異世界で猫に転生した俺は、理想の飼い猫生活を目指す

にゃんこ先生

文字の大きさ
13 / 76
プロローグ

最初の晩餐

しおりを挟む
 森の中を走り回ること数十分。
 なかなかモンスターを見つけられないことに焦りを感じてきたそんな時。
「お、何かいる……かな?」
 夜目がきくとはいえ、暗いものは暗い。
 よく見るとボーボーに生えてる草に隠れてわかりにくいけど、大きめの犬くらいのサイズの何かがいた。
 牛のような頭だけど、牛にしては小さい。
 ガイアの牛はこれが普通なのかな?
 まぁ、なにはともあれ牛肉だ。
 絶対に仕留める!

 音を立てずに近づいていく。
 ……。
 あと二十メートルくらい。
 ……。
 あと十メートル……というところで急に牛は走り出した。
 気づかれた?
 てかこの牛はえぇよ!
「逃さねえぇぇ!」
 俺もすぐ走り出した。
 わりと本気で走ってるけどなかなか追いつけない。
 一応距離は縮まってきてはいるが。
「命を――燃やせえぇぇ!」
 男として、いや、雄として、手ぶらで狩りを終えるわけにはいかない。



 なんとか岩山に囲まれた狭い場所に追い詰めた。
 牛も覚悟を決めたのか、臨戦態勢だ。
 牛は俺に向かって突っ込んできた。
 一瞬で目の前に迫ってきている。
 でも……、カウンターで!
「猫パンチだっ!」
 バキィッ!
 すごい音とともに嫌な感触が手に伝わる。
 首の骨が折れたのか、変な方向に首が曲がって倒れている。
 死んでる……のかな?
 うぅ……、罪悪感がすごい。
 でも、必要なことなんだ。
 がんばって慣れよう。
「よし、戻ろう」
 俺は牛の首を咥えて走った。
 俺のサイズ的に思いっきり牛を引きずってしまっているけど、しょうがないよね。
 こういう時は猫の体は不便だなぁ。
 というより、人間の体っていろいろ便利だったんだなぁ。



 みんなの元へ戻ると、澪と雫は魚に木の枝を刺していた。
 おー、魚の串焼きかな?
 いいね!
「ただいまー」
「「おかえりー」」
「小さな牛っぽいのが獲れたよ。
 これ食べれるよね?」
「牛!?
 ジズーナイス!
 いい仕事っす!」
「あれ?
 これって……。
 ねぇ澪ちゃん、これ牛じゃなくて――デリシャスミートじゃない!?
 ほら!野外訓練の時の!」
「えっ!?
 あ……、確かに言われてみれば……。
 あっ!この足はっ!
 デリシャスミートじゃん!」
「だよね?
 ジズーちゃんすごいよ~!
 こんな短時間でデリシャスミートを狩るなんて~!」
「それもすごいけど、こんなにあっさりとデリシャスミートをみつけるのもすごい!」
「「ジズー(ちゃん)マジ神!!」」
「これ牛じゃないのかぁ。
 てかデリシャスミート?
 すごい名前だね、そんなに珍しいの?」
「あ、そっか。
 ジズーはガイアに来たばかりだからわかんないかー」
「デリシャスミートは超レアなんだよ~?
 滅多に見ないし、見つけてもすぐに逃げちゃうし~。
 めっちゃ足速いから、気づかれたらアウトなんだよね~」
「へぇー、そうなんだ。
 確かにすっげー速かったなぁ」
「気付かれないように大人数で囲んだり追い詰めたとしても、すごく強いらしいよ。
 騎士団の人が言ってたけど、トップレベルの冒険者が十人でボロボロになりながらやっと倒せるっていうレベルなんだってさ」
「マジか……。
 思ったよりすごいやつだったんだなぁ。
 てか、うまいの?
 名前が名前だから期待しちゃうんだけど」
「食べたことがないから断言はできないけど、超絶美味らしいよ?」
「市場には出回ることはないし、王族でも滅多に食べられないって言ってたね~。
 かなり期待できるんじゃないかな~?」
「おー、いいね!」
「じゃあ処理しちゃおっか。
 まずは血抜きからかな」
「は~い」
「あ、俺処理とかどうやればいいかわかんないんだけど……」
「いいよいいよ、私たちに任せてよ。
 野営訓練でけっこうやったし大丈夫。
 狩りお疲れ様!
 適当に休んでて?」
「ありがとう。
 じゃあお願いしちゃうね」

 テキパキと処理をしていく澪と雫。
 うん、逞しい!
 現代の日本人も、一ヶ月でここまでガイアに適応できるんだなぁ。
 火の傍でぼーっとしていると、けっこうな量の果物が目に入った。
 雫が採ってきたやつかな?
 あの量は当然食べきれないし、余った分は持っていくとしてもリュックとカバンに全部は入らないよな。
 肉だってあるし。
 せっかくだから百段たちにあげたいな。
「雫~。
 果物余っちゃうよね?
 百段たちにあげてもいい?」
「いいよ~。
 肉も魚も獲れなかった時を考えて多めに採ってきただけだから~」
「ありがとー」
「お~い、ひゃくだ――うおっ!」
 百段たちを呼ぼうと後ろを向いたらすでにすぐ後ろにいた。
 そっか、雫の言葉はわからなくても、俺の言葉でわかったんだね。
「雫がたくさん採ってきたからさ、食べてよ。
 なんか今回はマンゴーっぽいのもあるね」
「ヒヒーン。(ああ、頂くぞ)」
「「ヒヒーン。(頂きますわ)」」
 俺もマンゴーをつまみ食い。
 うお、なにこれ超うまいし!
 地球のマンゴーよりも上品な甘さがすばらしい!
「やっべー、これ美味しいなぁ」
「ヒヒーン。(うむ、これはすばらしいな)」
 百段もマンゴーが一番好きみたいだね。
「ヒヒーン。(私はこちらの野性味溢れるような甘さの果実が好きですわ)」
 桜はりんごが好みらしい。
「ヒヒーン。(私はこちらの控えめな甘さの物が好きですわ)」
 椿はバナナが好みか。
 見事に好みがわかれたなぁ。
 てか桜と椿の口調が「ですわ」なのがまだ慣れない。
 最初、お嬢様かよって思ったよ。



 気がつけば夜になっていた。
 寝ちゃってたらしい。
 百段たちも横になって休んでいる。
 澪が串に刺した魚の焼き加減を見ていた。
「ごめん、寝ちゃってた」
「あ、そろそろ起こそうと思ってたところだったよ」
「魚焼けるよ~」
 焼き魚のいい匂いがする。
 猫だからなのかな、たまらない!
「よっし、そろそろいいかな。
 ジズーも起きたし、食べようか」
「「「いただきまーす!」」」
 もぐもぐ。
「おー、 超美味しいんだけど!」
「美味しいね、やっぱり川魚はシンプルに塩焼きだよ」
「鮎みたいな感じだね~、おいし~」
「そういえば肉も魚も普通に余っちゃいそうだけど、食べれない分は置いていくしかないかな?」
「「えっ!?」」
「え、なにどうしたの……?」
「デリシャスミートを捨てるだなんてとんでもない!」
「そうだよ~!
 最優先で持っていくよ~?」
「あ、はい……。
 アホなこと言いました……。
 でもどうやって持っていくの?」
「普通に魔法で氷漬けにして持っていくよ?」
「あー、そっか魔法かぁ。
 だめだな、まだ魔法の存在に馴染めてないなぁ」
「ジズーちゃんってガイアに来たばかりなんでしょ~?
 そんなもんじゃないかな~?」
「そんなもんかぁ」
 俺は体が小さいから一匹全部食べれないかなって思ってたけど、ぺろりといけた。
 むしろ物足りないくらいだなぁ。
 焼き魚……うーん、澪と雫がガイアにいるうちは作ってもらえるが、地球に帰ったあとは当然誰も作ってくれないわけで。
 魚を捕まえるのはなんとかなるとしても、火がなぁ……。
 どうしたものか……。
 とかなんとか考えてたら、澪が中華鍋を取り出した。
「中華鍋なんて出して何するの?」
「お肉焼くんだよ。
 鉄板とかフライパンなんてないからね。
 平らじゃないけど、お肉焼くだけならこれで十分っしょ」
「幻のデリシャスミートだよ~!
 ワクワクがとまらない~!」
 そうだった、魚に感動して忘れてた。
 デリシャスミートがあるんだったか。
「そういえばそれってどんな肉なんだろね。
 牛肉っぽいのかなぁ」
「デリシャスミートはすごいんだよ?
 胴体の前側三分の一は鶏肉、真ん中三分の一は牛肉、後側三分の一は豚肉っていう、人間にとって都合の良すぎる体!
 ちなみに前足は鳥の足で、後ろ足は豚の足なんだよ。
 それでいて超美味らしい!
 ここが一番重要」
 なんてこった。
 食べられるために生まれてきたようなモンスターじゃんか……。
「じゃあ焼いていきまーす。
 今日はステーキにするので牛肉でーっす」
 十分熱した中華鍋に塩と胡椒で下味をつけた肉を置く。
 じゅうぅっと肉が焼けるいい音がする。
 そして匂い。
 たまらない!
「はーい、焼けましたっと!」
「待ってました~!」
 雫がはしゃぐ。
 俺もわりと待ちきれない。
「では、獲ってきてくれたジズーに感謝して……、頂きます!」
「「頂きます!」」
「「「うめえぇぇ!」」」
 森に俺たちの声が響き渡った。
 百段はこっちを見て、うるせーなとでも言いたげな感じだった。
 でもしょうがない。
 これからもデリシャスミートを見かけたら絶対に逃さない。
 絶対に!
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。 彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。 他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。 超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。 そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。 ◆ 「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」 「あらすじってそういうもんだろ?」 「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」 「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」 「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」 「ストレートすぎだろ、それ……」 「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」 ◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る

六志麻あさ
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。 だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。 それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。 世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。 快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。 ●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...