ホテルエデン

虹乃ノラン

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第三章

遠慮(17)

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 西館の入口に入ると、相変わらずの巨大な迷路と増殖したホロウの群れ。しかし、このフロアに入った瞬間にそれまでとはまったく別のものが見えてくる。
「なに……? あの光の筋は……」
「筋、たしかに筋でございますねぇ。筋とは辿るべきものでございましょう」
 それは光の道標だった。巨大な迷路の中を光の道標が続いている。縦横無尽に走る一本の光の筋はこの空間の中央に浮かぶコンクリートの四角い物体にまで達しているようだった。
「これは本当にゴールまでを辿るための薬だったの?」
 私がケルビムに訊ねる。
「いいえ、よく思い出してください。アケル様もまた、貴女から離れるためにひとりゴールを目指していたことを」
 ケルビムに言われ私も思い出した。そうだ、アケルは私が楓を忘れられず悶えてる私を見て、忘れられるためにホロウに取り込まれ離れていったんだ。 
「じゃあすでにアケルはあの四角い物体の中にいるってことなのね?」
 私は階段を駆け降り迷路の中へと入っていく。
 ケルビムも私の後に続いた。光の道標は真っ直ぐゴールへと導いてくれるが、増殖したホロウたちは容赦なく私たちに襲い掛かってくる。右に左に空いているスペースを探しながらホロウの行く手を交わしていく。増えすぎたホロウたちに封鎖された道では鏡で照らし、その道を空けていく。ケルビムもあのアンティークな銃でホロウたちを撃退した。次のフロア、またさらに次のフロアへ進んで行くたびにホロウたちの攻撃は激しいものとなっていく。
 四方八方から襲い掛かかってくるホロウたちは、まさに光に群がる虫のようだった。
 消し去っても、消し去っても再び増殖を繰り返し襲い掛かかってくるホロウたちに息つく暇もないほど。私はホロウたちの執拗な攻撃を必死に交わしているうちに鏡を落としてしまった。拾いに行こうにも、鏡は虚しくホロウたちの足元へと飲み込まれてしまう。
 気がつけばケルビムも銃の弾をすべて使い切ったのか、銃を懐へとしまっていた。私たちは光の道標を辿っていく。
「こんなところでやられてる場合じゃないんだ!」
 私たちの目の前に広い踊り場が現れる。その先には同じように一本真っ直ぐに伸びた階段。
「今は何フロア目だっけ?」
 私は後ろから走っているケルビムに訊いた。
「あれがゴールでございますよ!」
 ケルビムのその言葉に私は急に力が湧いてきた。長い長い階段を息を切らしながら上がっていく。
 もう少し! もう少し!
 もう少しでアケルに会えるんだ!
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