転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀

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第二章 転生するにしても、これは無いだろ!

第二十四話

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 作戦一、ひとまずウルラッド父さんに協力を仰ごう!

 男子高校生であった俺の意識が覚醒して、初めて対面したウルラッド父さんだが、やはり前評判(小説を読んだうえで抱いた印象)に違わず、立派な人格者だったように思う。

 確かに、息子たちやシレーヌ妃への没干渉は否めない。ジルラッドを嫌悪するシレーヌにその世話を任せ、凄まじい迫害の実態について把握することが出来なかったし、生まれた時から母の思想に毒されているベルラッドについてもほとんどノータッチ。

 現代日本における一般的な父親像として見るならば、とてもじゃないが理想とは程遠いだろう。

 しかし、ウルラッド父さんは国王だ。二人の息子だけではなく、国民数百万人の父でもある。家庭の充実と国王としての責務の両立は、とてもじゃないが現実的だとは思えない。

 脱線したが、兎も角、俺がいまのところ頼れるのはこのウルラッド父さんしかいないというわけで。俺は今から、このウルラッド父さんに直談判しに行くところだ。

 名目としては、怪我が無事快癒した報告。母が社交に顔を出している隙をぬって、なんとかかんとかアポを取った。

 相手にしてもらうのがとにかく大変だった。ベルラッド、面白いほど王宮内の人間の信用が無い。

 それだけでなく、俺の周りにいる使用人や側近、世話役などは、母が手配した王妃の手足ともいうべきメンツで固められている。

 俺が自分から王にモーションをかけるなんて不審をたやすく見逃してもらえるはずが無かった。

 そのため、形式上では、王からの呼び出しと言う形での面会だ。それにより、何とか母によるベルラッド完全包囲網を抜け出すまでに至った。

 バカ・デブ・悪ガキとかいうスリーアウトお帰りくださいチェンジ案件である俺をちゃんと相手にしてくれ、協力してくれた総務部なんちゃら局の人たちには感謝してもしきれない。

 家族と話したいだけなのにこんなに大変なもんかって思うだろう。俺も何度も思った。

 とはいえ、父と言っても、相手が王様であることに変わりはない。この国で一番多忙の人といっても過言では無いし、そんな人と謁見となると、様々仰々しい手続きがいるのは当然のこと。

 会いたいからと言って直接部屋に凸かましたりなどすれば大目玉だったろう。よかった慎重に動いて……。

 少し行動を起こすだけでもこんなに大変なのだ、先が思いやられる。俺の人生、果たしてどうなることやら。

 さて、ウルラッド父さんの遣いの人に連れられてきたのは、王様の部屋ではなく、王城の敷地内にある広大な草原だった。どうやら、今日はウルラッド父さんの趣味の乗馬に連れて行ってもらえることになっているらしい。

 何人かの騎士の人たちがサラブレッドよりもずっと逞しい馬を携えて集まっているところで、やや心細い思いをしながら、ウルラッド父さんの到着を待つ。

「緊張なさっていますか?」

 遣いの人が俺を気遣ってくれる。普通に俺の背丈よりずっと大きい騎士の人たちや馬に囲まれて緊張しない筈がない。

 恥を忍びつつ、やや子どもぶって「ちょっと……」などとはにかんでみせれば、彼は「優しい馬をそろえていますし、もうじき陛下がいらっしゃいますから、ご安心ください」と笑いかけてくれた。

「やあ、待たせてしまったな」

 すっかり遣いの人と打ち解けて話していれば、時間の経過なんてあっという間で。そう待った感覚もないまま、ウルラッド父さんがそんな声といっしょに登場した。

「お父さま、今日はお時間を取ってくださりありがとうございます」

「ベルラッド、そう畏まらず、楽にしなさい。息子から会いたいと言われて喜ばない父はいないさ」

 ウルラッド父さんはそう言って俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。くすぐったいが、とても快い。あの母のような陰湿さなど全く無く、純粋な嬉しさが湧き上がってきた。

「それじゃあ早速行こうか。ベルラッドは馬に乗るのは初めてか?」

「あ、はい。お母さまが危ないからと……」

「そうか……じゃあ、今日は私と二人乗りをしような。危なくないように」

「はい!」

 ウルラッド父さんは馬に跨り、俺に向かって手を差し伸べる。

 空前絶後のハイパーイケメン最強主人公ジルラッドは、このウルラッド父さんと瓜二つに成長するのだという。

 小説でも折々、ジルラッドの容姿からウルラッド父さんを懐かしむ登場人物たちの描写が挟まれていたことを覚えている。

 つまり、何が言いたいかというと、ウルラッド父さんは、まともには考えられないほどの、輝けるハンサムガイなのである。

 馬の上から陽光を背に俺にカラッと笑いかけて「大丈夫だ、おいで」と言ってくる彼の姿に、俺は腰が抜けそうになった。

 わァ、ぁ……え、なに、めちゃくちゃカッコいい……もしかして、これが、脳を灼かれてるって……コト!? こんなんさァ!! 絶対アレじゃん、歴史に名を残す王様のさァ、カリスマってやつじゃん!!

 ハッ、まずい、このままでは、「はわわ……しゅごぉ……メス堕ち不可避……」なんてクソ気持ち悪い妄言を吐いてしまう。SAN値チェック、SAN値チェック。

 いやでも目を惹く彼の見事なご尊顔から、ものすごく苦心しつつ目をそらし、俯きがちにワタワタとその手を取る。見るに耐えないほどの挙動不審だっただろう。舌を噛み切って全てにお詫びしたい気持ちしかない。

 さて、俺は9歳の標準からすれば大層太ましい体型をしている。道理、その体型に見合ったそれなりのウエイトがあるはず。それなのに、ウルラッド父さんは俺の体重なんかものともせず軽く片腕で持ち上げてみせた。

 いや、こんなん、無理やんか……老若男女即堕ち不可避案件ですやんか!! 

 そんなことをぐるぐると考えている間に、俺を後ろから包み込むように手綱を握ったウルラッド父さんは、馬の腹を軽く蹴った。すると、馬はゆっくり歩行を始める。

 9歳児にしては体重が重い筈の俺と、筋骨たくましい父さんを乗せて大丈夫なのだろうかと一瞬思ったが、そういえば、ばん馬などはレースで最高1トンのそりをひくらしい。

 サラブレッドとばん馬のあいの子っぽいこの馬ならきっと、100キロの重りを乗せてパカポコ歩くくらいならへいちゃらなのかもしれないな。

 エ……? なにここ、もしかして、人といい馬といい、俺以外はイケメンしかいない系? 空気読んで今すぐ帰った方がいい気までしてきたぞ。まあしかし、目的を果たすまでは、帰りたくとも帰れないのだ、許せ。

 馬の背中の上、そして、ウルラッド父さんの腹筋を背にする。そんなイケメン包囲網には、とてつもない安心感と包容力があった。

 これからウルラッド父さんに話さないといけないことがことであるから、俺はとにかく緊張しきりだった。

 バタフライエフェクトだとか、予定調和だとか、パラドックスだとか……ライトがつくとはいえ、オタクなら必修科目。

 決まったストーリーが存在するところを、大きく覆してしまって、どんな影響があるかなんて、俺の頭では想像も及ばない。

 でも、この安心感ならば、大丈夫かもしれない、なんて思えてしまう。

 悪女の謀略により、いずれは毒殺されてしまう登場人物とはいえ、流石は主人公の父親だ。悪の愚王と成り果ててしまう誰かさんとは、器が違いすぎる。

 天地がひっくり返っても、ベルラッドなんかに王様なんて務まらないな、なんて、ほろ苦い感慨が込み上げてくるのを噛み殺しながら、俺はこっそりため息をついた。
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