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閑話
〈閑話〉サマニアンズ 13
しおりを挟む~トンガ視点~
僕とルンガ、クルトとアスランさん、土竜の皆は夫婦ペアで部屋に入る。
高級宿だからね、冒険者宿によくある三人部屋とか大部屋は無いんだよ。
其々荷物を置いたら2階にある特別サロンに向かった。
「ここまで高級な宿だとこの格好でいいのかって思うから気を使うよな……」
何故か小声になるルンガだけど、僕もそう思うよ。
ヴィオと父さんの五人で動いていた時は、それこそヴィオがいるからそれなりの高級宿を選んでいたんだけど、それでもランクの高い冒険者か商人向けの宿だったから、僕達の冒険者らしい格好でも浮くことはなかった。
だけどここは貴族御用達の高級宿だから、護衛役の冒険者以外にそれらしい人はいない。指名依頼なのか護衛冒険者も綺麗な格好だし、その剣で斬れるの? って感じのを帯剣してるくらいなんだよね。
まあそんな宿だから、食堂以外にもサロンと呼ばれる個室が幾つかあって、仲間と集まって酒を飲んだり相談をする事ができる部屋がある。ダンスをする部屋もあると聞いてびっくりしたのは前回泊まった時だったかな。
「げっ、テリューたち着替えてんじゃん」
「フィルの護衛をしてただろ? あっちの城にも行ったし、こっちでも城に入ることがあるかもって事で作ったんだよ」
「トンガ君たちは正装を一着は用意しておいた方が良いかもね。金ランクになったし上級になるまでは貴族に会うことも少なくない筈だから」
サロンに入った僕達が見たのは、見慣れた冒険者装備ではなく、ドゥーア先生のところで着てたみたいな綺麗な格好のテリューたちだった。
あの時に着た洋服は、多分もう着る事はなからとお返ししてきちゃったけど、購入させてもらった方が良かったのかな。
「え~、けど、俺達ってフィルさん専属って扱いじゃねえの? 貴族とか面倒すぎんだけど」
「リズモーニではドゥーア先生と、プレーサマの閣下さん専属って言われてたよな?」
ルンガが隠すことなく面倒だというけれど、まあそれがあるから金ランクになりたがらない冒険者が多いんだよね。リズモーニではもう何回か先生たちの依頼を受けているから、王都のギルドでは先生担当って周知されてるみたいだけど、こっちはあんまり来てないからかな。
「こちらでも陛下からの依頼を頂いている事を伝えて断ることはできると思いますが、依頼者からの面会は行う必要がある事は多いですよ。我々と誼を結んで陛下とお近づきになりたいと思う者は少なくないでしょうしね」
「うわぁ、うぜぇ」
ルンガ正直すぎるよ。
実際皇国から戻って直ぐの〔土竜の盾〕には指名をしたいという面会依頼が大量に届いたらしい。
陛下からの依頼を受けるという形でリズモーニに来たらしいから、その時は十人くらいの面会で終わったみたいだけどね。
「あっ、それこそシエナの魔道具が使えるんじゃない?」
「確かにそうね。やばい奴らだったらヨルクさんかクラリスさんに伝えれば良いかもしれないわね」
そうか、悪縁に気付くっていう魔道具だもんね。悪い奴だとどんな風に気付けるのか楽しみだって悪い顔して笑っているけど、ちょっと僕も興味があるね。
「こうなってくると、フィルの魔道具の効果も気になるよな」
「今夜ギルドで待ち合わせだよね?」
「私はそれまでの間、ギルドの図書室で時間を潰していますよ。君たちは買い物などがあるでしょう? もし陛下が早く来るようなら伝令魔法を飛ばしますから、使える面子と一緒に行動してくださいね」
確かにここに来るまでも視線が気になったし、正装は持ってて悪いという事は無いだろうしね。ネリアとオトマンが見繕ってくれるというので、町に行くとしようか。
買い物を終えて、王都の冒険者ギルドに入る。
いつも通りカウンターで待ち合わせの会議室について聞こうと思えば、受付嬢が慌てて立ち上がった。
「ご依頼カウンターはあちらになります。こちらは冒険者専用の受付となっております」
「えっと、冒険者です」
「へ?」
ネリアとオトマンが後ろで笑ってるんだけど、ちょっと止めてよね。
オーダーメイドだと時間がかかるから、既製品の物を見繕ってもらったんだけど、どうせ面会後はそのまま宿に戻るのだから、着替えて行こうと言われたんだよね。
ネリア達は元々綺麗めの恰好をしていたし、僕たちは慣れていないからネリアとオトマンに言われるがまま着せ替えされてたんだけど、どうやら冒険者に見えなかったらしい。
ギルドタグを引っ張り出して見せれば、ホッと安心したように座った受付嬢。何だか悪いことをした気分になっちゃうよね。
「あの宿でも大丈夫って事が分かって良かったじゃない」
「うんうん、驚きはするだろうけど、きっとヴィオも格好良いって言うと思うよ」
ズルいよね。そう言われたら脱いでやろうと思えなくなるじゃないか。会議室はアスランさんが抑えてくれていたので、何度か入った事がある角の会議室に向かう。
宿のサロンにしないのは、防音などの設備が違うからだ。勿論僕たちが遮音結界を使うことで防音にはなるんだけど、闇魔法で隠れてここまでくる陛下の事を思えばギルドの方が安全なんだよね。
別行動をしていたテリューたちが集まり、目をキラキラさせたアスランさんも数冊の本を抱えて部屋に到着。
五の鐘が鳴りギルドの一階も人が少なくなった頃、会議室の扉がノックされた。
「サマニアンズの皆は久しぶりだな。テリューたちはついこないだぶりだけど、元気そうで何よりだ」
再会の挨拶もそこそこに、今回訪問した目的を済ませてしまおう。
フィルさん宛の手紙は色々大変なので、側近のヨルクさん宛に手紙を書くようにしている。なので今回はヴィオからの届け物があるという事は伝えているんだ。
「ヴィオからな、お守りを貰ってほしいって事で預かってきたんだ」
「お守り? ヴィオが自分で作ってくれたのか?」
何をというのは書かなかったんだけど、まさかお守りだとは思ってなかったんだろうね。
性能を知れば更に驚くと思うよ?
『フィルさん』と書かれた小袋をテリューから受け取ったフィルさんは、ヴィオが刺したことが分かったようで、愛おしそうにその袋を撫でている。
最初に会った時、ヴィオの絵を描いたノートを渡した時と同じだね。
しばらく堪能した後に袋を開けて左手に中身を取り出した。
「イヤーカフか。しかし二つも? あれ、皆もお揃いのイヤーカフを付けてるけど、これもお揃いって事か?」
平民とお揃いとか嫌かもしれないよね。でも閣下もドゥーア先生もお揃いだから、貴族もいるって知れば安心してもらえる?
「ああ、俺達も左耳の方は内容が違うが外から見たのは同じにしてくれてるんだ」
「ふふっ、そうか。ヴィオが大事に思っている皆とお揃いで作ってもらえるとは、嬉しいな」
あ、焦ったぁ~。変な事言わなくて良かった~。
ホッと胸を撫で下ろしていれば、同じ顔をしているアスランさんがいた。そうだよね、そっちを心配しちゃったよね?
魔道具の説明書を読みながら泣き出したり、魔道具を身につけてからオトマンに【スリープ】をかけさせたり、毒草を飲んでみたりと驚かされたけど、そんなハチャメチャなところもヴィオの父親だと思ったら皆が納得しちゃったんだよね。
僕らは流石に浄化の魔道具の検証はしてなかったんだけど、うん、効果は抜群だってよく分かったよ。
ヴィオ、ありがとうね。
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