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165 帰還
しおりを挟む「梟さん!」
「ホォ───ッ」
ノアを帰しにフェアリー・リングの森に行った時以来だ!
こんなに大きかったっけ……?
梟さんはアレクさんの頭上で大きな羽をバサバサと広げている。
「おい~! 早く降りろって……!」
だけどアレクさんの頭が重みで段々と下がっていき、しまいには完全に下を向いてしまった。
「あ! 梟さん! 早く降りてあげて!」
「ホォ─……」
慌てて梟さんに手を伸ばすけど、梟さんはやれやれとでも言いそうな鳴き声を上げ、ふわりと地面に飛び降りた。
「アレクさん、梟さんの事知ってたんですか?」
思わぬ再会に梟さんの頭を優しく撫でていると、レティちゃんも赤ちゃんもこの大きい梟さんに興味津々なのか、身を乗り出して覗き込んでいる。
梟さんは撫でられるのが気持ちいいのか、目を瞑ったままうっとりしているようにも見える。
「靄に飲まれたとき、ユイトと違う場所に落ちたんだよ」
「あ、そう言えば……」
目が覚めたとき、一緒に飲まれた筈のアレクさんは何処にもいなかった。
「ユイトの名前を叫びながら探し回ってたら、コレがいて……」
コレ、と顎で梟さんを指すアレクさん。
「何かオレの前を飛び回ってるから、一か八か賭けて後をついてったら、ユイトがいた」
「えぇ~! スゴイ……! 梟さんが案内してくれたんだ?」
ありがとう、と感謝を込めて頭以外にも優しく撫でていくと、梟さんは更に蕩け切った表情を浮かべている。
「でも……、何で僕の居場所が分かったんだろう……?」
「あぁ、確かに……」
僕とアレクさんがジッと見つめているのに気付いたのか、梟さんはゆっくり瞼を開け、僕のズボンを嘴でクイクイッと引っ張りだした。
あ、もしかして……!
僕はごそごそとズボンのポケットを探る。
「もしかして……、コレ?」
「ホォ───ッ」
そっと掌を開けると、森の帰りに梟さんに貰った緑色の綺麗な石。
トーマスさんに、何か意味があって渡したのかもしれないから、失くさない様に大事にしなさいと言われ、いつもポケットに入れて持ち歩いていた。
「コレのおかげで……。梟さん、アレクさんを連れてきてくれて、ありがとう」
お礼を言うと、満更でもない表情でグイ~っと体を伸ばして胸を張っている。
そんな梟さんを労う様に撫でていると、僕の後ろでレティちゃんがソワソワと覗き込んでいる……。
「梟さん、レティちゃんも撫でていい?」
僕がそう問いかけると、梟さんはレティちゃんの方に向かって一歩前に体を寄せた。
「あ、いいって言ってるんじゃないかな?」
「……え? いいの……?」
大きくて少し怖いのか、レティちゃんは腰が引けている。
「レティちゃんも、撫でてあげて?」
「う、うん……」
しゃがんで恐る恐る手を伸ばし、ゆっくり頭を撫でる。
「うわぁ~……、やわらかい……」
レティちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせ、いつしか梟さんもうっとりと目を瞑っている。
「よかったねぇ、レティちゃん」
「うん……!」
「あぅ~! あっ!」
すると、自分も撫でたいとでも言うように、赤ちゃんがアレクさんの腕の中からこちらに身を乗り出し、小さな手を伸ばして愚図りだした。
「撫でてみたいのかな?」
「あぅ~!」
「でも加減できんのか?」
「アレクさんが一緒に手を添えてあげれば……」
「え~? オレも?」
「あぶぅ~!」
早く! とでも言うように、アレクさんの服を引っ張り声を上げる。
「ほら、早く~って言ってますよ?」
「しゃあねぇな~……」
「あ~ぃ!」
アレクさんは渋々ながらも梟さんに近付きしゃがんで手を伸ばす。
梟さんも分かっているのか、アレクさんの方に近寄り、一歩前に出る。
「ほら、念願の梟だぞ~?」
「きゃぁ~!」
興奮した様に足をバタつかせるが、アレクさんに手を取られると途端に大人しくなった。
そして、ゆっくりゆっくり梟さんの頭に触れ、満足そうに撫でている。
「よかったねぇ」
「あぃ!」
ひとしきり撫で終えると、赤ちゃんはにこにこと満足げな表情を浮かべた。
「じゃあ、そろそろ戻るか……」
赤ちゃんの手をふにふにと握りながら、アレクさんは立ち上がる。
「そうですね。梟さん、帰り方、教えてもらえる?」
レティちゃんも早くカーティス先生に診てもらわないと……。
それに、この赤ちゃんの事も……。問題は山積みだ……。
梟さんにお願いすると、ホォ─ッと一鳴きし、羽をバサリと広げた。
すると、僕たちの目の前に淡い緑色の光がふわりと広がり、木の枝がゆっさゆっさとしなり始め、見る見るうちに美しいアーチが完成した。
アーチの向こうには微かに日の光が差し込んでいる。
「スゲェな……」
「きれい……」
「あ~ぅ!」
梟さんも森の出入り口を作れちゃうのか……。スゴイな……。
「行きましょうか」
「そうだな、トーマスさんたちも心配してるだろうし……」
「あ、向こうは大丈夫だったんでしょうか……?」
ハルトとユウマは? あの時怪我はなかったけど、僕がいなくなった後の事は分からない。
途端に不安が襲ってくる。
すると、僕の手をぎゅっと握り返す小さな手の感触が……。
「だいじょうぶ……。ごしゅじんさま、きえちゃったから……」
「ご主人様……?」
そう言えば、行商市で会った時も言ってたな……。
レティちゃんがこんなにボロボロになるまで放っておいた身勝手な人。
絶対に許せない……。
「ごしゅじんさまに、つながるけいろ……。きえちゃったの……」
「けいろって?」
あの経路の事?
「わたしのまりょく、すいとるけいろ……。でも、いまは……、へい、き……」
そう言うと、レティちゃんは俯いてうつらうつらとしだした。
安心して疲れちゃったのかな?
「レティちゃん、大丈夫? ちょっと休憩する?」
「ん……。へいき……」
そう言ってもなぁ……、このままじゃ危ないし……。
「ユイト、コイツ代わりに抱えといて」
「え? はい」
アレクさんは赤ちゃんを僕に手渡し、レティちゃんの方へと足を向ける。
「ほら、こっち」
「ん……」
アレクさんはフラフラしだしたレティちゃんを優しく抱えると、スタスタと歩き出した。
「ほら、行くぞ?」
「ホォ──ッ」
「あ、はい!」
僕は慌てて梟さんとアレクさんの後を追う。
木の枝で作られたアーチは、光がキラキラと反射してとても美しい。
「あ~ぅ」
赤ちゃんも嬉しそうに眺めている。
「キレイだねぇ?」
「あぃ~!」
こんなに愛くるしいのに、さっきのメフィストさんかもしれないなんて……。
ハァ……、なんて説明しよう……?
そんな事を考えていると、次第にアーチの終わりが近付いてきた。
その向こう側には……、
「トーマスさん! オリビアさん!」
僕の大切な人たちの、今まで見た事のない驚いた表情が見えた。
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