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314 王都でデート ~向かった先~

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「どこも人がいっぱいですね~!」
「この時間は特にな……」

 馬車の上から通りを見渡せば、何処も彼処もたくさんの人が行き交い賑わっている。

「さっきの人達、凄かったですね?」
「元気だよな……。ちょっと疲れた……」

 先程まで隣に座っていた年配の御婦人達の質問攻めに、アレクさんは少し疲れた様だ。僕がキョロキョロとしていたせいか、王都は初めてなの? そっちのお兄さん見た事あるわ、とグイグイ来る御婦人達のその勢いに気圧された様子。その人達が降りると、ホッとした様に小さく息を吐いていた。
 向かいに座っていた他の乗客達も、同情した様に皆、苦笑いしている。

「ユイト、次で降りるから」
「はい。……あ! アレクさん、あの子可愛いです!」
「えっ!?」
「ほら、あの子!」

 朝日に照らされる街並みを眺めながらアレクさんとのんびりと馬車を満喫していると、少し先に大きなサイの様な動物が。アレクさんは僕の言葉に驚いたらしく、なんだ従魔か、と呟きながら心臓に悪いから止めてくれと注意されてしまった。周りに座っている人達が笑いを堪えている気がする。

「あの子も従魔なんですか?」
「王都の中にいるのは大体従魔だよ。ほら、があるだろ? あれはライノセラスだな。あの大きさだったら馬より力あるかも」
「へぇ~! そうなんだ!」

 尻尾をフリフリと揺らすあの子はライノセラスと言うらしい。鼻先と額に大きな角が二本。店の前でじっとしているから、この子の主は店内にいるのかもしれない。言われてみると、確かに首元に大きくて赤いスカーフを巻いている。あれなら王都の外でも従魔と一目で分かるだろうな。

「可愛いですね~! スカーフ巻いててオシャレです!」
「あ~、あれは確かに可愛い」
「ですよね~! 目も温厚そうで可愛いです!」

 そんな事を話しながら眺めていると、通り過ぎる時に不意にその子がこちらを振り返った気がした。


《 そんな事、ご主人以外に言われたの初めて。ありがとう 》


「……えっ!?」


 突然の事に呆然としていると、耳と尻尾をパタパタと振りながら嬉しそうに目を細めている。するとあの子の御主人なのか、同じ赤いスカーフを身に着けた女性がお待たせと言いながら店の中から出てきた。そしてあの子から話を聞いて、馬車に乗った僕の方を向き手をひらりと振る。

「どうした?」
「……え? いや、なんでもないです……」
「そ?」

 さっきの、あの子の声だったよな……?
 もしかして、セバスチャンとサンプソン以外にも話が通じる……?

 ……う~ん、これは帰ったらトーマスさんとオリビアさんに相談しよう……。

 そんな事を考えながら、僕も小さく手を振り返した。





*****

「ここからちょっと歩くから」
「はい!」

 いくつかの乗り場を経て漸く目的地に到着。御者さんにお礼を伝え馬車を降りると、籠を持った女性が馬車の乗客に向かって声を掛けていた。

「メーラ、いかがですか?」
「あ、二つください」
「ありがとうございます」

 代金を貰うと、いそいそと林檎メーラを取り出し手渡していく。礼を言い、その女性は頭を深々と下げ他の馬車の人達に声を掛けに行った。

「あの人はここで果物を売ってるんですか?」
「そうそう、乗り場は色んな客が来るからな。停車してる馬車に声掛けて売り歩いてる感じ。ここら辺は多いかな」
「へぇ~、そうなんだ……」

 言われてみると、他にも同じ様に籠を抱えた女性や子供がチラホラと……。売っているのは果物だったりパンだったり、あとは小さな瓶に入った緑の液体……?

「アレクさん、あの瓶は何ですか?」
「え? あぁ、ポーションだな」
「ぽーしょん……?」

 聞き慣れない言葉に首を傾げると、アレクさんも不思議そうに首を傾げる。

「回復薬だよ。傷にかけたり飲んだり……。見た事ない?」
「多分、初めて見た気がします……」

 もしかしたらカーティス先生の診療所にあったのかもしれないけど、そこまで見てなかったし……。薬師のおばあさんのお店でも、チョコレートの事しか頭に無くてちゃんと見てなかったなぁ……。

「近くに売ってる店があるから、後で寄ってく?」
「え、いいんですか?」
「怪我した時に必要だからな。ちゃんと見といた方がいいだろ?」
「そうですね。僕も買っておこうかな……」

 会話を続けながら賑やかな大通りから脇道に入り歩いて行くと、周囲の雰囲気が若干変わった気がする。門近くでは客引きの声で活気があったのに、ここはそういうのも一切なく、何となくさっきよりも冒険者さんが多い様な……? それにチラチラとこちらを観察する様な視線も感じるし……。慣れない雰囲気に、アレクさんの傍を離れない様に並んで歩く。

「この辺りは何があるんですか?」
「ここら辺は装備なんかの修理で鍛冶屋が多いかな。あとは魔道具の店とか」
「あ~、だから冒険者さんが多いんですね?」
「そうそう。ダンジョンに潜る前は必要な物揃えときたいしな」
「ダンジョンってこの近くにあるんですか?」

 ダンジョンは聞いた事あるけど、実際どんなものかよく知らないんだよなぁ。あの蓄音機もドロップ品だってオリビアさんが言ってたし、魔物を倒したら他にも色々便利な物とか出てくるのかな……?

「王都の中にもダンジョンはあるぞ?」
「え? そうなんですか?」
「ダンジョンがあれば栄えるからな。ドロップ品を売ればある程度は生活出来るし、運が良ければ半年は遊んで暮らせる」
「へぇ~! 凄い!」
「でもその分、怪我したり最悪死ぬ奴もいるからな。だからポーションは必須アイテムなんだよ」

 アレクさんの指した先には、露店で商品を吟味する冒険者さん達の姿が。遠目に見ると、ポーションと呼ばれる液体や薬草が所狭しと並んでいた。
 王都の中にあるダンジョンで魔物を倒し、魔石やドロップ品を売って生活している人達もたくさんいるという。この街ではダンジョンは生活に欠かせないものらしい。

「スタンピードさえ起こらなかったら平和なんだけどな」
「すたんぴーど……?」
「ダンジョンの中にいる魔物の氾濫だよ。ほら、陛下の護衛の時に魔法陣から魔物が出てきただろ? あれと同じ様な事がダンジョン内で起こって、溢れた魔物が外に出てくるんだよ」
「怖いですね……」
「いつ起こるか分からないからな。だからダンジョンの近くには必ず監視が付いてるし、知らせる為に鐘があるんだ。まぁ、ここ数十年何も起きてないけどな」
「そうなんだ……。でも怖いですね……」

 魔物の氾濫かぁ……。あの時はサンプソンとアドルフたちがハルト達を助けてくれたって言ってたけど、凄い死骸の数だったし……。トーマスさんの怪我も痛々しかった……。あんな事、もう見たくないなぁ……。

「そんな顔しなくても大丈夫だって。その為にオレ達がいるんだからな」

 そう言いながら僕を優しく引き寄せてくれるアレクさん。
 だけど、その為って……?

「あ、ユイト。あそこ」

 アレクさんの声に顔を上げると、少し先に教会が見えてきた。近付いていくと、どこからか子供たちの声が響いてくる。

「教会……」
「そ。入ろうぜ」
「え、入ってもいいんですか?」
「大丈夫。大体開放してるから」

 アレクさんに手を引かれ、門の中へ一歩足を踏み入れる。村の教会よりも大きく立派な建物。少し古びているけれど、見上げる程に高い鐘楼しょうろうに吊るされた大きな鐘が見えた。

「あ! アレク兄ちゃんだ!」
「え、ほんと~?」

 僕が鐘を見上げていると、建物の裏から子供たちが駆けて来る。一人、二人と数えていると、あっという間に囲まれてしまった。アレクさんも笑顔でその子達の頭を撫でている。

「おはよう。シスターは?」
「中にいるよ~! 今ね、皆でバザーの準備してたの!」
「あぁ~、もうそんな時期か~」

 集まっているのはハルトよりも少し大きいくらいの子ばっかりだ。この子達よりも年上の子達はバザーの準備で忙しいらしい。
 アレクさんと子供達の会話を眺めていると、誰かが僕のコートの裾をクンと掴んだ。

「アレク兄ちゃん、この人だれ~?」

 僕の事を見上げ首を傾げているその子を筆頭に、僕の周りにも子供達が集まってくる。

「もしかして、アレク兄ちゃんの恋人?」
「そうなの~?」

 興味津々といった様子で覗き込んでくる子供達と慌てる僕の様子に、アレクさんは笑いながら口を開いた。

「あぁ、オレの恋人。可愛いだろ?」


「「「えぇ~~~っ!?」」」


 その言葉に、子供達の驚いた声が辺り一帯に響いた。

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