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生後9日目
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✽✽✽
-レストラン-
大晴は意を決して口を開く。
「俺…本当は「刑事」になりたいんだ」
「え…!?」
突然の報告に絃は驚愕するも、大河と光莉は静かに次の言葉を待った。
「7年前、俺は「誘拐」されたことがあるんだ」
「…っ…誘拐!?…本当に…?」
戸惑う絃の声が辺りに響き渡る。
「まぁ、四宮の息子だし…王族の血筋だし…」
「昔も今も、狙われる要素は沢山あるよ」
大晴の言葉に絃はフと我が子の顔を思い浮かべ、身震いする。
「誘拐された時、自分はこのまま死ぬのかな…って、本気で思ったんだ」
「でも…「ある刑事さん」が俺を助けてくれた」
大晴にとっては「辛い過去の記憶」ではあるものの、同時に「人生の分岐点」になった思い出でもあった。
「何十人もいた誘拐犯を一人でバッタバッタ倒してさ!」
【もう大丈夫だ!良く頑張ったな、坊主!】
「あの人は、俺にとって「ヒーロー」なんだ!」
「俺も「あの人」みたいに、誰かの「ヒーロー」になりたい!」
興奮からか大晴の頬が薄っすらと色付き、夢を語る瞳はキラキラと輝いていた。
「俺は一人息子だし、絶対に反対されると思って…ずっと黙ってた」
「でも…」
「このまま「憧れを憧れのまま」にしたくない!」
ギュッ…と、絃の手を強く握りながら
「刑事になって、弱者を守れる大人になりたい」
「…絃と子供を、守れる男になりたい…」
大晴は絃に誓うように、力強く宣言したのだった。
繋がった手の熱さからは「思いの強さ」を、力強い眼差しからは「覚悟」を感じ取り、絃はゆっくりと口を開いた。
「…大晴くん、僕はね…「料理人」になりたいんだ」
「えぇっ!?」
柔らかい微笑みを浮かべながら、絃は過去を振り返った。
「僕が中学生の時…両親が亡くなって施設に来た子がいたの」
「その子はいつも隅っこにいて、誰が何を話しかけても全く喋らなくて…」
「月日が経つにつれて、その子は施設でどんどん孤立していっちゃったの…」
ポツポツと言葉を吐き出す度に、絃の脳裏には懐かしい日々が蘇る。
「でもある日、施設長が突然「皆でホットケーキを焼こう!」って、言い始めて…」
「最初は意味が分からなかったんだけど…皆でホットケーキを焼いて食べの!強制的に、その子も一緒にね」
「そしたら突然、その子がボロボロ泣き出して「美味しい」って、言ったの…」
「いっぱい泣いて、いっぱい食べて…次の日からその子は皆と遊ぶようになった」
「…何か言った訳でもないし、特別な何かがあった訳でもない」
「ただ皆でご飯を食べただけ…でも…」
「それが「大切なこと」なんだって、僕は気付いたの」
絃の濁りのない、透き通ったビー玉のような瞳に見つめられ、大晴は息を呑んだ。
「僕は、そういう「場所」を作りたい」
「ずっと自分なんか…って、思ってたけど…」
「僕も「憧れ」で終わらせくない!」
「大晴くん、一緒に頑張ろう!」
「…っ、絃…」
互いの夢を共有し、尊重することで、二人は改めて共に生きて行こうと誓うも
「子育てというのは「時間も自由も体力も精神も」何もかもが削られる」
「そんな極限状態の中で夢を追うのは、簡単じゃあない」
「世の中そんなに甘くはない」
大河の厳しい言葉と視線が、二人に突き刺さる。
「…っ…」
「親父…俺たちは…」
しかし
「だから「子供は一人では」育てられないんだ」
二人の言葉を遮り、大河は話を続けた。
「沢山の人に迷惑をかけなさい」
「沢山の人に助けを求めなさい」
「その分、沢山の人に感謝をしなさい」
「「…っ…!」」
先輩パパの言葉は、二人の心に「希望」を与え
「あなた達は、まだ若い」
「きっと、心ない言葉を言われることもあると思うの…」
「そしたら思い出して欲しい」
「あなた達には「味方」がいることを…」
先輩ママの言葉は、二人の心に「潤い」を与えてくれた。
「お互いに支え合って、自分達が望む未来を進みなさい」
「……本当にいいのか…会社は…?」
背中を押してくれる親の言葉に嬉しい反面、大晴は戸惑いを見せる。
「子供の夢を応援しない親はいない」
「…心配なだけだ」
「そうよ!会社の跡継ぎなんて、どうとでもなるわ!」
「血筋に拘るなんて、今の時代ナンセンスよ!」
光莉は肩を竦めながら、大きく首を左右に揺らした。
「頑張りなさい」
「…本当に苦しい時は、相談しなさい」
両親からの「無上の愛」が、大晴の心に深く深く突き刺さった。
そして、その「愛」は更に「子」へと受け継がれていく。
「「はい!」」
二人は強く互いの手を握り合い、共に未来へ向かって歩み始めたのだった…。
✽✽✽
次が最終話です。
次回作の案内あり。
その後は、番外編を少しアップします!
引き続き応援よろしくお願いいたしますm(_ _)m
-レストラン-
大晴は意を決して口を開く。
「俺…本当は「刑事」になりたいんだ」
「え…!?」
突然の報告に絃は驚愕するも、大河と光莉は静かに次の言葉を待った。
「7年前、俺は「誘拐」されたことがあるんだ」
「…っ…誘拐!?…本当に…?」
戸惑う絃の声が辺りに響き渡る。
「まぁ、四宮の息子だし…王族の血筋だし…」
「昔も今も、狙われる要素は沢山あるよ」
大晴の言葉に絃はフと我が子の顔を思い浮かべ、身震いする。
「誘拐された時、自分はこのまま死ぬのかな…って、本気で思ったんだ」
「でも…「ある刑事さん」が俺を助けてくれた」
大晴にとっては「辛い過去の記憶」ではあるものの、同時に「人生の分岐点」になった思い出でもあった。
「何十人もいた誘拐犯を一人でバッタバッタ倒してさ!」
【もう大丈夫だ!良く頑張ったな、坊主!】
「あの人は、俺にとって「ヒーロー」なんだ!」
「俺も「あの人」みたいに、誰かの「ヒーロー」になりたい!」
興奮からか大晴の頬が薄っすらと色付き、夢を語る瞳はキラキラと輝いていた。
「俺は一人息子だし、絶対に反対されると思って…ずっと黙ってた」
「でも…」
「このまま「憧れを憧れのまま」にしたくない!」
ギュッ…と、絃の手を強く握りながら
「刑事になって、弱者を守れる大人になりたい」
「…絃と子供を、守れる男になりたい…」
大晴は絃に誓うように、力強く宣言したのだった。
繋がった手の熱さからは「思いの強さ」を、力強い眼差しからは「覚悟」を感じ取り、絃はゆっくりと口を開いた。
「…大晴くん、僕はね…「料理人」になりたいんだ」
「えぇっ!?」
柔らかい微笑みを浮かべながら、絃は過去を振り返った。
「僕が中学生の時…両親が亡くなって施設に来た子がいたの」
「その子はいつも隅っこにいて、誰が何を話しかけても全く喋らなくて…」
「月日が経つにつれて、その子は施設でどんどん孤立していっちゃったの…」
ポツポツと言葉を吐き出す度に、絃の脳裏には懐かしい日々が蘇る。
「でもある日、施設長が突然「皆でホットケーキを焼こう!」って、言い始めて…」
「最初は意味が分からなかったんだけど…皆でホットケーキを焼いて食べの!強制的に、その子も一緒にね」
「そしたら突然、その子がボロボロ泣き出して「美味しい」って、言ったの…」
「いっぱい泣いて、いっぱい食べて…次の日からその子は皆と遊ぶようになった」
「…何か言った訳でもないし、特別な何かがあった訳でもない」
「ただ皆でご飯を食べただけ…でも…」
「それが「大切なこと」なんだって、僕は気付いたの」
絃の濁りのない、透き通ったビー玉のような瞳に見つめられ、大晴は息を呑んだ。
「僕は、そういう「場所」を作りたい」
「ずっと自分なんか…って、思ってたけど…」
「僕も「憧れ」で終わらせくない!」
「大晴くん、一緒に頑張ろう!」
「…っ、絃…」
互いの夢を共有し、尊重することで、二人は改めて共に生きて行こうと誓うも
「子育てというのは「時間も自由も体力も精神も」何もかもが削られる」
「そんな極限状態の中で夢を追うのは、簡単じゃあない」
「世の中そんなに甘くはない」
大河の厳しい言葉と視線が、二人に突き刺さる。
「…っ…」
「親父…俺たちは…」
しかし
「だから「子供は一人では」育てられないんだ」
二人の言葉を遮り、大河は話を続けた。
「沢山の人に迷惑をかけなさい」
「沢山の人に助けを求めなさい」
「その分、沢山の人に感謝をしなさい」
「「…っ…!」」
先輩パパの言葉は、二人の心に「希望」を与え
「あなた達は、まだ若い」
「きっと、心ない言葉を言われることもあると思うの…」
「そしたら思い出して欲しい」
「あなた達には「味方」がいることを…」
先輩ママの言葉は、二人の心に「潤い」を与えてくれた。
「お互いに支え合って、自分達が望む未来を進みなさい」
「……本当にいいのか…会社は…?」
背中を押してくれる親の言葉に嬉しい反面、大晴は戸惑いを見せる。
「子供の夢を応援しない親はいない」
「…心配なだけだ」
「そうよ!会社の跡継ぎなんて、どうとでもなるわ!」
「血筋に拘るなんて、今の時代ナンセンスよ!」
光莉は肩を竦めながら、大きく首を左右に揺らした。
「頑張りなさい」
「…本当に苦しい時は、相談しなさい」
両親からの「無上の愛」が、大晴の心に深く深く突き刺さった。
そして、その「愛」は更に「子」へと受け継がれていく。
「「はい!」」
二人は強く互いの手を握り合い、共に未来へ向かって歩み始めたのだった…。
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