ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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エルフの里

第457話 ビリーヤ村

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 降り立った場所から歩くこと二十分。
 私が想像していた夢のエルフ村が目の前にあった。

「おぉ! ツリーハウス!」
「ははっ、ヴィオはチャーキと同じ感想なんだな。チャーキも昔此処に来た時、全く同じことを言ってた」

 他の人は然程驚いていないらしいけど、何故!? 
 ミドウ村なんてめっちゃ長閑な村じゃん? あれを当たり前で育った人なら、この木に絡みつくような蔦の階段、木の上で半分木に侵食しているように見える家って驚かない?

「あ~、あの村しか知らなかったらそうかもしれないわね」
「そうだな、家という固定された空間で過ごす快適性は人型だったら大事だが、ドラゴンでいる場合は不要だしな」
「風竜の集落は、風通りを求めてるところもあるしな」

 なるほど、種族によって快適が違うんですね。
 というか風竜の皆さんはどんな場所に住んでいるのでしょうか。崖の上とかですか?
 子供を産むときにはどの竜も安全な場所に移動するけど、成竜になれば自分の属性に合う場所に巣をつくることが多いんだって。
 ミドウ村にいるのは水竜族の人が多いけど、水場が近いし、海の中は煩い魔魚たちがいるから地上での生活が快適なんだってさ。
 火竜は火山のマグマ近くに住んでるみたいで、成人した火竜はマグマでも火傷をすることが無いそうです。


 ツリーハウスは木の上にある。なので村に入った場所は広々とした空間になっていて、大きな火台が幾つか並んでいるだけで人はいなかった。

『家の中で火を使うと危ないでしょう? ここで皆料理するのよ~』
『そうそう、ここで作って食べる人もいるし、作ったものを家で食べる人もいるの』

 なるほど、確かに木の家で火事にでもなれば大変なことになりそうだ。共同キッチンって事なんだね。

「ビリーヤ村へようこそ~。あら~、早速精霊たちに気に入られたのね」

 村の入り口でポカンとしたままツリーハウスを眺めていたら、リーヤさんが出迎えてくれた。
 リーヤさんの髪にも緑色の精霊がくっついているのが見えるけど、本当にこの場所は精霊が好んで沢山住んでいるんだね。森では見かけなかった赤い少年姿の精霊が火の消えた火台の縁で大の字になって眠っているし、手のひら大の赤いトカゲは火台の炭の中から頭だけを出してスピスピ鼻息を鳴らしながら眠っている。

 大きな水瓶と井戸の周辺には水色の雫がポヨンポヨンと跳ねているし、フレアスカートみたいなドレスを着た少女は水瓶の中で亀に掴まりながら泳いでいる。勿論亀も半透明です。
 水瓶は生活用水なのかと思っていたけど、ここに来るまでにも数匹見かけた山羊魔獣カプラの為に用意された飲み水だったみたいで、ペロペロと飲んでいるカプラの顔に少女が両手で掬った水をかけてキャッキャと楽しんでいる。

 そして人がいないと思っていたんだけど、リーヤさんが迎えてくれた事、イブさんが連れてきた事、精霊たちがどんどん集まっている事から、家から様子を見ていたらしいエルフの人も続々と広場に集まってきた。

 バッサ バッサ バサ 

 大きな羽音が聞こえたと思えば、ふわりと私たちの目の前に降り立ったのは大きな翼を背中から生やした人だった。見た目は鳥要素無し、唯人に鳥の大きな翼が生えただけに見えるその人は、私をジッと黙ったまま見つめている。

 えっと、これはどうしたらいいの? 
 エルフの人も下りてきたは良いけど私たちを囲んだだけで何も発言しないし、自己紹介タイムとか? でもそれって私からではないよね?

「アリオール、そんな怖い顔で見つめていたら、ヴィオが怖がっちゃうわ」

 静寂を破ったのは、リーヤさんの柔らかい声だった。
 怖くはなかったけど、誰から発言すればいいのか分からない会議に出席した気分でした。

「むっ、怖いのか……。すまん。アリオールだ」

 厳めしい顔は緊張していたんですか? リーヤさんの言葉に困ったように眉を下げた翼人族の男性は、私とベル君と視線を合わせるように膝をついて自己紹介してくれた。

「こ、怖くはないんだからな。俺はベルフォンスだ」
「初めまして、ヒト族8歳のヴィオです。翼人族さんに会うのは初めてです、よろしくお願いします」
「そうか、よろしくな」

 ベル君がちょっと胸を張りながら自己紹介。後ろからルイスさんが「言い方の練習をもっとさせないといけませんね」とか言ってるけど、自己紹介の機会が無ければ、名前を言えただけでも十分だと思う。
 私はあちこちで自己紹介してるしね、冒険者同士ならランクとか言うのかもだけど、ここではこれで良いと思う。

 アリオールさんは私たちの頭を軽く撫でた後、空を見上げて指笛を吹いた。
 直後に木々が揺れ、あちこちから鳥が飛んできて、着地と同時に人になっていく。
 完全に鳥の姿になれるんですね。アリオールさんは人の姿に翼だけだったけど、色んなスタイルで空を飛べるのは羨ましい。小さな鳥、可愛らしい綺麗な鳥、種類も色々っぽいけど、アリオールさんはどんな鳥なんだろうね。

「へぇ、イブが言ってた通り、本当に僕たちの事を気にしないんだね」
「だから言っただろう? 皆も彼らはこれからしばらくこの村に滞在するけど、普段通りの生活をしてくれていいからね。はい、解散!」

 雀に似た小鳥も、人化すれば大人サイズになるんだと驚いていたら、その雀さんが楽し気にそんな事を言う。気にしないってどういうこと? めっちゃ気になってますよ?
 イブさんが手を叩いて皆に解散と告げれば、集まっていたエルフの人たちも森に行く人、家に帰る人、自由に行動を始めた。一体どういうこと?

「この村に他所から人が来るって事はほとんど無いからな。皆興味半分、怖さ半分ってところだったんだと思うぞ。精霊は気まぐれだけど、嫌な気を持っている奴には近づかないからな。これだけ精霊に集られてるから安心したんだろう。
 あとはこの村は翼人族も一緒に住んでるからな、彼らは祖先がヒト族から受けた事を聞かされて育つ。ベルと同じで興味本位であっちの大陸に行ったら危険だからな」

 チアキさんの言葉にベル君が視線を逸らす。山に墜落した事で魔獣に襲われるという危険な目に合ったけど、共和国とか人の国に降り立っていたら奴隷商人とかに捕まっていた可能性もあるもんね。

「ね~ね~、ヒト族って空を飛べないって本当? どうやってここまで来たの?」
「ヒトは姿も変えられないんでしょう? 不便じゃないの?」

 チアキさんの説明を聞いていたら、いつの間にか私と同じくらいに見える子供たちに囲まれている。翼は無いけど、さっき飛んできた子だからこの子も翼人族なんだろう。翼は完全収納ができるんですね。

「えっと、チアキさん」
「ははっ、子供は子供同士で楽しんできて良いぞ。モフッコの様子を見に行くのは明日で良いだろう?」
「まあそうだね、今日は子供たちの興奮を抑える方が先かも」
「ベルフォンスも行ってくればいい」
「ほんと!?」
「行こういこう、あっちに綺麗な川があるんだよ」
「私が一緒についていきますよ」

 あれよあれよという間に子供たちに囲まれて、連れていかれる。イブさんは興奮する子供たちを見て笑っているし、バレンさんから許可をもらったベル君は嬉しそうだ。ルイスさんが大人代表としてついて来てくれるみたいだけど、森の中の川って魔魚とかもいそうだよね。
 エルフの子供たちも両親に許可をもらったのか、後から駆けつけてきたので、結構な人数ですよ。
 この村の子供たちにも小さな精霊がくっついているし、私たちには案内してくれた(見た目は可愛らしい)おばちゃん精霊がくっついている。

 地元民である子供たちの案内で連れて行かれたのは、小さな滝が三段ぐらい連なっている川だった。一段ずつの高さは1メートルくらいだろうか、激しく落ちる滝ではないけれど、こっちの方がゆっくり眺めてられて好きだな。

「綺麗~」
「そうでしょう? ここは精霊たちもみんな好きなの」

 自分たちのお気に入りの場所を褒めたからか、子供たちが誇らしげに笑う。種族が違ってもこういうところは一緒だね。
 村から付いてきた精霊たちは水の精霊以外も滝に飛び込んでいく。ウォータースライダーじゃないけど、滝の流れに乗って滑り降りたと思えば、飛んでまた一番上の滝に行く。精霊もヒトの子もやることは変わらないんだね。
 川は底が見える程に浅く、危険な魔魚はそんなにいないという事だったので、私たちも靴を脱いで川に入って水遊び。ずぶ濡れになっても【ドライ】があるから問題ない。

 大人たちがお昼ご飯だと声をかけに来るまでガッツリ遊びましたよ。
 同年代の子供たちと訓練をする事は多かったけど、こんなに本気で子供の遊びをしたのは初めてかもしれない。
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