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踏み出せない1歩
しおりを挟む「今日呼んだのは私達の婚約のことでなんだ」
切り出された話題にパトリシアはドキリとした。
まさか、やっぱりナシにするという話なのではないか。
「キミは第一部隊の魔道士として男爵位と同等と見なされているけれど、王族と婚姻を結ぶには階級が低すぎるんだ」
ロシュディの言い分は尤もだ。だからパトリシアは王族であるロシュディとの婚姻は有り得ないと思っていた。
「でもキミは生家であるプラディロール子爵家を抜けた。つまり、位の高い他家の元へ養子として入ることができるんだよ」
婚約を取りやめると言われるのかと身構えたが、そうではなくてホッとした。
って、なんで安心しているのかしら、わたくしは。
「そこで、キミの意向を聞いておこうかなと思ったというわけさ」
意向もなにも、王族に意見できるほどの権力などパトリシアは持ち合わせていないのでそもそも拒否権はない。
つまりこれは形だけの話し合いということだ。
「……ご配慮頂きまして恐縮でございます。養子の件、是非ともそのままおお進め頂きたく存じます」
「良かった」
「ですが、本当にわたくしで宜しいのですか?」
それだけはどうしても聞いておきたかった。
ロシュディが何故こうもパトリシアに固執するのか。
「当然だよ。むしろキミ以外有り得ない」
甘さを孕んだ視線を向けられ、パトリシアは気まずさに目を泳がせた。
違うの、そうじゃなくて、わたくしを選んだ理由が知りたいの。
そう言いたいのだが、答えを知るのが怖くてそれ以上を聞くことは出来なかった。
それから少しだけ話しをし、ロシュディはどこか上の空なパトリシアをようやく解放した。
「パトリシア嬢は、なんだか気乗りしない様子でしたね」
パトリシアが去ったので余った茶菓子を食しつつ、ルイは率直な感想を述べた。
「王族に入ることが嫌なのでしょうか。それともロシュディ殿下の妻となることが嫌なのでしょうか」
「私の妻になるのが嫌ということはないだろう」
すかさず反論するロシュディには確信があったが、どうしてそこまで自分に自信が持てるのかとルイは尊敬を通り越して呆た。
「きっとあのときの質問にヒントが隠されていると思うんだよね」
『 本当にわたくしで宜しいのですか?』
その質問をしたときのパトリシアはなにかを懇願しているような、切羽詰まった表情をしていた。
国がパトリシアを求めているからというのもあるが、それとは関係なくロシュディはパトリシアを妻として迎えたいと素直に思っている。
そのつもりで“キミ以外有り得ない”と答えたのだが、なにか間違っただろうか。
首を捻って考えてみるがわからない。
まあまだ婚約まで時間はかかりそうだし、ゆっくり距離を縮めていこう。
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