1 / 4
さらば特典。
しおりを挟む
都内某所にて。ビルの中の、ある一軒の本屋「おコメブックス」。授業が終わってすぐに、高校2年生の佐田修哉は他の本屋など眼中に入れず、彼にとっての聖地へ向かった。
狙いは一つ。彼の大好きな大好きな、生き甲斐と言っても過言ではない「生徒会長は許嫁」。これをお書きになった作者様は元々、少女漫画家で、趣味でラノベも書いてみたところ、これがもう。男女の恋愛感情の描写がもはや御業。男女問わず、相当な人気を誇る作品。そして、さらに。この作品をここの本屋で購入すると特典がもらえる。これまた本当にとんでもない。
一つ目は限定ショートストーリー、通称ss。彼女はssになるとさらに力を発揮し、読む人があたかもその出来事に立ち会っているかのような感覚を感じさせ、気が付くといつの間にか時間が過ぎてしまう。評判がうなぎのぼりなのも納得だ。
そして二つ目。これが先着順で色紙とファイル。先ほども言ったように彼女は漫画家でもあるので色紙も書いてくださる。ラノベの特典でここまで豪華なのは滅多にない。
―――だがその人気ゆえに店舗限定特典を逃す民も増加しているようで……。修哉もその一人であった。不運なことに「生徒会長は許嫁」は発売日が必ず木曜。休日ではないため、彼は学校が終わり次第、「おコメブックス」まで2時間かけて向かわなければならなかった。
ん、お気づきでしょうか?そうなんです。彼の住んでいる町は都内ではないところで、かつ限定特典を扱う書店がないのです。これ以上は個人情報になってしまいそうなので触れないことにして…ではそんな彼の行く末をお送り致します。
◇
時刻は午後6時、とりあえず駅に到着。これでも前回よりは早い方なのだが、今回も特典はもう残っていない可能性。そんなことが一瞬頭によぎりながらも、自分を信じて俺は「おコメブックス」へと猛ダッシュした。
「ああ、毎度思うけれど、この場所は楽園か、なにかの聖地だろ……」
恒例行事と化したこの呪文を呟きながら、いつもの特設コーナーへ。残り少ない冊数の「生徒会長は許嫁」を手に取り、まずガッツポーズ。本自体ないこともあるのでそれだけは避けたかった。まあ後日取り寄せればよいので、そんなには気にしていない。
ノルマを一個達成し安堵しつつも、さあいざ。高校受験のときよりも心臓をドキドキさせながらレジへ。お願いします、これがなければ明日のモチベはどうすればよいのやら。
「お客様。申し訳ありません。先ほどいらっしゃった方で特典の提供は最後となります。ご了承くださいませ。」
「……。あ、はい。ありがとうございました。」
……嗚呼、なんて現実は残酷なのか。そもそも現実での恋愛は中学の時点で俺には無理だと諦め、癒しを求めてラノベを買いに来たというのに。帰ろう。うん、帰ろう。
◇
帰宅する気力すら消えた俺は、例のごとく名前も知らない公園のベンチにて活力を失った野ウサギのようにくたばっていた。え、ウサギはかわいいからその例えは過大評価すぎだって?実写版●●チュウの疲れ切って歩くシーンみたいだなって言っても通じないだろうからこっちにしたのだが。
それはさておき。さっきの店員さんとこのやり取りをするのは何回目なのだろう。たぶん、呆れられているんだろうな。高1からずっとなのだから。
正直、この書店への遠征は、先ほどの彼女に会うためでもあるのだが。初めて特典を求めて買いに行ったときに親切な対応をされて気になってしまっている。
黒曜石、ないしは黒い金剛石だろうか。宝石のように輝く黒髪をなびかせ、一挙手一投足すべてが魅惑的。彼女の笑い声が耳から離れない。何度も通ううちに恋なのか憧れなのか断定はできないが、また会いたい。そんな気持ちが溢れてくるのは確かだ。
……うん、店員さんのこと考えたらポジティブになってきたぞ。
「叫んだところで何も変わらない。せっかく本は買えたのだから限定ssしっかり味わうとしよう。……あああああああああああああああああああああああ。」
やっぱ悲しいもんは悲しい。
◇
午後8時。おコメブックスにて。
「北島さん~、お疲れ様。いつもありがとうね、今日はもう上がっていいよー。」
「はい、店長さん、お先に失礼します。今日もありがとうございました。」
「今日の特典配布、大変だったでしょ。この日は毎回誰もシフト希望してくれないから本当に助かるよ。ゆっくり休むんだよ。」
「いえいえ、私この日も、というかこのバイトが好きなので。では。」
そう言いながら、扉をゆっくり閉めてビルの外へと向かう一人の美少女。しかしながらその美しい佇まいからは想像もできないくらい彼女の内心は罪悪感でいっぱいいっぱいなようで。
狙いは一つ。彼の大好きな大好きな、生き甲斐と言っても過言ではない「生徒会長は許嫁」。これをお書きになった作者様は元々、少女漫画家で、趣味でラノベも書いてみたところ、これがもう。男女の恋愛感情の描写がもはや御業。男女問わず、相当な人気を誇る作品。そして、さらに。この作品をここの本屋で購入すると特典がもらえる。これまた本当にとんでもない。
一つ目は限定ショートストーリー、通称ss。彼女はssになるとさらに力を発揮し、読む人があたかもその出来事に立ち会っているかのような感覚を感じさせ、気が付くといつの間にか時間が過ぎてしまう。評判がうなぎのぼりなのも納得だ。
そして二つ目。これが先着順で色紙とファイル。先ほども言ったように彼女は漫画家でもあるので色紙も書いてくださる。ラノベの特典でここまで豪華なのは滅多にない。
―――だがその人気ゆえに店舗限定特典を逃す民も増加しているようで……。修哉もその一人であった。不運なことに「生徒会長は許嫁」は発売日が必ず木曜。休日ではないため、彼は学校が終わり次第、「おコメブックス」まで2時間かけて向かわなければならなかった。
ん、お気づきでしょうか?そうなんです。彼の住んでいる町は都内ではないところで、かつ限定特典を扱う書店がないのです。これ以上は個人情報になってしまいそうなので触れないことにして…ではそんな彼の行く末をお送り致します。
◇
時刻は午後6時、とりあえず駅に到着。これでも前回よりは早い方なのだが、今回も特典はもう残っていない可能性。そんなことが一瞬頭によぎりながらも、自分を信じて俺は「おコメブックス」へと猛ダッシュした。
「ああ、毎度思うけれど、この場所は楽園か、なにかの聖地だろ……」
恒例行事と化したこの呪文を呟きながら、いつもの特設コーナーへ。残り少ない冊数の「生徒会長は許嫁」を手に取り、まずガッツポーズ。本自体ないこともあるのでそれだけは避けたかった。まあ後日取り寄せればよいので、そんなには気にしていない。
ノルマを一個達成し安堵しつつも、さあいざ。高校受験のときよりも心臓をドキドキさせながらレジへ。お願いします、これがなければ明日のモチベはどうすればよいのやら。
「お客様。申し訳ありません。先ほどいらっしゃった方で特典の提供は最後となります。ご了承くださいませ。」
「……。あ、はい。ありがとうございました。」
……嗚呼、なんて現実は残酷なのか。そもそも現実での恋愛は中学の時点で俺には無理だと諦め、癒しを求めてラノベを買いに来たというのに。帰ろう。うん、帰ろう。
◇
帰宅する気力すら消えた俺は、例のごとく名前も知らない公園のベンチにて活力を失った野ウサギのようにくたばっていた。え、ウサギはかわいいからその例えは過大評価すぎだって?実写版●●チュウの疲れ切って歩くシーンみたいだなって言っても通じないだろうからこっちにしたのだが。
それはさておき。さっきの店員さんとこのやり取りをするのは何回目なのだろう。たぶん、呆れられているんだろうな。高1からずっとなのだから。
正直、この書店への遠征は、先ほどの彼女に会うためでもあるのだが。初めて特典を求めて買いに行ったときに親切な対応をされて気になってしまっている。
黒曜石、ないしは黒い金剛石だろうか。宝石のように輝く黒髪をなびかせ、一挙手一投足すべてが魅惑的。彼女の笑い声が耳から離れない。何度も通ううちに恋なのか憧れなのか断定はできないが、また会いたい。そんな気持ちが溢れてくるのは確かだ。
……うん、店員さんのこと考えたらポジティブになってきたぞ。
「叫んだところで何も変わらない。せっかく本は買えたのだから限定ssしっかり味わうとしよう。……あああああああああああああああああああああああ。」
やっぱ悲しいもんは悲しい。
◇
午後8時。おコメブックスにて。
「北島さん~、お疲れ様。いつもありがとうね、今日はもう上がっていいよー。」
「はい、店長さん、お先に失礼します。今日もありがとうございました。」
「今日の特典配布、大変だったでしょ。この日は毎回誰もシフト希望してくれないから本当に助かるよ。ゆっくり休むんだよ。」
「いえいえ、私この日も、というかこのバイトが好きなので。では。」
そう言いながら、扉をゆっくり閉めてビルの外へと向かう一人の美少女。しかしながらその美しい佇まいからは想像もできないくらい彼女の内心は罪悪感でいっぱいいっぱいなようで。
0
あなたにおすすめの小説
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜
沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」
中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。
それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。
だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。
• 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。
• 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。
• 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。
• オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。
恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。
教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。
「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」
鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。
恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる