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 翌日、朝食を終えたアンジェリカは迎えに来た騎士に連れられ、クリスとともに城内の散策をした。


「あれはクリス殿下じゃないか?」

「隣にいるのはもしかして……!」


 討伐部隊の訓練所を訪れると、挨拶をする前から隊員に取り囲まれた。


「その節は本当にありがとうございました!」

「こうしてお目にかかれて光栄です!」

「あの日からわたし白魔道士様のファンなんです!」

「握手してください!」


 大勢の隊員に囲まれて一斉に話しかけられる。どっちななにを返したらいいのかわからなくて微笑むしかない。


「こらこら、アンジェリカ様が困っているではないか」


 やれやれといった様子で進みでたのは討伐部隊長のハロルドだが、彼は途中で合流してからずっと喋りっぱなしだった。
 そのせいでアンジェリカが少し疲れ気味だということには気づかずに我先にと前に出ようとする隊員を窘めている。


「改めて礼を言わせてください。《キングマウンテンクラブ》討伐の折に我々をお救いくださりありがとうございました。全滅を免れたのはあなたの力があってこそです」


  ハロルドの言葉に隊員たちが神妙な表情に変わる。


「多くの犠牲者をだしてしまったが、生きていなければその者達への償いも弔いもできない。あなたは恩人だ。本当にありがとう」


 感謝とともに敬礼をしたハロルドにならい、他の隊員達もアンジェリカにむかって敬礼をする。


「――ところで、アンジェリカ様は相棒のブラックドラゴンとともに1人で旅をされているのでしたな?」

「ええ、そうです」

「それでしたら、是非とも討伐部隊にお力添えいただけませんか? 貴女の戦い方には学ぶべきところが多い。ぜひとも隊の指南役としてご教授いただきたいのですが」


 柔和な姿勢を崩さないが、ハロルドの目が変わったことに気がつく。

 なるほど、それが目当てだったのか。

 目的に勘づいてはいたが、大勢の目の前という断りづらいタイミングで切り出してくるとは。
 なんと返したらいいものかと頭を巡らせていると、とん、と肩に手が置かれた。


「アンジェリカ嬢は我々の救世主ですから、貴女のことをとやかく言う者もいませんよ」


 隣にいたクリスが安心させるような優しい声音で「それに」と続けた。


「貴女がいてくれると、私も嬉しい」


 僅かに熱のこもった眼差しに、そこに隠されている感情にいやでも気がつく。

 これは困ったな。

 サンプトゥン国で婚約者候補だった頃、クリスのような熱い眼差しをおくってくる者はそこそこいた。
 けれど、婚約者候補という肩書きがその者達の抑止となり、積極的に言いよって来る男はいなかった。

 けれども今は、罪人というだけ。

 まあ、そこが1番問題だと思うのだけれど。


 
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