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スワンプの森ダンジョン
第483話 スワンプの森 その9
しおりを挟む赤いヘッジホッグが見つかった翌日、黄色いヘッジホッグが見つかりました。
ボアやカウカウは結構な数が見つかるんだけど、ヘッジホッグは希少種なのか、あまり見かけることが無い。しかも出てきても一匹だけだったりするので、アリオールさん達が赤いのを見つけて喜んだのも納得だった。
「黄色はどうなんでしょうか」
「ん~、使うことは無いかな。刺激はそうでもないから当たっても大丈夫だと思うよ。まずは練習にやってみるのは良いと思う」
三種の中では一番刺激が少ないという黄色のヘッジホッグ。
はじめてヘッジホッグに対する時には、この黄色で練習するという事だった。
「ヴィオならどうする?」
「ん~、まずはモフッコの時と同じですね。壁で全部受け止めようと思います。飛び散ったのを集めるのも面倒そうだし、突き抜けるって事は無いと思いますから」
「ああ、あの壁だったらそうだね。じゃあ僕も行くよ」
「では私も、ベルは壁の強度がまだ不安ですから、私とヴィオ様の間でやってみましょうか。自身を守る障壁はそのままで、水の壁を作りますからね、少し大変ですよ」
「うん、大丈夫やってみる」
という事で、粘着水壁が作れる私、チアキさん、イブさん、マムさん、ルイスさん、ベル君の六人で挑戦することになりました。
皆で水の壁を作り出し、黄色いヘッジホッグを囲んで針を出させるという、魔獣からすれば非常に嫌な攻撃です。
いや、攻撃はしないね。ただ針を出し尽くすのをじっと見ながら待つだけです。
ベル君の壁も大分慣れては来ているものの、ヘッジホッグのあの太い針が何本も来ることを考えれば、強度が心配という事で、私とルイスさんの間に立ち、20センチ程の隙間の攻撃だけを受ける事にしました。
ハムハムと草を食べていたヘッジホッグ、円陣を組むように壁を作った私達が徐々に近づき、射程範囲に入ったところで背中の針を一気に逆立てた。
「おぉ、黄色いね」
「う、うん」
少しビビっているベル君だけど、多分生身に飛んできたとしても、ベル君ならキャッチできると思いますよ。
「来るぞ!」
「おう!」
ビシュ ビシュ ビシュ ビシュ
勢いよく飛んできた黄色い針。
今回は空に向けて飛ばす必要がない為か、毛は横に広がる感じで、ヤマアラシというよりは、寝ぐせが酷い金髪のロックンローラーみたいに見える。
あ、ダメだ笑いそう。
皆が真剣に受け止めているから必死で笑いを堪えるという苦行。
壁はしっかり針を受け止めており、前面はきっと剣山状態になっているだろう。
とりあえずまだ来そうだから一本針を中に引き入れて確認してみよう。
匂いを嗅いでみれば、何となく嗅いだことのあるような匂いだけど、微妙に分からない。
次に削ってその欠片を一舐めしてみる。
赤よりはマシというのもあるけど、やばくても浄化の魔道具が何とかしてくれるというのは、試食のハードルを下げてくれるね。
ぺろりと舐めたその味は、懐かしい生姜の味だった。ちょっとだけピリッとするけど、爽やかに抜ける香りがたまらない。
「チアキさん、これ生姜です。ガリも作れるようになるし、お豆腐の薬味にもなるし、サッパリ餃子にも使えますよ」
「まじか! ジンジャエールも作れるか?」
「ジンジャエールの作り方はちょっと分からないけど、ジンジャーシロップなら作れますよ」
隣でじっと見つめていたチアキさんに素材を告げれば大喜びしている。こないだの勝手巻きパーティーの時にガリが欲しいと言ってたもんね。
生姜は色んな料理に使えるし、これは非常に良いものです。黄色いヘッジホッグは是非見つけましょう!
「練習台だと思った黄色が、まさかそんな美味しい奴だったなんてね」
「ヴィオは食の神だな」
いえ、ただの食いしん坊です。神様にお叱りを受けそうなのでやめてくださいませ。
そして、こうなったらハズレと呼ばれた緑だって興味が湧くのはしょうがないよね。
水の壁で囲む作戦は大成功で、拾い集める必要もないからバッチリだった。
まあ一回目が終わった時点で白雪さんから「ヘッジホッグを包み込めば、周りをウロウロするだけで針を出させることはできたんじゃないか」と言われて愕然としたけどね。
という事で、水の盾をひっくり返すことができるベル君はアリオールさんに抱えられ、ルイスさんは単独で、マムさんはタニアさんに乗って、三チームがヘッジホッグの散策と針回収をしに行ってくれました。
私たちはそれ以外の素材回収と、魔獣討伐をするためにローリングですよ。
高原では牛や山羊と戯れ、草を抜き、林では猪や熊と戯れ、キノコ狩りをする。ああ、勿論全て魔獣で魔茸でございます。
「いたぞ~! ヴィオ、緑のヘッジホッグからとってきたぞ!」
今夜の野営地に最後に到着したのはベル君とアリオールさんチームでした。
ルイスさんは黄色、マムさんとタニアさんは赤を見つけたとの事。
嬉しそうに緑の針を持って笑うベル君は、水の壁を完璧に制御できたのも嬉しかったようですね。
「おぉ! ハズレと言われた緑だね。楽しみ!」
「あんなに安全に回収できるなら、水魔法が使える奴らに練習させようと思う。イブはエルフ達に教えていただろう? あれを我々にも教えてくれないか?」
「別にいいけど、魔法の許諾が欲しいなら僕じゃないよ。あの魔法を教えてくれたのは、そこにいるヴィオだから」
「「「え?」」」
「あ、教え方はイブさん達の方が上手だと思うので、どうぞどうぞ」
私はオノマトペで伝えるから分かりにくいと言われるのだ。映像ありきだからチアキさんには通じるんだけどね。モフッコのカボス回収班なら上手に出来るんだし、教えてもらってほしい。
それよりも私はこの緑の針が気になってるんですよ。
色の時点でちょっと期待していたんだけどね、匂いを嗅いでほぼ確信しておりますよ。
「チアキさん、小さいツブツブタイプのおろし金ってありますか?」
「無いが作れるぞ?」
素材の予想を伝えれば即座に理解してくれたチアキさん。鞄の中から取り出したのは金属ではなく魔獣の牙?
「『わさびは金気をきらう』って聞いたことがあってな。鮫かなんかの皮を使ってた気がするが、魔魚の牙でも金気は無いからいいだろう?」
どういう理由だと思ったけど、確かにお寿司屋さんで出されたおろしは陶器か木の板にプツプツがついたものだった覚えがある。
チアキさんが加工してくれた牙おろしで緑の針をすり下ろせば、ワサビの爽やかな香りがする。一舐めすれば懐かしい味。鼻にツンとくるのもまた良い。
チアキさんも同じように指ですくったワサビを口に入れて「くぅ~」と言いながらも嬉しそう。
つられて皆も一舐めして泣いていたのは、ワサビに慣れていない人あるあるだろう。
とりあえず今夜は海鮮丼でワサビを楽しんでもらおう。
海鮮丼はアリオールさん達も準備出来るというのでお願いしよう。勝手巻きパーティーの時程の海鮮はいらないだろう。厳選した海鮮を薄切りにして、酢飯を作ってもらいたい。
その間に私はガリを作ろうと思う。
ツルンとした針が素材なので、生姜のようにごつごつしていないし、非常に扱いやすい。先端がとがっているのでそれさえ注意すればよいというのも良い。
包丁を使って薄切りにしている私の隣では、スライサーを使って生姜をすりおろしてくれているベル君がいる。すっかり料理のお手伝いが板についたものだ。
昆布出汁はまとめてとったものを幾つか収納してあるので、それを使えば良いだろう。
スライスした生姜は少しだけ茹で、茹で上がったら水気を切って塩を振る。
冷ましている間に甘酢を作ろう。
「すし酢と似ているな」
「昆布出汁が無ければほぼ同じ材料ですよね。だから合うのかもしれないですね」
「成程な」
頷きながらメモを取るマムさん。ガリはお寿司のお供って感じだけど、それだけで食べても美味しいからね。お魚料理にも合うし、牛丼にだって合うんだから。
あの赤い色は何で色付けしてたんだろう。赤紫蘇とかかな。ああ、梅干しが食べたくなってきた。
新しいものが見つかるとそれだけでも嬉しいのに、あれも食べたいってなるのは贅沢だなって思う。
だけど美味しいものが多かった日本の記憶があるんだもん。しょうがないよね。
塩を振りかけた生姜が冷めたところでギュギュっと絞って水気を切る。ドライで良くないかと聞かれたけど、乾燥させるわけなじゃいからこれくらいでちょうどいいのです。
甘酢に生姜を詰め込んで、箸でほぐせば後は待つだけだ。
「海鮮丼も明日にしたら良かったですね」
「いや、また海鮮丼を食う楽しみが出来たと思えば良い。今日はワサビを存分に楽しもう」
それもそうかもしれないですね。
最初は怖々と、耳かき一匙分くらいしか入れなかった大人たちも、魚と一緒に食べるとそんなに辛くないと思ったのか、少しずつ量を増やしていた。
ベル君はさび抜きで楽しんでたけど、大人でもワサビが苦手な人はいるからね、良いと思いますよ。
ヘッジホッグはダンジョン外でもいるというのはチアキさんが対峙して知ってるからね。是非外で見つけたやつも回収させていただきますよ。
他の色はどんな味なのか、気になるね!
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