ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ウミユ遺跡ダンジョン 前半

第335話 ウミユ その2

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 2時間程歩いて2階へ下りた。流石に町民の皆さんはまだこの階まで到達している人はいないらしく、閑散としている感じ。

「2つ目の安全地帯で昼食休憩にしようと思うけど、土竜の皆は大丈夫? この階までは冒険者以外の出入りがあるようだし、採集はしないからサクサク行くつもりだけど」
「俺らは大丈夫だ、ヴィオは平気か? 普通に速い速度で歩いてるけどついて来れてるな」
「うん、走ってるわけじゃないからこれくらいなら平気だよ」

 流石にランニングの時はお喋りする余裕はないんだけど、まだまだ人がいるダンジョン内、しかも今回はある程度距離を置いてついて来ている人達もいるからウインドダッシュは封印だ。
 一応テリューさんとトンガお兄ちゃんが代表という事で相談しながら動いているけど、索敵能力を先に伝えたからトンガお兄ちゃんが先導してる感じかな。

「じゃあ行動食は適宜取ってもらう感じで、昼しっかり食べたいなら行動食は少なめをお勧めしておくよ?」
「お昼も作るの?」
「夜程じゃないけど簡単なのは作るよ。今日はお宿で作ってきたサンドイッチがあるからそれだけどね」

 昨日の夜の間にサンドイッチは人数分(より多いけど)作って用意しておいた。付きまといの人数がどれくらいか分からなかったし、もし料理中に割り込んでこられたら熱々の油をぶっかけてしまう可能性もあるしね。
 だから出来れば早めに来てくれる方が嬉しい。だけどこちらも過剰防衛だったとか言われたくないから、森で来てくれるとなお嬉しい。

 そんな感じでお喋りしながら2階を進む。人が少ないからだろう、付きまといの冒険者はかなり離れたところを歩いている。

「私たちも階段目指して真っすぐ歩いてるから何とも言えないけど、 ちょっと採集するふりとか魔獣倒すふりとかすればいいのにね」
「本当に慣れてるのね、普通の人でも付きまとわれたら怖いと思うわよ?
 だけどあのレベルじゃそうね……、普段お父さんたちを見てるヴィオなら小物に見えちゃっても仕方ないかもしれないわね」
「ああ、尾行にしても下手すぎる。あれじゃあ怪しい人ですって自己紹介しているみたいだ」

 シエナさんとレスさん夫婦も意外と毒舌です。
 カラッとスパっとな感じのテリューさん夫婦
 冷静沈着な雰囲気のレスさん夫婦
 暇さえあれば旦那さんの尻尾をモフっているネリアさんと、嫁が可愛くて仕方ないのを隠さないオトマンさん夫婦
 結構面白い組み合わせなんだけど、3組ともが破落戸冒険者たちには結構な毒を吐くという共通点もある。

 本人たちは結構離れてるから気付かれていないと思っているのかもしれないけどバレバレである。そして運動不足なのか、既に数名が脱落している。

「ただの草原であんなに疲れてたら敵が来た時にやられちゃいそうだね」
「それならそれで、こちらとしては楽なんじゃがなぁ」
「というか、6歳のヴィオがまだ体力切れにならねえのが不思議なんだがな」

 上の階には、グラスラットとホーンラビットしかいなかったけど、2階にはウルフが少し混ざり始めている。多分3階からはゴブリンやスネークたちも参加するんだと思う。一般人でも採集に来れるようにという、いつものダンジョン様による気遣いだよね、素晴らしい!

 2階に下りて2時間ちょっと、2つ目の安全地帯で休憩をすることにしたよ。例の人たちは斥候役っぽい人が、私たちが安全地帯に入った事を確認してダッシュで戻って行ったから、多分1つ目の安全地帯で休憩するんだと思う。
 2階の後半にも人がいるのは分かるけど、多分これは私たちより早く入った冒険者なんだと思う。こっちに向かっている訳じゃないから、しばらくここに人は近づかないだろう。

「昼食休憩はちょっとゆっくりして、今日は3階まで行こうと思うけど、テリューはどう思う?」
「普通上級ダンジョンで1日に複数階下りるって事はないけど、このペースだと行けそうだな。けど後ろの奴らが追い付けるかって話だけど、アルクさん的にはどう考えてるんだ?」

 トンガお兄ちゃんたちが話し合いをしている間にクルトさんは火おこしをしてスープの準備。私は全員が座れるように大きめのテーブルと人数分の椅子――は面倒なので、テーブルに合わせた長いベンチを土魔法で設置。
 ルンガお兄ちゃんはテーブルの上に自分たちのカトラリーを手際よく並べていくので、それを見て焦った土竜のメンバーが 同じようにお皿とコップを取り出し始める。

「そうじゃな、普段じゃったらこのまま3階に下りるんじゃが、後ろの奴らが追い付けんじゃろう? 見失われてダンジョンから出るのを待たれるのも面倒じゃから、出来ればこの中で決着はつけときたい。
 であれば今日はゆっくり動いて5つ目で夜営をしてもええと思っとる。夜に行動を起こすか、それとも森に入ってから行動を起こすかは分からんが、あっちに多少は合わせてやらんとな」
「そっか、じゃあこの後はゆっくり採集しながら行く? 2階も後半なら採集可能って書いてたよね?」
「ああ、っておい、ちょっと待て、こんなテーブルなかったよな? ちょっと目を離した隙に何が起きた?」
「あ、お話終った? テリューさんもスープ用のカップと取り皿だけ頂戴ね。もし無ければ予備もあるけど」
「ああ、持ってるから大丈夫ってそうじゃない。 何でテーブル?」
「まあ普通はそうなるよな。俺らもこれが常識になりかけてるけど、常識じゃねえんだよな。まあ便利だから使うけど」

 おたまでクルクルしながらクルトさんがちょっと遠い目しています。そういえば最初はこれにもツッコんでくれてたよね。クルトさんのツッコミの精度は上がっていると思ってたけど、実はそうでもなかったのかな?

「ツッコミ精度は知らねえけど、まあ段々毒されてはいるよな。便利だから受け入れちまうのが怖えんだよ。おい、スープ出来たからカップ寄こせ」

 ツッコミながらもスープを配ってくれるところはオカン属性だよね。
 おや? であれば 〔サマニアンズ〕はオカンが2人いることになっちゃうね。トンガお兄ちゃんも結構世話焼きなお母さんだもの。

 サンドイッチは大皿三枚にドドンと盛り付け。自分で取ってねのスタイルです。スープのお替りは自分でよそってもらうので、クルトさんもテーブルに。おお、6人と5人だから中々の大所帯ですよ。
 結構ギュウギュウな感じになっちゃったから、次はもう少し横に長いテーブルにしないとですね。

「この短時間でスープが出来上がってるとか」
「サンドイッチも美味そう……」
「私たち、ここに来てから何もできてない。道案内も、魔獣狩りも、食事の準備すら……。ベテランの見本って何を見せればいいの?」

 ホカホカ湯気が上がるカップと目の前のサンドイッチを見ながらも、何となく焦点のあっていない土竜の皆様、大丈夫でしょうか?

「スープが冷めちゃうから食べようね。じゃあ「「いただきます」」」

 5人で食前の挨拶をして、私は二切れ分のサンドイッチを取ってもらって準備完了。お兄ちゃんたちは目の前のメンバーをチラリと見ながらも、遠慮なく自分が食べたいサンドイッチを皿にのせていく。

「みんな無くなっちゃうけどいいの?」
「「「はっ!」」」
「あ、食べる、食べます」

 私の声にサンドイッチに視線をやれば、さっきまで山盛りだった筈の皿が明らかに低い山になっている。6人が小さな悲鳴を上げ、其々二切れずつは奪取していく。

「ヴィオは少食じゃから、最初に少しだけ取り分けるんじゃがな、他はよう食うから食いっぱぐれんようにな」
「うわっ、うま」
「これ野菜よね? なんでこんなに美味しいの?」
「これ肉、すげえ美味い。何肉だ? すげえ」
「これも お肉だけど凄く柔らかいし、ソースが癖になる美味しさだわ。今まで食べたことのないソース、凄く美味しい」
「…………」
「オトマン尻尾が出ちゃってるわ」

 カツサンド、から揚げサンド、味噌カツサンド、照り焼きチキンサンド、生姜焼きサンド、ローストビーフサンドなど、肉のサンドイッチを大量に作ってきました。
 尻尾は腰ベルトにしていた筈のオトマンさんは無言であるものの、あまりの美味しさに緩んだのかピンと伸びた尻尾の先がピルピル動いている。

「ヴィオ、僕この照り焼きチキンまた食べたい」
「俺はこっちの味噌カツが良い」
「この生姜焼きはポアレスと食っても絶対美味いよな」

 肉は全冒険者に愛されるようですね。無心で食べていた土竜の皆さんも皿が空になった事でようやく落ち着いたみたいです。

「やべぇ、ダンジョンでこんなに美味いもんが食えると思ってなかった」
「うん、ダンジョンでこんなにお腹がいっぱいなんて経験も初めてだわ」

 テリュー夫妻が天を仰ぎながらプハーってなってます。
 それを見てトンガお兄ちゃんが「僕たちも父さんたちとダンジョンに潜った時に同じこと思った」と笑っている。そういえばそんな事言ってたかもね。

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