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【2】明るい場所-①
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風呂から上がったら不思議な香りのするお茶を振舞われ、ゆっくりと飲んでいる間に髪を丁寧に乾かされた。優しく触れる指は、長年染み付いた頭痛まで取り去ってくれるようだった。
「何だか体重が減った気がする」
日影がそう呟いたら折原はちょっと笑い、それから真面目な顔であなたは痩せ過ぎだと言った。
「ちゃんとしたものを食べないと、ちゃんとした身体は作られないからね。ほら、ゆっくりと食べるんだよ」
甲斐甲斐しく世話を焼かれながら、日影は柔らかく煮た豆とご飯のリゾットを食べた。
とてもシンプルな見た目なのに、じんわりと身体に沁み込むように美味しくて、日影の表情が緩んだ。
「コンソメと、チーズの味がする」
「意外と味覚はまともなんだな。うん、ビーフコンソメとチーズのリゾットだよ。コンソメは赤身肉と骨で出汁を取ってるから、牛でもしつこくないだろう?」
「えっ、お前が作ったのか?」
「そうだよ。あなたは丸一日眠っていたから、時間がたっぷりとあったしね」
「仕事は――」
「休みを取った。猫を拾ったから休みますってね」
「猫って何だよ!」
噛み付いてくる日影に折原は笑いながら手を伸ばし、日影の口元に付いた米粒を摘まんで自分の口に入れた。
「それとも子供だったかな? どちらにしても、手が掛かる事に変わりはないでしょ」
「俺は世話なんて頼んで……」
最後まで言えずに日影の語尾が弱々しく消えた。ここまでしてもらっておいて、お前が勝手にした事だろうとは流石に言い辛い。少なくとも自分は彼に救われている。それもかなり現実的にだ。
「お前、なんでそんなに……」
自分に親切にしてくれるのか、とはっきりと訊けなくて目を逸らした日影に、折原は楽しそうに言った。
「ちゃんとお代は貰うから気にしないで」
「お代って、金には不自由してないだろう」
不服そうに唇を尖らせた日影に、折原が頬を寄せて耳元で囁いた。
「お代はあなた自身だよ」
「…………ぇ?」
日影の声が戸惑ったように揺れた。
もしかして、この男は自分に色めいたものを求めているのだろうか?
「おれっは、お前よりずっと年上で、おまけに経験もあまり無くてだなっ!」
アタフタする日影を見て、折原はクスクスと笑った。まだ若い青年なのに、余裕たっぷりで、これではどちらが年上だかわからない。
「そんなに構えなくていいよ。ただ手をつないで寝たり、膝枕をしてもらったり、お休みの挨拶とかそういう可愛らしい事しか考えてないから」
「え、手を繋ぐ? あ……そう」
なんだ自分の早とちりだったのか、とホッとする日影を見て折原はそっと苦笑した。
そんな言い分を簡単に信じたりして、随分と隙があるというかおめでたい人だ。これで良くもこの歳まで無事に生きて来られたものだ。付け込む奴はいなかったのかと、心配になる。
「食べたら何か音楽でも聴こうか。ギターだったら弾いてあげられるけど」
「ギター?」
日影はパッと顔を上げて瞳をキラキラと輝かせた。
ギターは昔ちょっとだけ習っていて、他の生徒に馴染めずに辞めてしまったが、音楽は好きだった。
そんな事もずっと忘れていた。
「あのさ、昔の曲とかも弾ける?」
「多分ね。何が聴きたいの?」
「えっとセロリとか、ライオンハートとか」
「へぇ、意外。うん、弾けると思うよ」
折原は自室からギターを取ってきて、組んだ脚の上にギターを載せると調弦を手早く済ませ、簡単なフレーズを爪弾いた。
「よしっ、と。じゃあ、セロリからね」
彼は軽快に指を走らせ、途中から曲に合わせて歌った。
その午後の陽射しのような明るい伸びやかな声に、彼らしくアレンジされ飛び跳ねる音に、日影の顔が生き生きと輝き出す。
「……楽しい」
にっこりと笑った日影の顔があどけなくて、折原はつと胸をつかれた。
蒼白く、硬く強張った顔をしていた人が、子供のようにあどけなく笑っている。
折原は彼の笑顔を見て、連れて来て良かったと思った。
何曲か続けざまに披露して、日影の目が眠たそうにとろりとしてきたところで寝室に誘った。
「何だか体重が減った気がする」
日影がそう呟いたら折原はちょっと笑い、それから真面目な顔であなたは痩せ過ぎだと言った。
「ちゃんとしたものを食べないと、ちゃんとした身体は作られないからね。ほら、ゆっくりと食べるんだよ」
甲斐甲斐しく世話を焼かれながら、日影は柔らかく煮た豆とご飯のリゾットを食べた。
とてもシンプルな見た目なのに、じんわりと身体に沁み込むように美味しくて、日影の表情が緩んだ。
「コンソメと、チーズの味がする」
「意外と味覚はまともなんだな。うん、ビーフコンソメとチーズのリゾットだよ。コンソメは赤身肉と骨で出汁を取ってるから、牛でもしつこくないだろう?」
「えっ、お前が作ったのか?」
「そうだよ。あなたは丸一日眠っていたから、時間がたっぷりとあったしね」
「仕事は――」
「休みを取った。猫を拾ったから休みますってね」
「猫って何だよ!」
噛み付いてくる日影に折原は笑いながら手を伸ばし、日影の口元に付いた米粒を摘まんで自分の口に入れた。
「それとも子供だったかな? どちらにしても、手が掛かる事に変わりはないでしょ」
「俺は世話なんて頼んで……」
最後まで言えずに日影の語尾が弱々しく消えた。ここまでしてもらっておいて、お前が勝手にした事だろうとは流石に言い辛い。少なくとも自分は彼に救われている。それもかなり現実的にだ。
「お前、なんでそんなに……」
自分に親切にしてくれるのか、とはっきりと訊けなくて目を逸らした日影に、折原は楽しそうに言った。
「ちゃんとお代は貰うから気にしないで」
「お代って、金には不自由してないだろう」
不服そうに唇を尖らせた日影に、折原が頬を寄せて耳元で囁いた。
「お代はあなた自身だよ」
「…………ぇ?」
日影の声が戸惑ったように揺れた。
もしかして、この男は自分に色めいたものを求めているのだろうか?
「おれっは、お前よりずっと年上で、おまけに経験もあまり無くてだなっ!」
アタフタする日影を見て、折原はクスクスと笑った。まだ若い青年なのに、余裕たっぷりで、これではどちらが年上だかわからない。
「そんなに構えなくていいよ。ただ手をつないで寝たり、膝枕をしてもらったり、お休みの挨拶とかそういう可愛らしい事しか考えてないから」
「え、手を繋ぐ? あ……そう」
なんだ自分の早とちりだったのか、とホッとする日影を見て折原はそっと苦笑した。
そんな言い分を簡単に信じたりして、随分と隙があるというかおめでたい人だ。これで良くもこの歳まで無事に生きて来られたものだ。付け込む奴はいなかったのかと、心配になる。
「食べたら何か音楽でも聴こうか。ギターだったら弾いてあげられるけど」
「ギター?」
日影はパッと顔を上げて瞳をキラキラと輝かせた。
ギターは昔ちょっとだけ習っていて、他の生徒に馴染めずに辞めてしまったが、音楽は好きだった。
そんな事もずっと忘れていた。
「あのさ、昔の曲とかも弾ける?」
「多分ね。何が聴きたいの?」
「えっとセロリとか、ライオンハートとか」
「へぇ、意外。うん、弾けると思うよ」
折原は自室からギターを取ってきて、組んだ脚の上にギターを載せると調弦を手早く済ませ、簡単なフレーズを爪弾いた。
「よしっ、と。じゃあ、セロリからね」
彼は軽快に指を走らせ、途中から曲に合わせて歌った。
その午後の陽射しのような明るい伸びやかな声に、彼らしくアレンジされ飛び跳ねる音に、日影の顔が生き生きと輝き出す。
「……楽しい」
にっこりと笑った日影の顔があどけなくて、折原はつと胸をつかれた。
蒼白く、硬く強張った顔をしていた人が、子供のようにあどけなく笑っている。
折原は彼の笑顔を見て、連れて来て良かったと思った。
何曲か続けざまに披露して、日影の目が眠たそうにとろりとしてきたところで寝室に誘った。
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