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尊い記憶

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 街の食堂で食事をとり、2人はさっそく目的地へと向かった。

 オニキスは上空を飛んで着いてきてはいるが、合図をださない限りは降りてこないのでそのままにしている。


「途中でポーションを作るために寄りたいところがあるのですが、いいですか? この荷物も置きたいのですが」

「おお、いいよ」


 拠点付近まで辿り着くと、ウォルターには安全な場所で待機してもらいアンジェリカだけが拠点に戻り、位置的にウォルターの場所からは拠点の入口は見えないため、オニキスも呼び寄せた。


「さて、急いで作らなきゃ」


 ウォルターさんがいるし、150本あればいいかな。

 荷物を下ろすとすぐに魔力回復薬の精製に取りかかる。時刻は夕方。150本分であれば日付をまたぐくらいの時間には完成するだろう。

 さっそく取り掛かろうと、オニキスが運んできた水が入った桶を持ち上げる。
 ふと、何気なくみた水面の自分の顔に、アンジェリカはハッとして動きを止めた。

 水面に映る自分の顔が、笑っている。それも、とても楽しそうに目を輝かせ。


 わたし、楽しいんだ。


 ここまでくる道中、ウォルターはずっと喋っていた。
 それは自らの冒険での体験や思い出話ばかりだったが、ところどころでアンジェリカにも話を振り、自然に意見を求めたりと配慮のある話し方で、アンジェリカも退屈せず、むしろ面白く話を聞くことができていた。

 当然途中でモンスターに出くわすこともあったが、ウォルターはすぐに戦闘態勢に切り替えて前衛職としての働きをみせた。
 連携して戦ったり、戦利品や見つけた果実を2人で分け合ったりと、1人ではできないことをたったの数時間でたくさんしたように思う。

 それは、ゲームをしていたときの充足感に似ていた。


 そうだ、あのときもこういう気持ちだった。


 ゲーム内のギルドメンバーと他愛もない話に花を咲かせたり、強力な敵を倒すための作戦会議をしたり、厳しい言葉がでることもあれば、腹がよじれるほど笑いあったり。


 そういうのはもうできないんだと思ってた。


 じんと胸の奥が熱くなる。たかがゲームだが、あのときの時間は自分にとってはとても尊いものだったのだと今になって強く思う。


 ウォルターさんとは、最後まで楽しく冒険できたらいいな。


 今までの苦すぎる経験がさっと頭を過ぎった瞬間、それを察したオニキスがドンとアンジェリカの背中に頭突きをした。
 衝撃の驚きで、むぎゃ、と変な悲鳴をあげ、頭突きの反動で目の前に置いていた桶を突き飛ばしてしまい、地面とローブとがびしょ濡れになる。


「……」


 じとりとオニキスを見つめるが、オニキスは、はやく薬を作れと言わんばかりに、ふん!、と鼻を鳴らしながら首を振っている。


「……ふふ」


 その姿がなんだか可愛らしくて、怒るよりも先に笑いが込み上げた。


「そうだね、はやく作らなくちゃね」


 やらなければならないことも増えてしまったし。

 濡れて重たくなったローブと足元に出来上がった水溜まりを見下ろして苦笑を漏らしつつ、よし! とアンジェリカはやる気をだして取り掛かった。


 
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