【完結】くま好き令嬢は理想のくま騎士を見つけたので食べられたい

楠結衣

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初めてのデート 1

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「サラ、変じゃないかしら……?」

 何度も繰り返し同じ質問を侍女のサラにしているのに、鏡越しのサラは毎回笑顔で「アリーシア様、とっても似合っておりますよ! ガイフレート様も見惚れること間違いなしです!」と鼻息荒く答えてくれるので、甘えてしまっているの。

 軽やかな素材のシャンブレーワンピースを一枚で着せて貰った。アイスミント色は見た目も涼やかで少しガイ様の瞳の色に似ていて、白い小花柄も爽やかだと思うけれど……今日は初めてガイ様とお外デート、王都のお祭りに一緒に行くのだ。可愛いと思って頂きたいのが乙女心なのよね。

「アリーシア様の美しさ、可憐さ、清楚さ、全てを引き出して見せます! お任せ下さい!」

「あ、ありがとう……?」

 サラが手に櫛を持ったまま拳を振り回すので、思わず苦笑いをしてしまう。
 サラは入念に髪を梳かし艶を出すと、横髪を編み込み後ろで緩く纏め、残りの髪はふんわり垂らすハーフアップにしてくれた。今日はデートですからねと薄くお化粧も施して貰ったの。

「アリーシア様の髪は艶やかで手触りも良いですからね、髪はふんわり可愛く揺れるようにしました。思わず触れたくなる様に務めました! 真っ白な透明感溢れるお肌は、日焼けをしないように薄くお化粧をしましたが、このきめ細やかな美しいお肌に触れたくなる事、間違いなしです! ああ、完璧に美しいです……!」

「サラったら大袈裟だわ……? でも、ありがとう」

 サラが全力で褒めてくれるので、緊張が解れて行くのが分かる。私は優しい侍女に恵まれて幸せだと思うの。
 我が家に迎えに来て下さったガイ様に飛び付く様に抱き着くと、鍛えられた頼もしい体で受け止めてくれる。ガイ様は、私の頭にぽんと大きな温かな手を置くと、甘い瞳で覗き込む。「アリーは元気で可愛いな?」と言われると、一気に顔に熱が集まる。可愛いと言われ、胸が甘く締め付けられる様にときめいてしまう……!

「はいはい、二人共離れてね!」

 アレクお兄様にぐいっと引き寄せられ、ガイ様から離されてしまった。アレクお兄様は私を優しく抱きしめ、親愛の口付けを頭に落とす。私がじとりと見上げると「アリー、このネックレスは僕が預かるね?」と言いながら、ガイ様から頂いた緑色のハートのネックレスをするりと外して掌に隠してしまう。慌ててアレクお兄様に返して貰おうと手を伸ばすと、にっこり微笑み、首を横に振ったの。

「城下に高価な物を身に付けて行くのは危険だよ? 一緒に花火を見る約束をした夜まで預かっておくよ」

「そうなのですね! アレクお兄様、ありがとうございます!」

 確かに宝石を身に付けて狙われたり、落としたら大変よねと納得している間に、アレクお兄様がネックレスを胸ポケットに仕舞って下さったわ。「独占欲の塊……」と何か呟いたみたいだけど聞こえなかったの。それからアレクお兄様がキラキラ光る琥珀色のネックレスを取り出した。

「城下には狼しかいないからね……これを付けるといいよ! アリーと目を合わせると光のない世界に堕ちたり、アリーに話し掛けると永遠に口が開かない様に縫い付けたり、アリーに触ろうとすると一生磔にされる弱めの防犯魔法を施したネックレスなんだ」

「いや、アレク……それ全然弱めじゃないぞ。大罪を犯した奴に執行する魔法刑だろ……しかも、こんな小さな魔石に組み込むなんて滅茶苦茶だな」

「ガイ……アリーの瞳や耳、まして肌を穢すなんて大罪以外の何物でもないだろう?」

 どうやらアレクお兄様はとても心配性だから防犯対策を取ってくれているみたいだけど、ちょっと仰々しいわよね……? お祭りに来た人達に迷惑を掛けるわけにはいかないわと決意をした私は、アレクお兄様の腕からするりと抜けて、ガイ様の逞しい腕に自分の腕を絡めた。

「アレクお兄様、心配して下さってありがとうございます。ちゃんとガイ様の隣に居ますし、迷子にならないように絶対に絶対に離れませんから安心して下さい……!」

 アレクお兄様にそう告げて、隣のガイ様の顔を見上げると、その視線に気付いたガイ様も私に顔を向ける。甘く優しげな瞳に見つめられ、心臓が跳ねた。腕に絡めた私の腕を、ガイ様が反対の大きな手で優しく触れるとまっすぐに前のアレクお兄様を見据えた。

「俺がアリーを守るから大丈夫だ。アレクは安心して仕事に行っていいぞ」

 ガイ様がそう言うと優しく私に微笑み、「さあ、行こう」と歩き始めた……。
 私はガイ様の言葉に歓喜の感情が波のように押し寄せ、自然と頬が緩んでしまう。出掛ける前からこんなに早鐘を打つ心臓は、ガイ様と一日一緒に居て心臓が無事に持つだろうかと心配になってしまう。

 ガイ様に甘くときめきが積もる私は、アレクお兄様の「盗聴魔法と追跡魔法も掛けていたのに……」という呟きには気付かなかった。
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