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身を焦がすほどの想い
しおりを挟む『クリス殿下、改めて紹介するよ』
エリックと話をしていると、挨拶をするためにアンジェリカがやってきた。
アンジェリカの細い肩に見せつけるように手を置いたエリックがにこりと笑う。――まるで勝ち誇ったようなその目は今でも忘れられない。
『アンジェリカ嬢は私の婚約者候補のうちの1人なんだ』
そのあとのエリックの話はほとんど覚えていない。
牽制ともとれるエリックの行動で、アンジェリカを婚約者候補のうちの1人と言いつつも、1番に推していることが伺えた。
アンジェリカはきっと、エリックの婚約者となるだろう。
そう思った瞬間に、手足の温度がなくなったかのような錯覚を覚えた。
クリスの恋は、自覚した途端に終わってしまったのだ。
諦めなければと、芽生えたばかりの恋心に蓋をした。なのに、今になって婚約者候補という枷から解き放たれた想い人が目の前に表れるだなんて。
きゅ、と苦しくなる胸を無意識におさえる。
――貴女の笑顔を取り戻すことができるのは、きっと私しかいない。
胸をおさえた手に力がこもる。
「国王陛下、お願いがあります」
「なんだね」
「アンジェリカ嬢の罪について、調べさせてください」
強い思いを抑えるような低い声に、ジョナサンは息子の横顔をちらりと見た。
「思うところがあるのか」
「はい。私の勘ですが、彼女はきっと、罪を犯していません」
勘と言いつつも確信を持つようなはっきりとした物言いに、ジョナサンは頷くように目を閉じた。
「証明してみせよ」
「はい、必ずしや証拠を掴んでみせます」
2年前に既に判決が下された事件だ。もし本当にアンジェリカが無実であったとしても、アンジェリカを罪人に仕立てあげた黒幕は証拠を全て消し去っているに違いない。
伯爵家の令嬢、それも王族の婚約者候補として名が上がるような人物に罪を着せ国外追放にまで追い込むには、根回しができるだけの人脈があり、周囲の口を塞ぐための金と影響力の大きさが必要だ。
となると、伯爵位と同じかそれ以上の位の貴族。
目星をつけるのは簡単だが、力のある貴族に近づくことはそれだけ危険も伴う。一挙一動に注意を払わなければならない。
どれだけの時間と労力がかかるかはわからない。けれど、それをしてでも手に入れたいものがある。
何度も忘れようと試みては、存在の大きさを再認識するだけで炙られるような辛さを胸に抱き続けた。
身をこがすほどの想いは、まだクリスの内側で燃え続けている。
アンジェリカ嬢。
わたしは、今でも貴女を想っています。
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