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106 フレッドさんの魅惑のもふもふ

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「…………」
「「「……えっ?」」」

 僕たちが固まっていると、ピザを銜えたまま、ふさふさの可愛い耳と尻尾をピンと立てて、フレッドさんも固まってしまった。
 ミルクティーベージュ色の、とっても艶々した毛並み……。

「ハハハ! フレッド! お前がそんな事するなんて……! ハハハ!」
「珍しい事もあるものですね」
「ハハハ! 今日くらいはいいんじゃないか?」

 バージルさんたちは大笑いしながらフレッドさんを眺めている。
 当の本人は、顔が青くなったり赤くなったり忙しそうだ。

「おにぃさん、おみみ、かわいいです……!」
「なでてもい~ぃ?」
「僕も、撫でてみたいです……」
「えっ!?」

 ケイレブさんとコーディさんの犬耳も、ケイティさんの猫耳も、もちろんすっごく可愛かったけど、フレッドさんの耳と尻尾はもっとふさふさで、もふもふで……!
 僕たちがじっと見つめていると、トーマスさんが苦笑いしながらフレッドさんを隠す様に前に立った。
 あぁ~、もっと眺めてたかったのに……!

「こらこら、そんなにジロジロ見るんじゃない。フレッドが困っているだろう? ハルト、ユウマ、獣人族の耳と尻尾は、勝手に触ってはダメなんだぞ? ユイトも、ちゃんと覚えておきなさい?」

 いいね? と注意されて、僕たちはフレッドさんに失礼な事をしていたんだと今更ながらに気付いた。
 反省してフレッドさんに謝罪すると、仕方ないので尻尾くらいなら触らせてあげてもいいですよ! と顔を赤らめたまま僕たちに向かって言い放つ。
 口調は強めだけど、まっ赤な顔して言われているので好奇心の方が勝ってしまい、僕たちはもふもふとその尻尾を堪能させてもらった。

「ほわぁ……、もふもふです……」
「しゅごぃねぇ……、やらかぃねぇ……」
「この肌触り……、癖になりそうです……」

 僕たちがうっとりと撫でる姿に気を良くしたのか、フレッドさんは手入れを欠かしていませんからね! 今回は特別に耳もいいですよ! と口にした。

「あ、フレッド! そんな事言ったら……」

 慌ててトーマスさんがフレッドさんの口を塞ごうとしたが、もう言質は取った!

「……え? トーマス様、何をそんなに焦っ……!」


 うにゃぁああ~~~~……!!!


 店内に、フレッドさんの気の抜けた叫び声が響いた。



「ハァ、ハァ……! こんなに触られるなんて……! 私は聞いてません!」

 涙目になりながら抗議するフレッドさんだけど、僕たちは知らん顔。
 だって、特別に触ってもいいって言ったもん!
 ハルトとユウマも、思いっきりもふもふを堪能し満足気だ。

 バージルさんやサイラスさんはお腹を抱えて、声も出さずに笑っている。
 ライアンくんだけがフレッドさんに同情して、よしよしと頭を撫でていた。



「バージルさん、ちょっとお願いがあるんですが……」

 僕がバージルさんの傍によってそんな事を口にすると、顎を擦りながら言ってみなさい、と機嫌よく返事をしてくれた。

「今日は料理をたくさん用意してしまったので、外で警護しているアーロさんたちにも食べてもらいたいんですけど……」

 ダメでしょうか……? 

 僕が焼き立てのピザの方をチラリと見ると、バージルさんも頷いて、今夜は特別だな! と外にいるアーロさんたちを店の中に招いてくれた。
 食べている間、代わりの警護はトーマスさんとアーノルドさんがすると、ピザを片手に快く外に向かったので、アーロさんたちはかなり焦っていたけど。


「バージルへ……様。本当に我々が頂いても、よろしいのでしょうか……?」
「あぁ、今夜は特別だぞ? 冷めないうちに頂きなさい」
「いっぱいあるので、遠慮しないでくださいね」
「──! ありがとうございます! いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」

 アーロさんたち警護の人は合計で六人いたんだけど、皆さん嬉しそうに食べてくれている。たくさん用意しておいてよかった!
 バージルさんとイーサンさんがこれも美味いぞ、と色々差し出していたから緊張していたみたいだけど。

 ふと、子供席の方が静かだな、と思い振り返ると、ハルトとユウマ、それにライアンくんもこっくりこっくりと舟をこいで、今にも寝てしまいそう。

「オリビアさん、ハルトたち寝かせてきてもいいですか?」
「あら、皆寝ちゃいそうね。部屋に連れて行きましょうか」
「はい。あ、バージルさん、ライアンくんも一緒に寝かせてもいいですか?」

 僕がライアンくんもベッドに連れて行こうとすると、バージルさんはふにゃりと眉を下げてお願いするよ、と笑っていた。

「ほら、ハルト、ユウマ。歯を磨いてもう寝ようね?」

 僕がハルト、オリビアさんがユウマを抱っこしようとすると、

「ん~……、ぼく、もうたべれません……」
「ゆぅくんも……、ねんねしゅる……」
「ふふ、可愛いわねぇ~」
「あぁ~、そのまま寝ちゃダメだよ? 歯磨きしなきゃ」
「「ん~……」」

 目を閉じたまま、二人は僕たちのされるがまま。
 そんなに眠たいのか……。
 抱っこすると、ぽかぽかと体温が伝わってきて僕まで眠くなりそうだ。

「サイラスさん、ライアンくんをお願いしてもいいですか?」
「ハハ! ほら、ライアン様。ハルトくんたちと一緒に寝ましょうか」
「ん~……、はるとくんたち、と……?」
「そうですよ? お泊りですね」
「……ふふ、とっても、うれしいです……」

 ライアンくんはサイラスさんに抱えられながら、我慢出来ずに寝てしまった。
 寝顔もとっても可愛くて、僕とオリビアさんがほんわかした気分に浸っていると、バージルさんのグウッと唸る声が聞こえてきた。
 周りの人が心配しているけど、たぶんオリビアさんと一緒のだと思うんだ……。





*****

「トーマス、あの子たちは面白いな」

 店の外に立ち、ピザを片手に灯りの消えた村を見つめながら警護の真似事をしていると、アーノルドが上機嫌に話しかけてきた。

「可愛いだろう? オレもオリビアも、毎日楽しいよ」

 オレもピザを食べながら気分よく返事をした。
 ん、やっぱりこのチキンピザは絶品だな……! ハルトとユウマのピザはもう食べてしまったし、もう一枚持ってくればよかった……。

「ライアン殿下のあんなに楽しそうな顔は久し振りに見たよ。あのまま友人になってもらえればいいんだがなぁ……」
「ん? たぶんあの子たちは、もう友人だと思っているんじゃないか? あんなに楽しそうだったからな」

 まぁ、身分をぼかして伝えているのもあるが、あの子たちは気にしないかもしれないなぁ……。
 周りの貴族はうるさいかも知れないが……。

「そうだなぁ……。毎年ここに来るのに面倒な事は多いが、殿下のあの顔を見れただけでも来て良かったと思えるよ」
「殿下は城ではどうなんだ? 民衆には人気があると聞いているが?」
「城では普通にしているが……。学園では学友が出来なくて寂しそうだ……。周りが腫れ物を触れる様に扱っているのが分かるんだろう。まぁ、その気持ちも分からんでもないんだがな」
「……、バージルはそうでもなかっただろ? 毎日、煩いくらいじゃなかったか……?」
「陛下はなぁ……。あの奔放さと同じに考えてはいかんだろう……」
「まぁ……、そうだなぁ……」
「殿下は繊細なんだよ……」
「母君に似たんだな……」


「「……よかったなぁ……」」

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