上 下
9 / 12

9

しおりを挟む
「ねえ、どうしてお義姉様が、聖女なんて呼ばれているの?」

「……っ、イザベラ?」

「聖女はわたくしのはずなのに。聖女の石だかなんだか知らないけど、魔物が減ってしまったせいで回復薬が売れなくなって困っているの。お父様ったら、ドレスを買うのを控えろなんて言うのよ。酷いと思わない?」


 口許を歪ませたイザベラに睨まれて、身体がびくっと跳ねた。そんな私をピンク色の瞳が冷ややかに見つめる。


「はあ。お義姉様の代わりに雇った魔法薬師が使えなくて。今まで通り、わたくしの魔力に染めているのに回復薬の効果が落ちたと言われているのよ。お義姉様のいた頃のほうがマシだって気づいたのよ」

 笑みを浮かべたイザベラに嫌な予感が止まらない。


「ハウエル様も今のお義姉様ならお相手してもいいと言ってくださってるの」

 ハウエル様の視線がねっとりと絡みつく。
 今日はアーサー様の瞳の色と同じ赤色のプリンセスラインのドレスを着ている。艶やかな生地で、裾に美しい宝石が縫いつけてある。


「ああ。今のシャーロットなら相手してやってもいい」

 ハウエル様の言葉にぞわりと鳥肌が立つ。
 アーサー様に見てもらうのは嬉しいのに、ハウエル様に見られるのは気持ちが悪くて仕方ない。首を横にぶんぶんと振る。

「マローラ子爵家に戻って、回復薬を作って頂戴──ああ、もちろん、わたくしが聖女でなくなってしまうから、あの変な石は作っては駄目よ。今すぐに戻ってくれるなら、ハウエル様を貸してあげてもいいわ」

 聞いた瞬間、怒りを感じた。
 私にだって心がある。あんな酷いことをしたハウエル様に触れられるのを想像するだけで、嫌悪感で身体が震えていく。

 それに、回復薬の結晶は魔物に怯える人たちを救うもので、回復薬は人を癒すためのもの。自分のことしか考えていないイザベラを正面から見つめた。


「…………いや、です」


「まあ、お義姉様ったら口答えをするつもり? いいこと? 意見は聞いていないの。はあ、そうね。乱暴なことはしたくなかったけど、辺境伯の婚約者じゃなくなればマローラ子爵家に戻ってくるしかないものね」


「え? どういうこと……?」

 ハウエル様に腕を掴まれた。
 声を上げようと思った時には、布で口を覆われて薬品の強い匂いを嗅がされれば、かくん、と膝の力が抜けていく。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:2,665

【完結】廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:355pt お気に入り:2,619

僕のずっと大事な人

BL / 連載中 24h.ポイント:1,435pt お気に入り:35

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,158pt お気に入り:2,218

明日はきっと

BL / 連載中 24h.ポイント:1,086pt お気に入り:1,102

リゼの悪役令嬢日記

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:57

処理中です...