呪われたわたしが幸せになるまで

koma

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呪われ子のニーナ 2

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「おい、なんか言えよぶす」
「ああこいつ、泣いてんじゃねえすか」
「はぁ? めんどくさ」

 しかもフィーニスだけでなく、子分のオルクスまでいっしょらしい。

 わたしは鼻を抑えつつ、そのまま一息に駆け出した。

「あ! おい……っ!」
 
 呼び止められても振り返らない。痛くて辛くて、ひと時だってそこにはいたくなかったから。


 *


「ただいま……」

 フィーニスからなんとか逃げ切り、やっと家に帰り着く。居間を抜け寝室に向かい、二つあるうちの一つ、窓際のベッドに倒れこむ。食事をとる気力もなかった。

「……今日も無事に終わりました」

 そのまま、祈るように呟けば、窓の外に一番星がきらりと見えた。
 街外れにある、煉瓦造りの古びた小屋。それが、わたしとおばあちゃんの家だった。

 
 半年前、育ての親であるおばあちゃんが亡くなってから、わたしはずっと独りだった。


『気味が悪い』
『化け物よ』
『早く退治した方がいい』

 ──この世に生を受けて、十七年と少し。

 わたしは子供の頃から『呪われ子』とあだ名され、忌み嫌われて生きてきた。

 わたしの容姿が、とても恐ろしいものだったからだ。

 ぐるりとねじれた二本のツノ。
 左右で異なる色の瞳。右は青で、左は金。それは見る人を不快にさせるものだったらしい。今でもよく「こっちを見るな」と言われてしまう。だからわたしは自然と人と目を合わさない癖がついていた。

 魔女だの魔物の使いだのと、幼い頃から疎まれ、蔑まれ、もちろん友達などできるはずもなく、わたしは、たった一人の家族──おばあちゃんにだけ慰められて生きてきた。

『ほらほらニーナ泣かないで。わたしの可愛い可愛いニーナ』

 そう言って抱きしめてくれるあの人がいなかったら、わたしはとっくにどうにかなっていただろう。

 羊族の獣人だったおばあちゃんは、刺繍や裁縫が得意で、それらを生業に生きていた。決して裕福ではなかったけれど、食べるものに困ったことはないし、家の中はおばあちゃんの作った絨毯や椅子掛け、色鮮やかなカーテンで彩られていて明るく、暖かった。

 ただ、わたしのせいで、おばあちゃんまで悪く言われるのだけが苦しかった。

 だから早々に独り立ちするつもりでいたのに──わたしが出ていく前に、おばあちゃんは空へと旅立ってしまった。

 その時のことを思い出してしまい、逃げるように目を瞑る。


『見ろ、とうとうアリッサさんにまで呪いが』
『だから離れろと言ったのに』


 葬儀で、街の人たちに投げられた言葉。

(おばあちゃんにまで、呪いが……)

 ──母はわたしの出産が原因で亡くなり、父もその数ヶ月後に病で帰らぬ人となってしまった。それまで健康だった二人が立て続けにそんな目に遭って、しかも生まれた子供は両親のどちらにも似ていない異形だったのだ。街の人たちが不吉がるのも仕方がない。

 その上、わたしが生まれた年は、さらに厄災が重なっていた。
 日照りが続き作物が育たず、物の値は高騰し、人々は困窮に喘いだのだという。さらには魔物まで人里に現れるようになり──ふと、それがわたしが生まれてから起きたことだと気づいた街の長が、わたしを恐れるようになったのだ。

『その子は呪われているのではないか?』

 もちろん、なんの確証もないことだ。
 街の人たちは信じるものと信じないものに分かれ、わたしは腫れ物のように扱われてきた。

 幸い、わたしが生まれた年以上の厄災は起こっていないものの、ちょっとした事故や魔物の群れが現れてしまった時などは、すぐにわたしの呪いではと囁かれるようになっていた。


 でも、そんな生活ももうすぐ終わる。


 わたしはベッドから起き上がり、今までコツコツと貯めてきたお金を数えた。
 これを持って、この街を出るのだ。


 そうすれば、街の人たちを不快にさせることも無くなるし、わたしは新たな土地でやり直せる。

「うん、これだけあれば大丈夫だよね」

 王都には、街とは比べ物にならない程の人や建物で溢れているのだという。
 おばあちゃんと違ってなんの取り柄もないわたしは、荷運びや薪拾いなど、一人でできる仕事を請け負いお金を貯めてきた。
 本当はこれで、おばあちゃんに美味しいものをご馳走する予定もあったのだけれど。
 それは感想で許してもらうことにしよう。

 決心して、小さな家の中を見渡す。

 おばあちゃんと過ごした、大切な部屋。出ていくのは寂しいけれど、ここに留まれば今日みたいなことは延々に続いてしまう。フィーニスやウェンデルおばさんたちもわたしを見ると苛立ってしまうみたいだから、お互い離れるのが正解なのだ。

 少額ではないお金を、おばあちゃんの作ってくれた刺繍入りの袋にしまう。

(出発、いつにしようかな)

 まずはお仕事を住む場所を見つけて、だよね。
 
 その夜、わたしはベッドで寝返りを打ちながらそんなことを考えていた。



 翌日──自由がなくなることなどまだ知るよしもなかったからだ。

 

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