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山籠もり
第490話 修行の始まり
しおりを挟む「おっし! 今日から本格的にやっていくぞ」
「お願いします!」
昨日の午後は拠点の周辺調査で終わったので、今日から本格的に修行が始まる。
チアキさんは何でも形から入りたい人らしく、いつものカンフーっぽい格好ではなく、完璧な忍者スタイルになっています。
うん、分かる、分かるんだけどね。
「チアキさん、めっちゃ忍者ですね」
「だろ? 今回の修行の為に新装備を作ったんだ」
そうですか、非常に嬉しそうで良かったですねとしか言えませんが、ハッキリ言ってめっちゃ浮いてますよ。
全身黒装束、頭も頭巾をすっぽりかぶっていて、目だけが見えいる。額には黒い鉢ガネまで巻いて本気度が分かる。足元も長い足袋っぽいのを履いているけど、唯の布製でない事は明らかだと思う。
ここまでよく忍者装備を再現できたと、ミドウ村の職人たちの技術力に驚くしかない。
この世界が何となく西洋ファンタジーっぽいから浮いてると思うのかな。
時代劇の忍者だってこういう森の中で過ごしてた描写が多い事を思えば、この黒装束でも良いという事なのかな。
いや、彼らは闇夜に紛れて行動するからこそ黒が活きているのであって、昼日中にしか修行をしない私達というかチアキさんが黒である必要はないのではなかろうか。
ウキウキと装備の説明をしてくれている183歳のチアキ少年にそんな事は言えそうにない。楽しそうで何よりですよ。
私ですか? 私はリリウムさんが作ってくれた装備を着ていますよ。
最初に作ってもらった冒険者シリーズは、サイズ調整がついていたけれど、流石にサイズアウトしてしまったんだよね。
だけど新しい装備は10歳くらいまで使えるサイズだったので、それを着させてもらってます。
「ヴィオは普段の装備でいいのか?」
「私は結界鎧をこの上から纏ってますから問題ないです」
というかその忍者装備は遠慮したいのです。
小さいサイズの黒装束を片手にショボンとしているチアキさん。どうぞそれはベル君にプレゼントしてくださいませね。
忍者コスプレの危機は無事回避することが出来たところで本題です。
「修行ってどんなことをするんですか?」
「うん、色々考えて準備してきたからな、無理そうならレベルを落としたもので訓練して、再挑戦を繰り返せるようにしてるから、今日は高レベルなモノから挑戦してもらおうと思ってるぞ」
おぉ! 先に準備してくれていたとは、もしや結構外出していたのはこの為だったのかな? ということは、この野営地も適当に選んだ訳じゃないんだね。
チアキさん渾身の忍者修行場所、凄く楽しみです!!!!
――――そんな事を思った時もありました。
今私の隣で凹んでいるチアキさんには申し訳ないけれど、ガチの忍者修行は魔法のあるこの世界では楽勝でした。
チアキさんが走る後ろをついて行くんだけど、山の中が悪路なのはしょうがない。
昨日は考え付かなかったけど、風魔法で少し自分を浮かせれば、悪路は全く気にならなくなった。
木の上に飛び上がるのも、浮遊魔法があれば問題ないし、無くても蔦魔法を使ってよじ登ることは出来る。
木と木を繋ぐロープがあったけど、ロープを伝わずとも木を蹴り、離れた木の枝に飛び移ることは追い風を当てれば楽勝だった。
沼地は海のダンジョンでやって見せた事を思い出したのか、自作の水蜘蛛らしき木の丸い物を履こうとしたところで、私の足元を見つめて泣きそうな子犬になっていた。
澄み切った溜池の前で細い竹筒を二本出してきたチアキさん。水中移動と言われた時点で顔を包み込むように空気の膜を作った私を見て見えない尻尾と耳がヘタっていました。
「最後はこの木を飛び越えるんだけどな……」
チアキさんが指した先には二メートルを越える細い木。
隣り合うように四本、高さが違う木が並んでいるということは、ここに植え替えたという事だろう。
「これって、小さい木を飛び越える練習をして、少しずつ高い木に挑戦ってやつですか?」
忍者かどうかは分からないけど、なんかの修行方法として見た気がする。少しテンション高く質問する私とは対照的にチアキさんは落ち込んでいる。
ああ、まあ、あれですよね。浮遊があるからこの高さを飛べるのは分かってますもんね。
だって、この高さって、ルイスさんの背中よりは低いですしね。
「えっと、じゃあ挑戦してみますね!」
沈んだ空気を吹き飛ばすように元気に言ってみるの巻。
助走も不要なのでその場で自分に浮遊の魔法をかける。
最初は【ウエイト】で重力を軽減させてから【ウインド】を下から吹き上げるという二つを別々にかけていた魔法だけど、今では【浮遊】魔法として一発で出来るようになっている。
その場でグっと地を蹴りジャンプをすれば、二メートルの木を軽々飛び越えることができる。木の反対側に降り立ってからチアキさんに声を掛けたら、五体投地もかくやという格好になってしまったのだ。
なんかごめんね。
「いや、俺が浮かれすぎてたのが駄目だったな。よく考えたら魔法でカバーできるもんな。まあ、お遊戯みたいなもんだと思ってくれたらいい」
魔法が上手く使えない時代だったら楽しかったと思う。私がお父さんとやっていた家の裏のアスレチックなんて、今考えたら正に忍者修行だったもん。
「この訓練には意味がなかったけど、山籠もりは継続するぞ。この森もかなり広いからな。山と森を縦断しながらこの島の北側を回ってみよう。
見つかってないダンジョンがあれば入ってもいいし、所々にある竜人族の集落に寄り道してもいいしな」
おぉ! 風と水以外の竜人族の人にはお会いしたことが無いからね、会えるなら楽しみですよ。
という事で、忍者修行という名の訓練は中止となり、森でのサバイバル生活がスタートです。
とはいえ夕食を自分で作れないチアキさんの為に拠点は必ずチアキさんが作ってくれるし、日中行動が別なだけで困ることは無い。別行動というか気配を消して遠くから見守りしてくれているってことですね。
ダンジョン内でも基本的には私が危険な事をしないか、危険な目に合わないかというのが第一で動いてくれていたので、白雪さんとチアキさんの三人で行動する時と変わらない。
出来るだけ森で採集出来た素材で料理をしようという縛りプレイをしているので、出てくる魔獣を倒しつつ、果物や自然になっている素材を採集するのも忘れない。
『出来るだけ』となっているのは、米が半年も食べられないのは悲しいと183歳児が言うからです。
今日の散策が終わり、チアキさんが拠点を設置してくれたら、私が夕飯を作る。
夕飯を食べながら今日の反省点や気付いたことを話し合う。
「それにしてもダンジョン産の野菜と違い過ぎて分からないもんですね」
「それはそうだな。まあダンジョンの草を抜いたら小麦もカボチャも出てくるって方が変だけどな」
それはそうだ。しかも外に生えている草は同じなのに、中身が違うとか手を抜き過ぎではないだろうか。いや、紐クジみたいで楽しいんですけどね。
ただ、地上に生えているものはダンジョンのようにリポップするわけではなく、季節で生えるものは、その季節まで生えないから気を付けておかないとなのだ。
「食材確保はダンジョンの方が楽だし、量もしっかり確保できますね」
「そうだな。折角の山籠もりが楽しくないのは嫌だからなぁ。肉以外はマジックバッグを使って良いことにしようか」
縛りプレイがどんどん緩くなっていく気がするけど、健康野菜生活の為にはしょうがないよね。
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