47 / 62
第四章 ラスボスにしたって、これは無いだろ!
第四十七話
しおりを挟む
「ディザリオレラぁ!? あそこにはこの国の人口の半分にも及ぶ数の魔獣が巣食っているんだよ、いくらあの女でも、そんな群生地に足を踏み入れれば、ひとたまりもなく捕食されておしまいじゃないか、流石に!」
「そうならそれでいい。でも、あの人の執念なら、どんなに迂遠な手を使っても、ことを成し遂げるだろう。アンタも言ってただろ、あの母親はきっと、いまも国家転覆の機会をうかがっているに違いないって。もし、この5年間、少しずつ、魔獣たちを支配下におさめていったのだとしたら? あの母親が魔獣の軍勢を率いて襲撃を画策したなら、間違いなく、この国は想像もつかないほどの被害を受けることになる……!」
バチンと一閃、スパーク音が鳴り、俺とミュルダールが咄嗟にそちらを振り向くと、そこには、剣呑な光を紫眼に宿したジルラッドが立っていた。
「話は聞いていました。誰よりもあの女の思考回路を理解している兄上がそうおっしゃるのです。調査に踏み出す理由としては十分でしょう」
あまりに話が早すぎる。その早さときたら、俺たちの方が置き去りにされてしまうほどで、俺とミュルダールは数秒ほど顔を見合わせた後、やや冷や汗をかきながら再びジルラッドを見た。
「いやいやいや、待ちたまえよ、殿下。そもそも君、今は枢機卿との会談中じゃなかったかな?」
「化石のような脳みそをした老害との長話よりも、こちらの話の方が重要だと判断したまでだが」
「それはそうだがね、だからって、君、あの忌み地にどうやって調査隊を派遣しようというんだい? 生きて帰ってこれる保証など全くない調査だ、誰に命じたって、辞表が返ってきておしまいだよ」
「……? なぜ、誰ぞ派遣する前提で話している? 私が行くに決まっているだろう」
「「なんて!?」」
めちゃくちゃ危険であることが担保されている場所に、王太子自ら出向くだなんて。器が大きいことで有名な、さしものウルラッド陛下でも、間違いなく首を横に振るだろう。
まさか、ジルラッドがこんなにも気が早いものとは思ってもみなかった。まあでも、この子だって、あの母親に散々虐げられて育ったからなぁ、積もる恨みも人一倍ということか。
「……ジル、元々そのつもりだったけど、君が行くなら尚更、俺も行くぞ」
おもむろに立ち上がりつつ、俺は真っ直ぐにジルラッドを見据えた。
ジルラッドはやる(殺る)気に満ち溢れた瞳から一転、虚を突かれたように目を見開く。なんでや、俺も行くに決まってるじゃんか。
まあ、本当はミュル叔父を引きずって二人で行こうと思ってたんだけど。
正直、あの母親のことで、これ以上ジルラッドの手を煩わせたくないって思っていることに、今も変わりはないんだよな。ジルラッドがどんなに最強でも、兄貴としては、可愛い弟に危ない目に遭って欲しくないし。
え? ミュル叔父はどうなんだって? どんな目に遭わせても、俺が死なせないから大丈夫っしょ! まかセロリ!
「それはダメ、駄目です! 兄上を魔獣の巣窟などに連れて行くわけにはいきません。どうか、何も心配召されず、ここで待っていてくださいませんか」
「いいや、俺は宝箱に仕舞われているだけの男じゃない。殴る蹴るなどの暴行も出来ないことは無い聖者だということを王宮の人たちに証明してやるのさ!」
どれ、見てみなさいこの力こぶを! カッチカチ、ではないけど! 光魔法を応用して筋繊維を脱法超回復してやりつつ、拳を叩きこめば、セイントパワーか何かしらで魔獣も吹き飛ぶんじゃないかな! パワー! ヤー!
うん、イメトレ(だけ)は完璧。大丈夫、大丈夫……多分。心の中のき〇にくんも笑顔で頷いていますしおすし。
「兄上……そうやって、兄上はすぐ無理をなさるから、僕は生きた心地がしないんです……」
「そんな言われても、ジルに全部丸投げだけは嫌だもんね。それに、君の傍にいるのが世界で一番安全だろ? 俺もジルが怪我したらすぐに治癒できる方が安心だし、死んでも足手まといにはならないからさ」
ジルに言ったら怒るだろうけど、絶対に死なない肉壁兼肉枷なら任せてほしい。何なら、目玉おやじサイズまで縮んでポータブルヒーラーにだってなれるんだぜ? ポ〇モンならぬポケ兄、どう、便利じゃね?
しかし、なおも渋面のジルラッドは、足手まといなんていくらでもなってくれていいから、死ぬことだけはやめてくれ、と言った。まるで置いていかれた仔犬のような顔をして、俺をここに置いて危険な場所に行こうとするのだから、不思議なことである。
「兄上が望んでくださるなら、傷一つ負わず帰還してみせます。だから……」
「多分ガチで出来るんだろうからすげえよな……でも、それでも、俺は行くよ。俺の母親のことだから……俺が、落とし前つける」
それは、それだけは、譲れない。きっと、主人公のジルラッドなら、あの母親や、幾万幾百万の魔獣を相手にしても、傷一つ負わず、俺の下に帰ってきてくれるのだろう。でも、それで清算できるのは、ジルラッドとあの母親との確執だけであって、俺とあの母親の因縁は、俺の中にずっと残り続けるだろう。
他でもない、俺自身が、あの母親への恐れを乗り越えないといけないのだ。そうでなければ、おれはきっと、ジルラッドが俺に齎してくれる幸せを、抱えきれずに取りこぼしてしまうだろうから。
「……それなら、僕は、片時も貴方の傍を離れず、お守りしたい。お許しくださいますか」
「ああ、分かった。絶対に傍を離れないって約束する。俺も君の力になろう」
「兄上が傍にいてくださるのです。それだけで、僕は、何者にも負けない剣士になれましょう」
どこか恍惚めいた瞳を細め、ジルラッドは凛々しく微笑んだ。まるで、この時をずっと待ち詫びていたと言われているようで、何とも面映ゆいことだった。
「そうならそれでいい。でも、あの人の執念なら、どんなに迂遠な手を使っても、ことを成し遂げるだろう。アンタも言ってただろ、あの母親はきっと、いまも国家転覆の機会をうかがっているに違いないって。もし、この5年間、少しずつ、魔獣たちを支配下におさめていったのだとしたら? あの母親が魔獣の軍勢を率いて襲撃を画策したなら、間違いなく、この国は想像もつかないほどの被害を受けることになる……!」
バチンと一閃、スパーク音が鳴り、俺とミュルダールが咄嗟にそちらを振り向くと、そこには、剣呑な光を紫眼に宿したジルラッドが立っていた。
「話は聞いていました。誰よりもあの女の思考回路を理解している兄上がそうおっしゃるのです。調査に踏み出す理由としては十分でしょう」
あまりに話が早すぎる。その早さときたら、俺たちの方が置き去りにされてしまうほどで、俺とミュルダールは数秒ほど顔を見合わせた後、やや冷や汗をかきながら再びジルラッドを見た。
「いやいやいや、待ちたまえよ、殿下。そもそも君、今は枢機卿との会談中じゃなかったかな?」
「化石のような脳みそをした老害との長話よりも、こちらの話の方が重要だと判断したまでだが」
「それはそうだがね、だからって、君、あの忌み地にどうやって調査隊を派遣しようというんだい? 生きて帰ってこれる保証など全くない調査だ、誰に命じたって、辞表が返ってきておしまいだよ」
「……? なぜ、誰ぞ派遣する前提で話している? 私が行くに決まっているだろう」
「「なんて!?」」
めちゃくちゃ危険であることが担保されている場所に、王太子自ら出向くだなんて。器が大きいことで有名な、さしものウルラッド陛下でも、間違いなく首を横に振るだろう。
まさか、ジルラッドがこんなにも気が早いものとは思ってもみなかった。まあでも、この子だって、あの母親に散々虐げられて育ったからなぁ、積もる恨みも人一倍ということか。
「……ジル、元々そのつもりだったけど、君が行くなら尚更、俺も行くぞ」
おもむろに立ち上がりつつ、俺は真っ直ぐにジルラッドを見据えた。
ジルラッドはやる(殺る)気に満ち溢れた瞳から一転、虚を突かれたように目を見開く。なんでや、俺も行くに決まってるじゃんか。
まあ、本当はミュル叔父を引きずって二人で行こうと思ってたんだけど。
正直、あの母親のことで、これ以上ジルラッドの手を煩わせたくないって思っていることに、今も変わりはないんだよな。ジルラッドがどんなに最強でも、兄貴としては、可愛い弟に危ない目に遭って欲しくないし。
え? ミュル叔父はどうなんだって? どんな目に遭わせても、俺が死なせないから大丈夫っしょ! まかセロリ!
「それはダメ、駄目です! 兄上を魔獣の巣窟などに連れて行くわけにはいきません。どうか、何も心配召されず、ここで待っていてくださいませんか」
「いいや、俺は宝箱に仕舞われているだけの男じゃない。殴る蹴るなどの暴行も出来ないことは無い聖者だということを王宮の人たちに証明してやるのさ!」
どれ、見てみなさいこの力こぶを! カッチカチ、ではないけど! 光魔法を応用して筋繊維を脱法超回復してやりつつ、拳を叩きこめば、セイントパワーか何かしらで魔獣も吹き飛ぶんじゃないかな! パワー! ヤー!
うん、イメトレ(だけ)は完璧。大丈夫、大丈夫……多分。心の中のき〇にくんも笑顔で頷いていますしおすし。
「兄上……そうやって、兄上はすぐ無理をなさるから、僕は生きた心地がしないんです……」
「そんな言われても、ジルに全部丸投げだけは嫌だもんね。それに、君の傍にいるのが世界で一番安全だろ? 俺もジルが怪我したらすぐに治癒できる方が安心だし、死んでも足手まといにはならないからさ」
ジルに言ったら怒るだろうけど、絶対に死なない肉壁兼肉枷なら任せてほしい。何なら、目玉おやじサイズまで縮んでポータブルヒーラーにだってなれるんだぜ? ポ〇モンならぬポケ兄、どう、便利じゃね?
しかし、なおも渋面のジルラッドは、足手まといなんていくらでもなってくれていいから、死ぬことだけはやめてくれ、と言った。まるで置いていかれた仔犬のような顔をして、俺をここに置いて危険な場所に行こうとするのだから、不思議なことである。
「兄上が望んでくださるなら、傷一つ負わず帰還してみせます。だから……」
「多分ガチで出来るんだろうからすげえよな……でも、それでも、俺は行くよ。俺の母親のことだから……俺が、落とし前つける」
それは、それだけは、譲れない。きっと、主人公のジルラッドなら、あの母親や、幾万幾百万の魔獣を相手にしても、傷一つ負わず、俺の下に帰ってきてくれるのだろう。でも、それで清算できるのは、ジルラッドとあの母親との確執だけであって、俺とあの母親の因縁は、俺の中にずっと残り続けるだろう。
他でもない、俺自身が、あの母親への恐れを乗り越えないといけないのだ。そうでなければ、おれはきっと、ジルラッドが俺に齎してくれる幸せを、抱えきれずに取りこぼしてしまうだろうから。
「……それなら、僕は、片時も貴方の傍を離れず、お守りしたい。お許しくださいますか」
「ああ、分かった。絶対に傍を離れないって約束する。俺も君の力になろう」
「兄上が傍にいてくださるのです。それだけで、僕は、何者にも負けない剣士になれましょう」
どこか恍惚めいた瞳を細め、ジルラッドは凛々しく微笑んだ。まるで、この時をずっと待ち詫びていたと言われているようで、何とも面映ゆいことだった。
234
あなたにおすすめの小説
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです!
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる