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本編
2.夜のざわめきと孤独-②
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「にっくぅ~!」
焼き肉が届くと、空気は一気に明るくなった。志貴が豪快に肉を頬張り、燕司が「味わえよ!」と突っ込む。理央も牛タンを噛み締め、久々の肉の味に頬が緩んだ。
(美味しいなぁ。でもなんか、まだ乗れない……)
幸せなのに、自分だけが上手く馴染めていない。一人だけ、遠い。
心がしんとしたまま、どこか寂しい。
「そういや、志貴さん。廉さんはいつ帰ってくるの?」
燕司の問いに、志貴の手が止まった。不意打ちだったみたいだ。
「さぁな。あいつは山に行くと、ろくに連絡も寄越さねぇから。一体、いつ戻ってくるんだか」
諦めたような言葉の奥に、寂しさが垣間見える。理央は慰めたくても、気の利いた言葉が浮かばない。いつもこうだ。置いていかれる。
「だから遠距離恋愛なんてやめちゃえばいいんだよ。俺にしときなって」
燕司が冗談めかして言うと、志貴は蠱惑的な笑みを浮かべ、燕司の頬を指先で撫でた。
「お前に、距離より大きなものを埋められるのか?」
「……狡い」
「大人だからな」
「不器用なくせに」
「うるせ。余計なお世話」
理央は口を挟めず、二人のやり取りを黙って聞いていた。志貴の「不器用さ」に、どこか親しみを覚える。
飲めないコーヒーに魂を込める人。遠くの恋人を待ち続ける人。そのどちらも、理央には理解するのが難しくて遠い。でも不器用なとこは一緒。
「理央、お前は? 恋愛とか面白い話ってないの?」
「えっ……いや、俺、恋愛とか、あんまり……」
「顔が赤いぞ」
志貴にからかわれて、さらに焦る。
恋愛なんて、ろくな経験がない。そもそもあれを恋と呼べるのか……。
理央は過去の惨めな思いが蘇り、必死に笑って誤魔化した。
「人形造りで手一杯で……」
「らしいっちゃ、らしいな」
「焦らなくていいさ。いいやつがそのうち現れる」
志貴の声に、理央の胸がチクリと痛む。その「いいやつ」に彼自身は含まれていない。
わかってる。志貴にとって、自分はただの店の常連客に過ぎない。
夜が更け、居酒屋はますます賑わった。志貴と燕司はパンとコーヒーの話で盛り上がり、理央もぽつりぽつりと会話に加わる。でもどんなに頑張っても、自分は彼らとは違い、面白くなんて話せない。でも人形のことなら、いくらでも語れる。
「次はどんな人形を作るんだ?」
志貴に問われ、理央は目を輝かせて答える。
「コーヒーの香りが漂う、ミステリアスなやつ!」
「へぇ、見てみたいな。出来たらカフェに持ってこいよ。飾ってやる」
志貴の笑顔に理央の胸が高鳴る。
きっと人形は、今の理央の心を映して大人の男性になるだろう。それを見たら、志貴が自分の気持ちに気づくかもしれない。そんな他愛ない妄想で浮かれる。
けれど理央がやっと馴染んできた頃、飲み会は終わりを告げる。いつも自分だけ、人よりもテンポが遅い。
居酒屋を出ると、夜風が冷たく顔を撫でた。三人は並んで歩き、三叉路で別れる。
「また明日な」
「次はパンも、口説くのもリベンジするから!」
「……また、カフェで」
帰宅した理央は、ナナちゃんを膝に抱いてベッドに横たわる。
目を閉じれば、志貴のくだけた格好や甘く煌めく笑顔が蘇る。
素敵だったあの人と、ほんの少しの影。寂しそうなあの人に、俺は何も言えなかった。
賑やかな場所に萎縮して、口籠る自分が情けない。
次はもっと気の利いたことを言いたい。
あの人を慰めて、助けとなれる、頼りにされるような存在になりたい。
『理央は凄いな』
その一言が、欲しかった。
理央は貰えなかった言葉を抱いて、眠りに就いた。
一方その頃、志貴はなかなか眠れずにいた。
焼き肉が届くと、空気は一気に明るくなった。志貴が豪快に肉を頬張り、燕司が「味わえよ!」と突っ込む。理央も牛タンを噛み締め、久々の肉の味に頬が緩んだ。
(美味しいなぁ。でもなんか、まだ乗れない……)
幸せなのに、自分だけが上手く馴染めていない。一人だけ、遠い。
心がしんとしたまま、どこか寂しい。
「そういや、志貴さん。廉さんはいつ帰ってくるの?」
燕司の問いに、志貴の手が止まった。不意打ちだったみたいだ。
「さぁな。あいつは山に行くと、ろくに連絡も寄越さねぇから。一体、いつ戻ってくるんだか」
諦めたような言葉の奥に、寂しさが垣間見える。理央は慰めたくても、気の利いた言葉が浮かばない。いつもこうだ。置いていかれる。
「だから遠距離恋愛なんてやめちゃえばいいんだよ。俺にしときなって」
燕司が冗談めかして言うと、志貴は蠱惑的な笑みを浮かべ、燕司の頬を指先で撫でた。
「お前に、距離より大きなものを埋められるのか?」
「……狡い」
「大人だからな」
「不器用なくせに」
「うるせ。余計なお世話」
理央は口を挟めず、二人のやり取りを黙って聞いていた。志貴の「不器用さ」に、どこか親しみを覚える。
飲めないコーヒーに魂を込める人。遠くの恋人を待ち続ける人。そのどちらも、理央には理解するのが難しくて遠い。でも不器用なとこは一緒。
「理央、お前は? 恋愛とか面白い話ってないの?」
「えっ……いや、俺、恋愛とか、あんまり……」
「顔が赤いぞ」
志貴にからかわれて、さらに焦る。
恋愛なんて、ろくな経験がない。そもそもあれを恋と呼べるのか……。
理央は過去の惨めな思いが蘇り、必死に笑って誤魔化した。
「人形造りで手一杯で……」
「らしいっちゃ、らしいな」
「焦らなくていいさ。いいやつがそのうち現れる」
志貴の声に、理央の胸がチクリと痛む。その「いいやつ」に彼自身は含まれていない。
わかってる。志貴にとって、自分はただの店の常連客に過ぎない。
夜が更け、居酒屋はますます賑わった。志貴と燕司はパンとコーヒーの話で盛り上がり、理央もぽつりぽつりと会話に加わる。でもどんなに頑張っても、自分は彼らとは違い、面白くなんて話せない。でも人形のことなら、いくらでも語れる。
「次はどんな人形を作るんだ?」
志貴に問われ、理央は目を輝かせて答える。
「コーヒーの香りが漂う、ミステリアスなやつ!」
「へぇ、見てみたいな。出来たらカフェに持ってこいよ。飾ってやる」
志貴の笑顔に理央の胸が高鳴る。
きっと人形は、今の理央の心を映して大人の男性になるだろう。それを見たら、志貴が自分の気持ちに気づくかもしれない。そんな他愛ない妄想で浮かれる。
けれど理央がやっと馴染んできた頃、飲み会は終わりを告げる。いつも自分だけ、人よりもテンポが遅い。
居酒屋を出ると、夜風が冷たく顔を撫でた。三人は並んで歩き、三叉路で別れる。
「また明日な」
「次はパンも、口説くのもリベンジするから!」
「……また、カフェで」
帰宅した理央は、ナナちゃんを膝に抱いてベッドに横たわる。
目を閉じれば、志貴のくだけた格好や甘く煌めく笑顔が蘇る。
素敵だったあの人と、ほんの少しの影。寂しそうなあの人に、俺は何も言えなかった。
賑やかな場所に萎縮して、口籠る自分が情けない。
次はもっと気の利いたことを言いたい。
あの人を慰めて、助けとなれる、頼りにされるような存在になりたい。
『理央は凄いな』
その一言が、欲しかった。
理央は貰えなかった言葉を抱いて、眠りに就いた。
一方その頃、志貴はなかなか眠れずにいた。
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