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探されている理由

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「こいつはハズレで間違いないな」

「ちっ、時間を無駄にしたぜ。魔力もないくせに紛らわしい格好しやがって」


 最初から友好的な態度ではなかったものがさらに険悪になる。

 そうか、この人達はわたしが魔力を得たことを知らないんだ。

 疑われる可能性が低くなったことに安堵するが、下卑た顔つきで腕を掴んでいた男が顔を近づけてきたので慌てて距離をとろうと足に力をいれる。


「それにしても、元伯爵家令嬢ともあろうお方が冒険者とは」

「なぁ、人探しも飽きてきたし、こいつで少し気晴らしでもしないか?」

「……! いや、離してください!」


 腰に回される手にゾッとして振り払う。


「おい! そこで何をしている!」


 ローブの中のメイスに手を伸ばそうとした瞬間、検問所のほうから兵士が数人駆け寄ってきた。
 きっと誰かが異変に気づいて検問所にいた兵士を呼んでくれたのだろう。


「ちっ……引くぞ」
 

 それを見てサンプトゥンの兵士達は慌てて引き下がって行った。アンジェリカも顔を見られないようにフードを深く被り直した。
 

「大丈夫ですか?」


 兵士が駆けつけてきたときにはサンプトゥンの兵士たちは完全に見えなくなっていた。逃げ足の速い連中だ。正体を知られたくないのだろう。
 

「はい、ありがとうございます」


 一難去り、心の中で胸を撫で下ろしながら兵士たちに深く頭を下げる。
 

「……ん? 白のローブだ」

「あなたははもしや、白魔道士ですか?」

「えっと……そうですけど」


 トライヴス国の兵士にも同じことを聞かれ、アンジェリカは首を傾げた。一体白魔道士がなんだというのか。


「ブラックドラゴンが相棒だったりしませんか?」


 え、この人たちもブラックドラゴンを探している……?

 一体ブラックドラゴンをどうするつもりなのか。オニキスは人を襲わないように躾をしてはいるが、他人の言うことを聞くかどうかは怪しい。連れて行ったところで役に立つかどうか。
 けれども探しているのは白魔道士のほうかもしれない。となるとその理由はなにか。

 ま、まさか……口封じ……?

 フードの下で顔を青くする。
 罪人である自分が関わったとなると外聞が悪いので、口外しないようにするために探しているのでは。

 良かれと思ってやったことだったが、余計なお世話だったのか。ショックが大きすぎて居た堪れない。

 
「いえ、あの、ブラックドラゴンですか? 存じ上げないです……」

「グアアアア」


 そそくさとその場を離れようとしたとき、上空からオニキスが降りてきて低空で旋回をはじめた。きっとアンジェリカが村に入って行かないのでどうしたのかと様子を見に来たのだろう。その優しさはありがたいが、アンジェリカの顔色は真っ青になった。


「ブラックドラゴン!」

「見つけた! 見つけたぞ!」

「急いで城へ報告しろ! あと馬車の用意! 丁重にもてなせ! 我が国の救世主様だ!」


 途端にわっと沸いたトライヴス国の兵士たちに胴上げされんばかりの勢いでもてはやされているアンジェリカを林の中から隠れて伺っていたサンプトゥンの兵士たちはギョッとしていた。
 

「嘘だろ・・・・あいつがそうなのか?」

「何かの間違いなんじゃ。だってあいつは魔力も持たないはずだ」

「とにかく、1度報告に戻ろう」
 

 兵士たちに背を押されて連れていかれるアンジェリカを見るサンプトゥンの兵士たちは動揺を隠せないままその場を後にした。
 

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