異世界で猫に転生した俺は、理想の飼い猫生活を目指す

にゃんこ先生

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第四章 海産物を求めて

海の幸を食べたい

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 黒猫杯が終わって数日が経った。
 みんなサッカーモードはひとまず終わって元の生活に戻ったが、何人かは生活が少し変化した。
 まずはバハムル。
 バハムルは最後のシュートをはずしてしまったのが相当悔しかったようで、家に戻ってからしばらく泣いていた。
 まだ小さな子供だから、こういう勝負事で負けると悔しくて泣いちゃうのはしょうがない。
 しかも、真剣に練習してたから尚更だ。
 次は絶対に優勝すると意気込んだバハムルは、毎朝のランニングを始めた。
 その後、農作業の手伝いや勉強をしつつ、家の庭を使ってシュートやドリブルの練習をするようになった。
 そしてクリスとレオとロナも、ドラゴンなのに負けてしまったとかなり落ち込んだ。
 なので、三人もバハムルと一緒に練習をする。
 とはいえ、クリスとレオは薫子さんとバハムルの護衛、ロナは薫子さんとバハムルの世話という仕事があるので、うまくローテーションしながらバハムルと練習している。
 あーちゃんはサッカーを見るのが楽しいようで、バハムルが庭で練習するのを毎日見ている。
 そんなあーちゃんのために、庭に椅子とテーブルが設置された。
 フランはサッカーモードは終わったのか、毎日ゴロゴロとしている。
 アスモもゴロゴロしている。
 バハムルの教育に悪いので、この二人にちゃんと仕事をさせようと澪と雫が話していた。
 他のメンバーは以前と変わらず。
 アルフレートとミッシェルは工房の仕事をしているし、パレオは研究に勤しんでいる。
 アレッサンドラは畑仕事に精を出し、澪と雫は主に家事をしている。
 そして薫子さんはガイアの管理者の仕事をしながら、畑仕事の手伝いをしている。
 みんなそんなに忙しいわけではないので、バハムルの練習に付き合うこともよくある。
 こんな感じで以前と多少の変化はあるものの、普通の日常に戻った。
 そんなある日。
「猫になったせいなのかどうかはわかんないけど、なんか海の幸を無性に食べたい!」
 夕食後のまったりタイムの時に、俺はつい力強く言ってしまった。
「海の幸?
 魚ならさっきも食べたじゃろう?」
「違うんだよアレッサンドラ。
 川魚と海の幸は全然違うんですよ!
 いや、川魚ももちろんすごくおいしいんだけどね!」
 うわーなんかこいつめんどくせーみたいな顔をされた。
「急に面倒なことを言いだしたのぉ」
 実際に言われた。
「海の幸かー、気持ちはわからなくはないかな。
 お肉ばっかじゃ飽きちゃうしねー。
 刺し身とか食べたいな」
「お寿司もいいよね~。
 ……考えてたらほんとに食べたくなってきちゃった~」
 澪と雫は日本人だからね。
 やっぱわかってくれるよね!
「ボク、お肉ばっかでも全然飽きないぞ?
 ずーっとお肉がいいぞ!」
「俺もっす!」
「ああ、ずっと肉がいいよな!」
 言わずもがな、ドラゴンズはやはり肉食のようだ。
「あまり気にしてなかったけど、今思えばケモッセオには海産物は売ってなかったよね。
 やっぱり内陸部には流通してないのかな」
「そうだと思うよ。
 保存技術も輸送技術もそんなに高くなさそうだしね」
「ってことは……、海産物を手に入れるためには直接漁港とか沿岸部の街に買いに行くしかないってことになるよね?」
「そうなっちゃうね~……。
 遠いよ~!」
「確か魔族の国の王都の……なんていったっけかな」
「魔都マゾックよ。
 そりゃあなたにはあまり必要のない知識かもしれないけど、ガイアの地理くらい早く覚えなさいよね」
 魔族であるパレオに怒られてしまった。
「ごめんごめん、そうだマゾックだ。
 ここからマゾックまでどのくらいかかったんだっけ?」
「桜と椿、あとクリスたちの速さで、無理させないで休憩をしっかりとるようにして三日くらいかな。
 海産物を買って帰るってなると、帰りは荷物があるから四日か五日くらいかかるかな?」
「一週間ちょいか……。
 さすがに海の幸を味わうためにそんな労力はかけられないね……。
 何より、買ったもの運ばないといけないからクリスたちに手伝ってもらわないといけないし」
 年に一回とかならまだしも、そこそこの頻度でってことになると現実的ではない。
 クリスたちも、そんなことをするためにここにいるわけではないし。
「え?
 俺は別にいいっすよ?
 また別のうまいものが食えるんすよね?」
「俺もいいっすよ?
 うまいもんのためならなんでもするっすよ?」
 さも当然のように言う二人。
「いやいやいや!
 さすがにそんなことさせられないよ!
 バハムートさんにも申し訳ないし!」
「そうっすか?
 別に気にしなくていいと思うっすけど」
「だよなー。
 ドラゴンなんてみんなこんなもんっすよ?」
「えぇぇぇ?
 さすがにそんなことはないでしょー。
 あんたたちが食いしん坊なだけでしょ」
 澪が苦笑しながら言う。
「いや、ほんとっすよ?
 バハムート様なんて、うまいものを求めてふらっと何年かいなくなることあったっすからね。
 デリシャスミートを食べたいって言って、百年以上戻らなかったこともあったす」
「えっ!?
 あのバハムートさんが!?」
「ロナ、本当なの?」
「はい、本当ですよ。
 バハムート様に限らず、ドラゴンはそういう面がありますね。
 まぁ、さすがに百年も戻らなかったら怒られますけどね」
 いやいや、そりゃ怒られるでしょうけども!
「マジか。
 ドラゴンの食欲ぱないし」
 フランがちょっと呆れてる。
 でもフラン。
 ただゴロゴロしてるフランより、美味しいものを求めて出かけるほうがマシだと思うぞ。
「さすがにあの時はエキドナ様がブチギレでしたっすよ。
 見てるだけで怖かったっす!
 あの時俺は、ドラゴン最強はエキドナ様だって確信したっす!」
「だな!」
 どの世界でもどの種族でも、妻が強いのは一緒か。
「どっちにしても、やっぱりそんなことさせられないよ。
 その都度一週間ちょいかけて海産物を買いに行くってのも現実的じゃないしね」
「そうっすか……」
「残念っす……」
 いやいや、そんなしょんぼりしないでよ!
 なんか悪いことした気分になるじゃん!
 まぁ、それよりも……。
「フラン、さっきから何見てるの?」
 今日フランは、ゴロゴロしながらずっと何かを読んでいた。
「ん」
 フランが俺に表紙を見せる。
「えっ!
 それ、レイアップシュートじゃん!?
 なんで……あぁ、澪と雫が持ってきてたんだ」
 レイアップシュートとは、日本のバスケ人気を高めたと言われるバスケ漫画だ。
 赤頭の主人公が高校からバスケを始め、リバウンド王を自称しながらインターハイで高校最強チームと戦ったりするやつだ。
 俺も何度も読んだなぁ。
「今日あまりに暇だったから、澪たちが地球から持ってきた物を適当にあさってみたし。
 そしたら超懐かしい物見つけたから、ついつい読みふけっちゃったし」
「わかる!
 一度読み始めると止まらないよね!」
 ていうか、俺も読みたくなってきた!
「ちょっと待って!」
 急に澪が大きな声を出した。
「どうしたの?澪」
「どうしたのじゃないでしょ!
 いろいろツッコミどころあったでしょ!?
 何スルーしてんの!」
 え?ツッコミどころ?
 そんなのあったっけ?
 とりあえず考えてみる。
 うーん、思い当たらない……。
「え、本気でわからないの!?
 まず!
 フラン、なんで日本語読めるの?」
 あ!言われてみればそうだ!
 フランがあまりに自然に言うから全然気づかなかった!
「それに、超懐かしいって言ったよね?
 懐かしいって思うぐらい昔に読んだことがあるってことだよね?」
 フランは黙っている。
 何かを言おうとして、でもやめて。
 それを繰り返しているような感じだ。
 そして、観念したのか、大きくため息をついた。
「はぁ……。
 澪の言う通りだし。
 あっしは元日本人で、ガイアの天使に生まれ変わったし。
 いわゆる前世の記憶が残ってる系ってやつ」
 最近同じような人いたなー!
 黒猫杯の子供の部に出てた子!
 前世の記憶って、そこそこの確率で残るものなんだろうか?
「そうだったんだ~。
 なんで黙ってたの~?」
 雫の疑問ももっともだ。
 別に俺たちに知られてもなんの不都合もないと思うんだけど。
「このことは族長も知らないし。
 もし知られたら、ジズーの監視役の任からはずされるかもしれないし。
 それだけはほんと嫌だし!
 だからこのことは絶対に秘密でたのむし!」
「なるほど、そういう事情なのね。
 そういうことならもちろん秘密にするよ」
「うんうん、フランちゃんいなくなると寂しくなるしね~。
 みんなもお願いね~?」
「「「「はーい!」」」」
 あーちゃんは手で口を抑えながらコクコクと頷いている。
 ……不安だ。
「ねえ薫子さん。
 前世の記憶を持ったまま生まれ変わるのってよくあることなの?」
「んー、前世の記憶が残ってるっていうのはよくあることかなー。
 だけど、それを思い出せる人はごく僅かなの」
「なるほど、そういうものなんだ」
 それにしてもフランが元日本人だったなんて……。
 驚いたけど、だからと言って何かが変わるわけでもない。
 共通の話題が増えたと思えばいいかな。
 とりあえずフラン。
 俺も読みたい、一巻どこにあるの?
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