほとんど話さない葵の性格と、日々増えていくお揃いの小物にあった。
当初はひなこに対して嫉妬をぶつける者もいたが、仲睦まじさを目の当たりにして数を減らしていったという。普段は無表情な葵があまりに優しい表情をするから、諦めざるを得ないと。
葵は、苦々しい気持ちで自らを見下ろした。視界に映るのは、ひなこと色違いで購入したチェックのマフラー。
彼女はおそらく、噂自体を知らないだろう。何でもすぐ顔に出る素直な気質のため、知れば挙動不審になっていたはずだ。
もし、知ってしまったら。
重いものでも飲み込んだような気分になって、その日の授業はずっと上の空になってしまった。
放課後になると、足は自然とB組の方へ向いていた。
ひなこの姿はすぐに見つかった。優香と楽しそうにおしゃべりしている。
葵の存在に気付いたのは、彼女の友人の方が早かった。
「あ、もうお迎え来てるわよ。ホント、飽きもせずご苦労様よね」
「うん? 僕は、そんな言われ方をされるほど来ているか?」
「うっそ無自覚なの? ほぼ毎日じゃない」
「……そうだったか?」
優香の呆れた眼差しを受け止めている内に、ひなこは帰り支度を済ませていた。
「私は毎日でも、葵君と一緒に帰るの楽しいよ。――お待たせ。行こうか」
彼女はいつもの、温かな笑顔を浮かべる。首元にはグレー系のチェックのマフラー。
心がほっこり和む特有の雰囲気が、いつもよりずんと胸に響いた。
並んで校舎を出ると、途端に北風が吹き付ける。舞い上がる彼女の黒髪は、いつの間にか背中まで伸びていた。
「うぅ、寒いね~」
「爆弾低気圧が発生しているからな」
「春はまだ遠いね」
ひなこは手袋をしているのに、一生懸命手を擦り合わせている。鼻の頭も少し赤くなっていて、こういう間抜けなところが可愛いと思ってしまう。
「――僕とお前が付き合っていると、噂が流れているらしいな」
呟いたのは、本当に無意識だった。言った途端に後悔が込み上げる。
……彼女の表情が曇る瞬間なんて、見たくなかったのに。
ところが、ひなこの顔は思いがけず真っ赤に染まった。驚きに足が止まる。
「葵君も、知っちゃったんだ……。あのね、私もちょっと前に聞いたんだ。全然知らない子に悪口言われたりしてたんだけど、私みたいなのがミスコンに出たからだろうって思ってて。優香からその噂が原因だって教えてもらった時は、本当に驚いたよ」
恥ずかしさを紛らすためなのか、ひなこはやけに饒舌だった。真っ赤なまま、ずっと顔を俯かせている。
「否定はしたんだよ。葵君の迷惑になるからって。でも、全然どうにもならなくて、」
「別に、迷惑ではない。ただ、噂を知っていたことが意外だった。お前はそんな素振り、一切見せなかったから」
あまりに悲愴な顔をするから、遮るように彼女の声を断ち切った。どうでもいいからちゃんと目を見たい。
ひなこが、恐る恐る顔を上げる。
いつの間にか、彼女は見下ろすほど小さくなっていた。いや、葵が大きくなったのだ。
小さな顔が泣きそうに歪む。潤んだ黒い瞳は、吸い込まれそうに美しかった。
「……い、今までみたいに一緒にいられなくなったらどうしようって、怖くて」
――こんなに寒いのに、胸が熱いのはなぜなのだろう。
葵はわき起こる衝動のまま、ひなこの髪に触れていた。
「――あぁ、なるほど。僕は、ひなこが好きなんだな」
ようやく、全てが腑に落ちた。
ポカンとした顔で硬直してしまったひなこを置き去りに、葵は続ける。
「お揃いの小物が嬉しいのも、すぐに顔を見たくなるのも、無意識に可愛いと思うのも。全て、お前だけだ。……僕も、噂を聞いて、不安だった。拒絶されるんじゃないかと」
「きょ、拒絶なんて、するわけないよ!」
ひなこが、咄嗟にといったふうに否定する。必死に首を振る姿を可愛く思う。動くたび振り撒かれる甘い香りに胸がざわめいた。
葵はさらに彼女との距離を縮める。
艶やかな髪に触れていた手を、確かめるように頬へと伸ばす。
ひなこは宣言通り拒絶しなかった。その代わり、じわじわと頬が熟れていく。芳醇な果実のようで、おいしそうだと思った。
「私、私も、葵君のこと……好き。 ……葵君の手、冷たくて気持ちいいね」
頬の熱さを和らげるためだと分かっていても、彼女の発言に頭を抱えたくなった。あまり無防備にされても困る。
「そういうことは、あまり軽々しく言うな。もっと触れたくなる」
「え、えっと、軽い気持ちじゃないよ?」
不思議そうに問い返され、葵は逃げるように視線を外した。耳の先が熱い。
「……行くぞ。こんな寒い日にいつまでも外にいれば、風邪をひく」
いつもの帰宅ルートを歩き出す。
いつもと違うのは、恋人同士のように手を繋いでいること。
「葵君。えぇと、これって私達、噂が本当になったってことでいいのかな?」
「嫌なのか?」
「ううん。嬉しくて、夢みたいで」
ひなこが、へにゃりと表情を緩ませる。繋いだ手が弾むように揺れる。
頬まで熱くなってきて、おそらく彼女にはこの先ずっと敵わないのだろうと、葵は本能で悟ることとなった。
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