ホテルエデン

虹乃ノラン

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第一章

美しい変化(7)

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「アケル様をお連れして、オーナー様の待つ本館まで向かっている途中のことでございました。わたくしは、不慣れな場所で怯えになられた様子のアケル様の緊張を解そうと、あれこれとお話をして差し上げておりました……。――」
 その際、アケルの好きな食べ物が魚だという情報を会話の中でつかんだ仮面の男は、この世界にいる色々な魚の話をした。アケルは最初、この話を興味ありそうに聞いていたという。
 もう一押しと感じた仮面の男は調子に乗って、様々な魚の捌き方を事細かに説明し始めた。
 気がつくと、アケルの姿は見当たらなくなっていたのだと言う……。
 こんな小さな女の子なのよ、こわがって当たり前だ……。
「それは当然の反応よね」
「面目ありません……」
 仮面の男は、申し訳なさそうに小声で答えた。心なしか体まで縮めている。
 ――なんていうか、図々しいのか控えめなのかよくわからない総支配人ね……。
「アケル、もう大丈夫だよ。一応怖い人じゃないみたい」
 私は、不安がるアケルの頭に手を置いて笑ってみせたけれど、アケルはまだ不満そうに唇を尖らせていた。
「まだなにかあるの?」
「わたし……あの人のお面が怖いの……」
「ああ、そっかぁ……」
 狐のような不気味な面を、この年頃の少女が怖がるのはもっともだ。私だって怖い。
「ですって、その仮面とったらどう?」
 わたしがそう言うと、仮面の男はその場にひざまずき、肩を震わせメソメソと泣き始めた。
「うっ……ううう……っ」
「ちょっ……ちょっと、あなたどうしたの?」
 仮面の男は涙声で答えた。
「わたくし、また主人に叱られてしまいます。わたくし、仕事は完璧にこなせるのですが、顔の怖さだけが、ハイ、唯一の欠点でありまして……ホテルご利用のお客様のことを、大いにビビらせてしまうことが多分にございまして……ううっ!」
 見掛けとのギャップに、なんだか可哀相にさえ思われてくる。
「我が主人にも、そのことについておおいにお叱りを受けておりましたので、わたくし知恵を絞り、お客様の前ではこの笑顔のお面を被るようにしているのですがっ!」
 ――知恵を絞ってソレかぁ……。
 そう思うとますます可哀相で仕方がなかった。
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