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81.ロクの狂気−2
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『チヤ様、白妙も一緒』
「ん? そうか、一緒にいてくれるのか。うん、嬉しいけどシーツの隙間から出てくるのは止めろ? お前たちがいつも近くにいるのは知ってるけど、プライベートは尊重してくれなくちゃ駄目だぞ」
『わかった』
本当にわかったのか怪しいが、大人しくスルスルと消えたので良しとする。
「まぁ、光のことはこれ以上はわからないから置いておくよ。いきなり竜になるとも思えないしね。それよりも俺はちっこい神様に約束した対価を探さないといけない。それから国王をだま――納得させる秘薬の開発もしなくちゃいけないしね」
「秘薬など本当に作れるのか?」
「多分、プロテインに近いものは作れると思う」
「プロテイン?」
「身体をムキムキにする栄養ドリンクだよ。同じ鳥型だし、アーロンに実験台になって貰おうかな」
「チヤ、ベッドで他の男の名前を呼ぶのはアウトだ」
ロクの低い声が耳をくすぐって、心臓がギクリと竦み上がる。
こんな芝居がかったセリフを聞く日が来るとは思わなかったし、それを聞いて笑うどころか本気で焦るなんて思わなかった。
「ロク? 今のはほら、真面目な会話だし、俺はアーロンは寧ろ苦手で――」
「二度目だ」
「んえ?」
「二度も他の男の名前を聞かされて、私はかなり頭にきている」
いやいや、すっげー余裕な態度ですけど?
「チヤ、宥めてくれるな?」
「……」
俺は頷かないつもりだった。だって神薬を飲んだからって、ダメージは残ってないからってもう無理だ。絶対にもう一回なんて出来ない。なのに――。
「抱きつくだけじゃ駄目?」
なんて日和ったことを言って、当然ながら駄目だと言われる。
そして逃げようとした身体を後ろから絡め取られ、俺はまんまとロクに喰われてしまった。
「ロク、怒ってるなんて嘘だろ……」
「ああ、嘘だ。だが、お前を喰い足りないのは本当だ」
俺はロクの本音に逃げることを諦めた。
きっとロクの狂気が落ち着くまで離して貰えない。
仕方がない。俺はこの世界から消えるという大罪を犯した。
ロクが本当に狂わなかっただけ、良しとしなくては。
それに俺だって……。
「好きなだけ、喰ってくれ」
俺はいつまで、と考えるのを止めた。
***
五日ぶりに顔を出した俺を、アルテミス嬢が泣きながら抱き締めてきた。
「もう会えないかと思った! 兄様の番だからって、あんまりだわ!」
ギュウギュウと抱きつかれて息が苦しい。
でも気持ちは嬉しい。
「アルテミス嬢、俺も会えて嬉しいです」
「イチヤ様、どうぞこちらへいらして」
腕を引いてサロンの椅子に座らされる。
うん、一人掛けの椅子が落ち着くわ。
「お疲れでしょうから、甘い物をお持ちしますね。何が良いかしら?」
「何? そんなに沢山あるの?」
「美味しいものをお供えしたら、イチヤ様がお戻りになると思って頑張って作ったのよ」
「俺は神様でもご先祖様でもないよ。でもみんなが作った甘味は食べたいな」
「順番に出すわね」
ウキウキと弾むような足取りで立ち去るアルテミス嬢の揺れる尻を見つめる。
う~ん、いいお尻だ。きっと獣人の女性もさぞ素晴らしいんだろうなぁ。
俺はしなやかな身体にうっとりと見惚れ、やっぱり元の世界よりもこっちの方が良いと改めて思っていたら銀の盆を持ったアルテミス嬢が戻ってきた。
「アルテミス嬢が運んでくれたの?」
「イチヤ様のお顔を一番に見たかったの」
ニコリと笑ったアルテミス嬢から銀の盆を渡される。
覆いを取ったら濃い黄色の玉が出てきて目を瞬いた。
(これは……なに?)
「えっと、アルテミス嬢、これはどういったお菓子でしょうか?」
「召し上がってみて下さい」
食べて当ててみろという乱暴さに腰が引けたけれど、よく考えたら俺がこっちの人たちに食べさせていた甘味だって全て初見のものだった筈だ。
(見慣れないから食べれないなんて言えないよな)
俺は思い切って黄色い玉を口に入れた。
もちゃっとした歯応えと、口いっぱいに広がる濃厚な卵の旨味。
これって卵の砂糖漬けかぁ!
「うわ、上品だね~」
こっちの世界の卵なので相当に癖のある食材だったけど、砂糖漬けにしたら不思議と高貴な味になっている。
中国の塩漬け卵入りの月餅に少し味が似ている。
「美味しいですか?」
「うん、凄く美味しい!」
「良かった……」
アルテミス嬢は俺の答えを聞いて心底ホッとしたって笑みを溢した。
そしてこれで少しはホッとしたと言った。
彼女は俺にこの世界にいて欲しいと願うのに、甘味がまだ乏しいことを気に病んでいたらしい。
やはり向こうの甘味を持たずに戻ってきて正解だった、と俺は満足した。
「ん? そうか、一緒にいてくれるのか。うん、嬉しいけどシーツの隙間から出てくるのは止めろ? お前たちがいつも近くにいるのは知ってるけど、プライベートは尊重してくれなくちゃ駄目だぞ」
『わかった』
本当にわかったのか怪しいが、大人しくスルスルと消えたので良しとする。
「まぁ、光のことはこれ以上はわからないから置いておくよ。いきなり竜になるとも思えないしね。それよりも俺はちっこい神様に約束した対価を探さないといけない。それから国王をだま――納得させる秘薬の開発もしなくちゃいけないしね」
「秘薬など本当に作れるのか?」
「多分、プロテインに近いものは作れると思う」
「プロテイン?」
「身体をムキムキにする栄養ドリンクだよ。同じ鳥型だし、アーロンに実験台になって貰おうかな」
「チヤ、ベッドで他の男の名前を呼ぶのはアウトだ」
ロクの低い声が耳をくすぐって、心臓がギクリと竦み上がる。
こんな芝居がかったセリフを聞く日が来るとは思わなかったし、それを聞いて笑うどころか本気で焦るなんて思わなかった。
「ロク? 今のはほら、真面目な会話だし、俺はアーロンは寧ろ苦手で――」
「二度目だ」
「んえ?」
「二度も他の男の名前を聞かされて、私はかなり頭にきている」
いやいや、すっげー余裕な態度ですけど?
「チヤ、宥めてくれるな?」
「……」
俺は頷かないつもりだった。だって神薬を飲んだからって、ダメージは残ってないからってもう無理だ。絶対にもう一回なんて出来ない。なのに――。
「抱きつくだけじゃ駄目?」
なんて日和ったことを言って、当然ながら駄目だと言われる。
そして逃げようとした身体を後ろから絡め取られ、俺はまんまとロクに喰われてしまった。
「ロク、怒ってるなんて嘘だろ……」
「ああ、嘘だ。だが、お前を喰い足りないのは本当だ」
俺はロクの本音に逃げることを諦めた。
きっとロクの狂気が落ち着くまで離して貰えない。
仕方がない。俺はこの世界から消えるという大罪を犯した。
ロクが本当に狂わなかっただけ、良しとしなくては。
それに俺だって……。
「好きなだけ、喰ってくれ」
俺はいつまで、と考えるのを止めた。
***
五日ぶりに顔を出した俺を、アルテミス嬢が泣きながら抱き締めてきた。
「もう会えないかと思った! 兄様の番だからって、あんまりだわ!」
ギュウギュウと抱きつかれて息が苦しい。
でも気持ちは嬉しい。
「アルテミス嬢、俺も会えて嬉しいです」
「イチヤ様、どうぞこちらへいらして」
腕を引いてサロンの椅子に座らされる。
うん、一人掛けの椅子が落ち着くわ。
「お疲れでしょうから、甘い物をお持ちしますね。何が良いかしら?」
「何? そんなに沢山あるの?」
「美味しいものをお供えしたら、イチヤ様がお戻りになると思って頑張って作ったのよ」
「俺は神様でもご先祖様でもないよ。でもみんなが作った甘味は食べたいな」
「順番に出すわね」
ウキウキと弾むような足取りで立ち去るアルテミス嬢の揺れる尻を見つめる。
う~ん、いいお尻だ。きっと獣人の女性もさぞ素晴らしいんだろうなぁ。
俺はしなやかな身体にうっとりと見惚れ、やっぱり元の世界よりもこっちの方が良いと改めて思っていたら銀の盆を持ったアルテミス嬢が戻ってきた。
「アルテミス嬢が運んでくれたの?」
「イチヤ様のお顔を一番に見たかったの」
ニコリと笑ったアルテミス嬢から銀の盆を渡される。
覆いを取ったら濃い黄色の玉が出てきて目を瞬いた。
(これは……なに?)
「えっと、アルテミス嬢、これはどういったお菓子でしょうか?」
「召し上がってみて下さい」
食べて当ててみろという乱暴さに腰が引けたけれど、よく考えたら俺がこっちの人たちに食べさせていた甘味だって全て初見のものだった筈だ。
(見慣れないから食べれないなんて言えないよな)
俺は思い切って黄色い玉を口に入れた。
もちゃっとした歯応えと、口いっぱいに広がる濃厚な卵の旨味。
これって卵の砂糖漬けかぁ!
「うわ、上品だね~」
こっちの世界の卵なので相当に癖のある食材だったけど、砂糖漬けにしたら不思議と高貴な味になっている。
中国の塩漬け卵入りの月餅に少し味が似ている。
「美味しいですか?」
「うん、凄く美味しい!」
「良かった……」
アルテミス嬢は俺の答えを聞いて心底ホッとしたって笑みを溢した。
そしてこれで少しはホッとしたと言った。
彼女は俺にこの世界にいて欲しいと願うのに、甘味がまだ乏しいことを気に病んでいたらしい。
やはり向こうの甘味を持たずに戻ってきて正解だった、と俺は満足した。
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