ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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閑話

〈閑話〉リズモーニ王国 1

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 ~王都 ドゥーア先生視点~


「旦那様! 旦那様! 大変でございます!」

 出勤準備を整えているいつもの朝、珍しくバタバタと走る足音と、いつも冷静な筈のオットマールの声が聞こえてくる。

「オットマールにしては珍しいね、伝令魔法を使えばいいのに何があったんだろうね」
「確かにどうなさったんでしょうか」

 支度を手伝ってくれているスティーブンも驚いているが、準備が整うのとほぼ同時に扉が開いた。ノックもせずに扉を開けるなど、本当に珍しい。
 入ってきたオットマールは、ゼエハアと息を乱し、いつもは一切の隙も無い程整えられている髪すら乱れている。ヒト族で60歳を超えた彼は体力もそれなりに落ちているから、この3階まで駆け上がって来るのはかなり体力を使っただろう。

「君がそんな風になるのは珍しいね、どうしたんだ?」
「ハァ、ハァ、旦那様、お手紙です――ヴィオ嬢から」

 手紙を届けるのに? と思ったが、最後に告げられた名に急いで差し出された封筒を受け取る。
 魔法封がされた封筒には《リズモーニ王国 王都 ダンブリー・ドゥーア先生》と書いてあり、裏面には《サマニア村 ヴィオ》と書いてある。見覚えのある筆跡は確かにヴィオ嬢のもので間違いないだろう。

 後ろにいたスティーブンはオットマールをソファに座らせ、お茶を用意してやっている。ああ、そうだな。私も少し動揺している。
 立ったまま開封しそうになり、自分の心の動揺を感じた。スティーブンは私の分も用意しようとしてくれていたので、一旦座って気持ちを落ち着けることにした。

 三週間前の火の日、サマニア村から『至急』と書かれた手紙が届いた。あの日もこんな早朝だったと思う。

《ヴィオが誘拐され、それを追ったアルク殿が死亡した。襲撃者は例の付きまとい犯だったが実行犯は既に死亡、詳細はこれから調査が入る。ただ、誘拐されたはずのヴィオだけが行方不明となっている。これから捜索が始まるが、多方面から連絡が来るかもしれんからそのつもりで》

 そう書かれていた手紙はサマニア村のギルドからだったが、差出人がヨーナス・プレーサマ前辺境伯からだった。3日後の風の日、王都に到着したアスランたちは直ぐに屋敷へ来てくれた。
 犯行が行われたのは彼らがギルマス会議のために村を出た翌々日だった。ルパインの町で手紙を受け取ったアスランは、そのまますぐに捜索へ向かうつもりだったようだが、それはザックスが止めた。今行っても山にはいないと、それなら王都にも詳細があるはずだからまずは王都に行くぞと。
 確かにルパインに届いた手紙にはサマニア村で誘拐事件が起き、ヴィオ嬢が行方不明とだけしか記されていなかったという。

 あれから数日、サマニア村から続報が届いていたのでその時点で分かっていた事を共有した。ギルマス会議が終わった翌日、アスランはメネクセス王国に向かって旅立った。あちらにいるヴィオ嬢のお兄さん達と合流するつもりなのだろう。

 続報が途絶えて二週間、そんな時に届いた探し人本人からの手紙だった。

《ドゥーア先生こんにちは、突然のお手紙を失礼します。
 今私は別の大陸にいます。先生のお話に出ていた翼人族の人も住んでいるという大陸は本当にあったのです。この島は〖リルベルッティ大陸〗といって共和国から西の方にビューンと行けばあるそうです。
 今はまだ翼人族の人とお会いしていませんが、会ってみたらお友達になりたいと思っています。
 中にサマニア村宛のお手紙も同封しているのですが、こちらの大陸からは王都のギルドにしか手紙を転送できないという事だったので、先生の所に送りました。できれば中身をサマニア村に送って頂きたいです。

 追伸:気絶してて記憶にないんですが、どうやら私ドラゴンに乗ってこの大陸に来たらしいです。また先生たちと会える日を楽しみにしてます   ~ヴィオ~≫

「別の……大陸?」
「ヴィオ嬢はご無事だったのですね……、あぁ良かった。妻にも伝えてきます!」
「ああ、私もこうしてはおれません。皆にも直ぐ伝えましょう。旦那様、サマニア村宛の封筒はお預かりいたします」
「あ、あぁ、頼むよ」

 呆然とした私を置いて、スティーブンは気落ちしていたエミリンにヴィオ嬢の無事を伝えに行くのだろう。オットマールも屋敷の皆に伝えてからギルドに行くのだろうな。うちの者たちはみなあの親子の事を好いておったから、アルク殿が死去されたという情報とヴィオ嬢の行方不明という情報は屋敷中を暗くするほどの衝撃だったから。

 それにしてもヴィオ嬢が無事でよかったが、まさか別の大陸に行っているなど誰が想像する?
 ああ、ではあの時の報告書にあったドラゴンを見たという情報は本当だったのか。子供達だけが見たというドラゴンは夢物語だと思うと書いてあったが、事実ヴィオ嬢はドラゴンに乗って別大陸に渡っているのだ。

 いろいろ気になることはあるが、まずは彼女だけでも無事であったことを喜ぼう。これは直ぐにでもメネクセス王国へ手紙を書いてやらねばな。
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