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250 楽しいお泊り会

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 冒険者ギルドを出て、早速皆で移動。
 ここでダリウスさんとコーディさんとはお別れだ。

「やぁ~っ!」
「メフィストくん、またね」
「んん~っ!」

 コーディさんの腕から離れると、メフィストの顔はくちゃりと歪み、いやだいやだと愚図りだした。

「スッゲェ好かれてるじゃん……」
「ボクもビックリですよ……」

 メフィストが離れたくないと愚図りトーマスさんとオリビアさんは困っていたけど、コーディさんはとっても嬉しそう。また遊びましょうね、と頬を優しく撫でると、メフィストも目からポロポロと涙を零しながら、小さな手でバイバイ、と手を振っていた。


「ゆぅくん、のぼりょうとおもってたのに~!」
「おぉ~、そうなのか? すまんすまん! 早くお前らに会いたくてな~!」
「しょうなの~? ゆぅくんも!」
「そうなのか~? こりゃ嬉しいな!」

 ユウマはイドリスさんに抱えられながら、ギルドの階段を上りたかったと拗ねていたが、会いたかったと言われてすぐに許した様だ。今はイドリスさんの腕の中で大人しく抱っこされている。メフィストも落ち着いたのか、クスンクスンとトーマスさんの胸に顔を擦りつけているところだ。

「イドリスさんの家はこの近くなんですか?」
「いや、ここからは少し歩くなぁ~! オリビア、足は大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう」

 イドリスさんの歩幅と僕たちの歩幅は違う為、どうしても遅れてしまう。今はイドリスさんがゆっくり歩きながら、ユウマとハルト、レティちゃんに通りにあるお店を簡単に教えてくれている。
 僕たちの村よりも店がたくさん立ち並び、見ているだけでもすごく楽しい。
 ハルトたちも顔をキョロキョロさせながらはしゃいでいる。

 そしてイドリスさんが案内してくれた一軒の建物。
 他の店に比べると飾り気はないかな。その建物の中に遠慮なくズカズカと入っていくイドリスさん。僕たちもその後を追う様に中へと入る。

「あら、イドリスさん。いらっしゃいませ」
「おぅ! 久し振りだな!」

 受付窓口でにっこり微笑む眼鏡をかけた一人の女性。その後ろには紙の束を仕分けしている従業員さんたちの姿が。
 その窓口にオリビアさんが手渡した物。

「今日はこれをお願いしたくて」
「はい、確認致します。……計六通で、間違いないでしょうか?」
「はい。お願いします」

 受付の女性が数えていたのは手紙の数。この建物は郵便局の様な物で、ここは郵便窓口だった。
 ハルトとユウマはライアンくんとバージルさんに。レティちゃんは保護され、現在療養中の魔族の人達に。そして僕が書いたローレンス商会の会長・ネヴィルさんと、フレッドさん。そしてアレクさん宛ての手紙だ。

「全て王都宛てですね。問題なければ五日後には到着しますので」
「はい。よろしくお願いします」
「「「おねがいします!」」」
「はい、確かに。承りました」

 オリビアさんと一緒に、ハルトたちも受付の女性にぺこりと頭を下げる。それには女性も、後ろで仕分けしていた従業員さんたちもにっこり笑みを浮かべていた。
 僕の手紙も、どうか無事に届きます様に。





*****

「あっ! ユイトくんじゃ~ん!」
「あ! ケイティさん! こんにちは!」

 皆で郵便局から出ると、丁度こちらに向かって駆けてくるケイティさんの姿が。その後ろにはオーウェンさん、ワイアットさん、ケイレブさんも揃っていた。依頼を終えてギルドに向かう途中だったらしい。

「丁度良かった! アレでお菓子作ったんです! はい!」
「え~!? ホントに作れちゃったの~!?」
「凄いな! ユイトくん、アレが何か知ってたのか?」

 ケイティさんに紙袋に入れた人数分のチョコチップクッキーとホワイトチョコレートを手渡すと、目を丸くして驚いていた。
 後ろからはワイアットさんも覗き込み、感心したように呟いている。

「豆と実はまだ手付かずのままなんですけど……。他の物は使いやすかったので、レティちゃんと一緒に作ってみたんです」
「レティちゃんも作ってくれたの~?」
「うん! おかしつくるの、とってもたのしかった!」

 良い子だね~! とレティちゃんの頭をよしよしと撫でるケイティさん。だけどケイティさんは猫人族、ケイレブさんは犬人族……。チョコレートって食べてもいいのかな……? まぁ、オニオンは大好きだってモリモリ食べてたけど……。

「ん~、かかお? とか、ちょこれーとって食べた事ないけど……。匂いは大丈夫そうだよねぇ~?」
「うん! おれも匂いは平気! 甘そうな匂いする~!」

 そう言って紙袋の中身をくんくんと嗅ぐケイティさんと、駆け寄って来たケイレブさん。尻尾が揺れてて可愛い……。メフィストもさっきまでトーマスさんの胸に顔を擦りつけて愚図っていたのに、今はお二人のゆらゆら揺れる尻尾に釘付けだ。トーマスさんもホッとした顔をしている。

「けいてぃちゃん、これね、とってもおいしいの!」
「ぼくも、だいすきです!」
「ゆぅくんも~!」

 三人の言葉に耳をぴくぴく動かし、ケイティさんとケイレブさんは顔を見合わせた。そしてすぐ後ろにいるワイアットさんとオーウェンさんに振り返る。

「ねぇ~! コレ! 食べてもいい?」
「お? いいぞ! オレも食べる!」
「おれも!」
「待て待て! 俺も!」

 そして四人で紙袋の中からチョコチップクッキーを取り出し、乾杯でもするかの様にクッキーをこつんと合わせていただきます! と口に放り込んだ。
 そして四人仲良く、ゴクンと飲み込むと……、

「ん~っ! おいし~い!」
「うっまぁ~!」
「オレ、これ好きだな」
「美味い……!」

 四人とも気に入ってくれた様だ! レティちゃんもにこにこと笑みを浮かべて嬉しそう。ケイティさんたちはあっという間にクッキーを食べてしまい、次はホワイトチョコを味わっている最中。ケイティさんは興味深げに眺めていたイドリスさんにもお裾分けしている。イドリスさんも、これはいいなと珍しくゆっくり味わっていた。
 あと珍しいと言えば、ケイティさんとケイレブさんよりも、オーウェンさんとワイアットさんの方がチョコに夢中になってる事かな。

「それでですね、ワイアットさんとケイティさんにお願いがあるんですけど……」
「私たちに?」
「何だ?」

 俺たちに出来る事なら、とお二人とも話を聞いてくれ、あの材料が欲しいと説明すると快く快諾。
 どうやらそのおばあさんは、この街でお店を開くそうだ!
 だとしたら、あのチョコレートも手に入る!

「ん~、だけどあのおばあちゃん、お店を開けるのは明日って言ってたよね?」
「だな。見に来てねって言ってたな」
「そっかぁ~……。材料買いたかったんだけど……」

 お菓子は好評だし、色々訊いてみたかったんだけど……。
 開店は明日かぁ~。ま、仕方ないかな。

「じゃあさ、明日ユイトくん案内したげるよ!」
「ユイトくんさえ良ければな?」
「ホントですか!?」

 あ、でも……。僕たち、明日は何時に帰るか分からないし……。

「あら、面白そうだし私も行こうかしら……」
「おにぃちゃん、わたしもいきたい……!」

 オリビアさんもレティちゃんも、あのお菓子の材料が買えるならと行く気満々。トーマスさんも多めに買っておいてくれと僕にお願いしてきた。チョコチップクッキー、トーマスさんも気に入ってたからなぁ~。

「じゃあ明日の昼、お前らオレの家に迎えに来てくれるか?」
「あ、いいですよ~!」
「あのデッカイ家ですよね?」
「おばあちゃんのお店も近くだったから、すぐ着くよ~!」

 イドリスさんは、僕たちが帰ってくるまでハルトたちを自分の家で遊ばせておけばいいと提案してくれた。

「え、でも……。いいんですか?」
「あした、いどりすさんにけいこ、してもらいます!」
「ゆぅくんねぇ、おべんきょ!」
「メフィストもお留守番出来るもんな~?」
「あぃ!」
「ハハ! いい返事だな!」

 オレがハルトたちと遊びたいだけだから気にするなと言ってくれたけど……。これはもう、お礼に今晩の夕食を気合入れて作るしかないかな……。

「じゃあ、甘えちゃってもいいですか……?」
「おぅ! 任せとけ! トーマスもいるしな!」

 ガハハ! と笑うイドリスさんとは対照的に、トーマスさんはオレはお前と二人で心配だよ、と不安そうだった。






*****

「あ、この角を曲がったらすぐだからな!」
「「「はぁ~い!」」」

 ケイティさんたちと別れて道を進むと、さっきまでの雰囲気とは違う閑静な住宅街に入る。右を見ても左を見ても、大きな家ばかり……。ちょっと緊張しちゃうな……。
 トーマスさんはソワソワしてる僕の様子が面白いのか、さっきから笑ってばかり。レティちゃんにもだいじょうぶ? と心配される始末……。恥ずかしい……。

「おぅ、着いたぞ! ここだ!」

 イドリスさんの声に顔を上げると、そこには他の家にも引けを取らない豪華な二階建ての庭付き一軒家が……!

「うわぁ~……、おっきいです……」
「しゅごぃねぇ……」

 ハルトとユウマもほぉ~、と感心した様に眺めている。

「こらこら、早く入れよ~!」
「あっ! は~い!」

 あまりの大きさについついじっくり眺めてしまった……。ハルトたちもすでに先に玄関へ向かっている。僕もそちらへ向かおうとすると、上からフッと影が……。

「ホォ───」
「あ、梟さ……、セバスチャン……」
《 もう姿を見せてもいいだろう? 》

 空から羽を広げ、僕の目の前に颯爽と舞い降りたのは、"森の案内人"の梟さん、改めセバスチャン。
 威厳のある名前と言われたけど、梟さんを見てたら段々と執事っぽいなと思い始め、最終的にはもうこの名前しか思い浮かばなくて……。
 オリビアさんが面白がってオリーブ色のリボンでリボンタイを作っていたので、セバスチャンはそれを首元に着けている。ユウマとノアたちがカッコいいとはしゃいでいたから、本人も気に入っているみたい。
 これに片眼鏡を付けたら、本当の執事みたいだ。

「お? そいつも一緒に入んのか?」
「あ、大丈夫ですか?」
「おぅ! どうせ妖精たちもいるんだろ? 入れ入れ!」

 イドリスさんの寛容さに感謝しつつ、僕はセバスチャンと一緒に玄関へと向かう。ひょこひょこと歩く後ろ姿は愛嬌があって可愛い……。

《 む? 何か失礼な事を考えているだろう? 》
「えっ!? やだなぁ~! そんな事考えてませんよ~!」
《 怪しいな…… 》

 セバスチャンが首をくるりと回すからビックリしてしまう。
 急にやるのは止めてほしいな……。

「あれ?」
「どうしたんだ?」

 イドリスさんが玄関の鍵を開けようとすると、逆にカチャリとカギが閉まってしまう。

「出掛ける時、閉めた筈なんだけどなぁ~?」
「おいおい、不用心だな……」
「大丈夫なの~?」
「いや、閉め忘れただけかも……」

 少し不安に思いながらもイドリスさんの後に続いて入っていくと、そこは一面の大理石……? エントランスから豪華過ぎて言葉を失ってしまった。
 トーマスさんとオリビアさんは慣れているのか、お邪魔しますと言いながら早速荷物を置きに行った。
 ノアやリュカたちも次々に姿を現し、ハルトたちと一緒に楽しそうに飛び回っている。

「す、凄いな……」
「おにぃちゃん、いこ?」
「あ、うん……!」
《 む……! ここは滑るな……! 》
《 せばすちゃん、だいじょうぶ~? 》

 足を取られてツルツルと滑っているセバスチャンを肩に乗せ(すっごく重いけど)、レティちゃんに手を引かれながらエントランスを抜けようとすると、奥からオリビアさんたちの驚いた声が響いた。
 何事かと思い慌てて駆けて行くと、そこにはしっとりと濡れた前髪を下した一人の男性が……。

「……え? な、なぜ……、トーマスさんたちが……?」
「え? こ、コンラッドさん……?」

 皆で一斉にイドリスさんの方を見ると、バツの悪そうな顔ですまん、と一言……。
 そう言って、まっ赤な顔で天を仰いでいた。
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