異世界で猫に転生した俺は、理想の飼い猫生活を目指す

にゃんこ先生

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第二章 野望のはじまり

スカウト

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 アルフレートさんを追うために薫子さんの神気を辿っていくと、墓地にたどり着いた。
「親方ぁ……。
 すんません、親方ぁ……。
 ごめん、ミッシェル……」
 墓の前でボロボロと涙を流すアルフレートさん。
 そんな彼を少し離れた所から隠れて見る女性がいた。
「アル……」
 そしてそんな彼らを少し離れた所から隠れて見る俺たち。
「誰なんだろうね~彼女」
「彼女とかとかなぁ?」
「地球の事を勉強した本に載ってたよ。
 あれは幼馴染よ!」
「薫子さん、なんの本で地球の勉強してるの……」
「親方が亡くなって、店を譲り受けてから一ヶ月。
 親方の教えを守って俺なりにがんばりました。
 ですが、兄さんたちに「お前のやり方じゃ儲からねぇ、店の経営は俺たちがやる」と言われて、全員賛成で店は兄さんのものになってしまいました……。
 さらにはさっき、クビになっちゃいましたよ……。
 やっぱり俺には親方なんてムリだったんですよ、なんで一番下っ端の俺なんかを次の親方に指名したんですか!?」
「先代の親方が亡くなって、遺言か何かでアルフレートさんが次の親方に指名された。
 一番下っ端ってことは兄弟子が何人かいたってことなんだろうね~。
 兄さんって言ってるのが兄弟子なのかな~?
 で、アルフレートさんのやり方じゃ儲からないから、兄弟子全員が賛成して、たぶん別の兄弟子が親方になった。
 そして邪魔になったアルフレートさんをクビにしたってとこかな~」
「そんな感じっぽいねぇ。
 さっき店にいたコンビニの店員みたいな人は兄弟子の一人なのかな」
 そんな俺達をよそに、アルフレートさんは墓に語り続ける。
「確かに、儲けは多くはなかったです。
 だけど、親方がいた頃に近い儲けは出てたんです!
 お客さんだってたくさん来てくれていましたし!
 なのに……」
 またアルフレートさんの目から涙が溢れ出した。
「確かに街の人たちの評判すっごく良かったもんね~」
「そうだねぇ、あの感じならむしろ繁盛してそうだけど」
「難癖つけてアルフレートさんからお店を取り上げて、追い出したかったとかかなー」
 俺たちがあれこれと推測していると、隠れて見ていた女性が飛び出した。
「アルは何も悪くない!
 アルは工房で一番腕が良くて、街の人たちからも信頼されてる!
 あいつらは儲けることしか考えてないし、お客さんのことなんてどうでもいいって思ってる!
 だから親方はアルを親方に指名したんだよ?
 あいつらはただアルに嫉妬してるだけなのよ!」
「ミッシェル、なんでここに……」
「出勤したら、あいつらがアルをクビにしたって言うから……。
 アルなら絶対ここにいると思って……」
「ミッシェル……、ごめん。
 店、とられちゃったよ……。
 クビになっちゃったよ……」
「アル……」
「仕事はすぐ探すけど、ごめん……。
 結納金、貯めるの時間かかりそうだ……」
「「「結納金!?」」」
 ちょっとビックリする単語がでてきたぞ。
「やっぱ恋人だったんだね~。
 結納金貯めてたのにクビはきついね~」
「でも、腕も良くて街の人たちからの信頼もあるならすぐ次の店決まるだろうね」
「ていうかね、そこよりも気になるとこ他にあったよ~」
「うん、俺も」
「彼女、ミッシェルっていうんだね~!」
「まさかのミシェル・プラティニ!
 ステファノとプラティニのコンビなんて豪華すぎでしょ!」
「あの二人は絶対私たちと縁があるんだよ~!
 ぜひボールの件お願いしたいな~」
 盛り上がる俺たちをよそに話は進む。
「アル!
 自分の工房を始めなよ!
 私が手伝ってあげるから。
 親方の工房だって、私がお金の管理任されてたんだから。
 親方、お金のことなんて全然気にしないから、私がいなかったら工房潰れてたからね!
 私がアルの工房で経理をやってあげるよ!
 仕入先だって私のツテがあるし!」
「ええ!?
 何言ってんだよ!
 工房を始めるって、いくらかかると思ってんだよ!
 そんな事したら結納金が……。
 そんなんじゃいつまでたっても俺たち結婚できないじゃないか!」
「結婚なんていつでもいいの、アルと一緒にいられれば私は幸せなの!」
「ミッシェル……。
 でもそれじゃ、ミッシェルのご両親にあわせる顔が……」
「そんなこと……、アル……!」
 黙り込む二人。
「愛だなぁ」
「愛だね~」
「尊い……」
「二人が若さに任せて無茶しないうちに、ちょっと話を聞いてもらおうよ~。
 あ~、一応念のため、あの二人に怪しまれたりしないように私から話すね。
 しゃべるモンスターなんて、今の二人には怪しすぎるからね~」
「あ、そうだね。
 お願いするね」
 俺たちは物陰から出て二人に声をかけた。
「お取り込み中すみません、今ちょっとよろしいですか~?」
 すっかり二人の世界に入っていた二人は、何この人たち?みたいな顔を向けてきた。
「あ、あなた方はさっき工房の前にいた……」
「はい、先程はある物を作ってもらおうとアルフレートさんを訪ねたところだったのですが。
 すみません、話を聞いてしまいました」
「そうでしたか、それは失礼しました。
 話をお聞きでしたらおわかりでしょうけど、俺はクビになりましたので。
 申し訳ありまでん、お力になれません……」
 悲しそうに頭を下げるアルフレートさん。
 うん、この人やっぱり良い人そうだなぁ。
「はい、それはわかってます。
 ですが、一つ私たちから提案があるのですが、聞いて頂けませんか?
 アルフレートさんの今後に関することですので彼女さんも一緒に」
 自分に話を振られるとは思ってなかったのか、ビックリするミッシェルさん。
「え!?
 わ、わかりました。
 私もお聞きします」
「ジズーちゃん、商会のお金ちょっと使わせてもらってもいいかな~?」
「いちいち俺に確認しなくても好きに使っていいよ。
 俺の中では、商会は二人に譲ったって思ってるからね」
「そっか、ありがと~」
 俺と雫のやり取りを聞いて、二人が超驚いていた。
 あ、そっか。
 俺がしゃべってるからビックリしてるのかな。
 雫はコホンと咳払いをした。
「まず、私たちが作って欲しいものはこれです」
 雫はサッカーボールを二人に見せる。
「これを素材から何から何まで同じものを作って欲しいのではなくて、同じようなものを安い単価で作ってほしいんです。
 私たちはこれを、ガイア中で安く手軽に買えるようにしたいと考えています」
「これはなんですか?
 初めて見ます」
「私も見たことないです」
「これはサッカーっていう競技に使う物なんですが、ちょっとした遊びなんかにも使える物です。
 バハムルちゃんと薫子ちゃんお願い」
「これはこう使うのだ!」
 バハムルと薫子さんが、パス交換をしたりリフティングをしたりヒールリフトをしてみせた。
 最後にバハムルが、最近教えたばかりのマルセイユルーレットを――失敗した!
 残念バハムル!
 あぁ、バハムルがうなだれている!
 もっと練習しよう!
「へぇー、なんだか楽しそうね」
 ミッシェルさんは興味を示してくれた。
「見たことのない革を使ってますね。
 それにとても跳ねます。
 不思議です」
「それに使われてる素材はガイアにはないものです。
 ちなみに、中はこんな風になってます。
 ジズーちゃん、お願い~」
「あいよー」
 スパッ!
 俺はボールを真空の刃で真っ二つにした。
「これを参考にして、簡単に手に入りやすい素材を使って同じようなものを作って欲しいのですが、できますか?」
「……職人として、とても興味深いです。
 ですが、作ろうと思ってもクビになったばかりですので。
 どこかの工房に雇ってもらえても、俺の好きに設備を使うことはできません。
 自分の工房を持てば別ですが、そのためにはすごくお金がかかるので厳しいです」
「だからそれは私が手伝うから――!」
「そこで、提案なのですが!」
 雫がミッシェルさんの言葉を遮って話を進める。
「アルフレートさん。
 あなたを私たちの商会の専属の職人としてスカウトしたいと思ってます。
 専属の職人になってもらう場合、私たちの家に住み込んでもらうか、近くに居を構えてもらうことになります。
 つまり、この国から出ることになります」
「ええ!?」
「そ、そんな!」
「もちろん、ミッシェルさんも一緒にきてもらって大丈夫です。
 ミッシェルさんとのご結婚は全力でサポートさせて頂きます。
 こちらの都合に合わせて頂くので、契約金としてまず金貨一万枚をお支払いします」
「「金貨一万枚!?」」
「なんでそんな大金……」
「ま~、私たちはちょっと秘密が多いんです。
 なので迷惑料を含めた専属契約料という風に思って頂ければと」
「あからさまに怪しいですよ!
 だいたいそんな大金、用意できるんですか?
 どうせ払う気ないんじゃないですか?
 それに、いくらそんな大金もらったって、悪いことに巻き込まれたり、犯罪の片棒担がされたりしたら意味ないじゃないですか!」
 まぁ、ミッシェルさんの言う通りだよね。
 誰だってこんなの怪しいって思うよ。
「もちろんお金は先にお渡しします。
 私たちは黒猫商会という商会をやってます。
 聞いたことないとは思いますが、金銭面は保証致します」
「黒猫商会ですか?
 すみません、聞いたことないです」
「黒猫商会!?」
 アルフレートさんは知らないようだけど、ミッシェルさんは超反応した。
「黒猫商会って、あの黒猫商会ですか!?
 ドラゴンと天使がいるとか……。
 最近エンシェントクロコダイルを卸したのも黒猫商会ですよね!」
「そうですね、その黒猫商会です。
 うーんとそうですね~」
 雫が周りをキョロキョロ見渡す。
「ジズーちゃん、周りに人の気配ある~?」
「んー、ないかな、大丈夫」
「おっけ~、ありがと~。
 バハムルちゃん、ちょっと元の姿に戻ってもらえる?」
「わかったのだ!」
 そう言うと、バハムルがドラゴンの姿に戻る。
「「ええええええ、ドラゴン!?」」
「今はこれしか証明する手段がないんですけど、信じてもらえますか?」
 コクコクコクコク。
 二人は壊れたおもちゃみたいに首を縦に振り続ける。
「あなた方が黒猫商会だというのは信じます。
 黒猫商会ならたしかに金銭面は大丈夫でしょうね……。
 でも、あなた方を信用できるかどうかは……」
「確かにそうですね。
 薫子ちゃん、いい?」
「おっけーだよー」
 薫子さんは帽子とマスクをはずした。
「「めめめ、女神様あ!?」」
「このように、私たちの傍には女神様がいます。
 女神様の前で、私たちが悪いことをすると思いますか?」
 ブンブンブンブン!
 全力で首を横に振る二人。
「私たちはサッカーというものをガイア中に広めようとしています。
 そのためにはそのボールの普及が必要です。
 アルフレートさん、あなたの職人としての腕と、街の人々から信頼されてるその人柄を見込んでお願いします。
 黒猫商会の専属の職人として、ボールを作ってもらえませんか?
 そしてミッシェルさん、そんなアルフレートさんを傍で支えてもらえませんか?」
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